2005-12-10 法治国家。なのか。
公権力、国家権力って怖いんだな、と思ったニュースがいくつか続いたので、書いときます。
最初は「自衛隊宿舎で反戦ビラをまいた市民団体活動家が住居侵入罪で有罪になった」というニュース。
「住居侵入罪」と聞くと留守中こっそり忍び込んだとか、鍵を壊して押し入ったと思うかもしれませんが、そーではないです。団地ポストにビラを投函したとか、せいぜい各戸の郵便受け、新聞受けにビラを放り込んだ、という話です。
東京でマンションに住んでいると、山ほどチラシが入るでしょ。新聞の折り込みとか郵送されるものじゃなくて、投げ込み屋といわれるアルバイトの人が配ってるもの。あれも本当は「住居侵入罪」です。マンションの敷地に、合意無く、多くの場合「居住者等以外入るな」という表示があるのに、入って配ってる。本当は同じ罪です。だけど普通、そういうことで逮捕されたり起訴されたりはしません。
ところが、行為としては同じでも、ビラの内容がピンクチラシなら捕まらないけど、反戦ビラなら逮捕されます。また、配っている人がアルバイトなら捕まらないけど、“市民団体の人”なら捕まる。警察の動き方は全く違う。
ひどい場合、目を付けられている左系団体の人だと、ずっと尾行されていて、どこかのマンションの玄関ホールに入ったところで、いきなり「住居侵入の現行犯で逮捕する!」とやられるわけです。
これ・・・「法治国家?」って感じがしますよね。本当は、こういう「恣意的な国権発動」はあってはいけないのです。でも実際には、この国の国家権力は極めて恣意的に、独善的にその力を振るいます。
いったん警察に目を付けられたら最後、どこかのマンションの敷地に一歩はいると「住居侵入罪」、何かを予約したり応募する時に友達の住所や名前を使うと「私文書偽造罪」、どこかの壁に「反戦!」のポスターを貼ったりすると「器物損壊罪」となります。
仮名なんて使ったことがない人もいるのでしょうが、不倫旅行で偽名で泊まる人や、フリーメールアドレスを仮名で取得する人、何かの応募用紙に適当な電話番号を書く人は、少なくないでしょう。こういう場合、警察はその人が“逮捕したい人”であれば逮捕します。これは、法治国家ではありません。
★★★
別のニュース。
六本木のロシア人経営のバーが風営法違反で摘発されたというニュース。「ダンスホールの許可を取っていないのに、客を店内で踊らせた」ということで風営法違反です。バーとして飲食店の許可はあるけど、客を踊らせてはいかん、ということらしい。
そんな店、やまほどあるだろ?って思いません?ところが、このバーだけが摘発されます。
なんで?
このバーでは、一年前に、女子モーグルのメダリスト里谷選手が“店内でセックスした”公然猥褻の疑義、と、それをとがめた店員をけりつけたという暴行罪で、逮捕されてます。さすがに公然猥褻の方は否定してるみたいです。なお里谷選手は、かなり奔放な方のようで、同じような事件が地元北海道でも目撃されています。
この事件で、本来すごい「金になる」ひとりのスポーツ選手の金銭価値、社会価値が大きく損なわれました。ゴルフや卓球、スケートやマラソン選手など女子スポーツ選手は、社会的・経済的価値が非常に大きいんです。でも、里谷選手をCMに使いたい会社はもうないし、当時のスポンサーも怒り心頭でしょう。
その現場となったこのバーが一年後、「酒場なんだから踊ったらダメ」という取るに足りない罪で摘発されたわけです。なんだか「臭う」かんじだと思いませんか?
もうひとつ、大阪の中小のリフォーム屋が摘発されました。理由は、悪徳リフォーム屋であった、ということです。おそらく事実なんでしょう。
これは警察が私たち市民のために、日本に星の数ほどある悪徳リフォーム屋を片端から調べて摘発してくれていた結果なのでしょうか?ちきりんには、彼らは相当の被害の報告がない限り、大半の悪質業者を野放しにしているように思えるのですが。なんでこの会社は特に大きな被害報告もないのに摘発されたのでしょう?
その1年前、中国のホテルで、日本から社員旅行に行っていた団体が、集団でホテルに中国人女性を呼び売春しようとした、というニュースがありました。中国は最近これ系の犯罪にとても厳しく(おとり捜査もやってますから、皆さんご注意を)、ホテルも女性も斡旋業者も、みんな中国当局に一網打尽で逮捕されました。
しかし、客であった日本からの団体旅行客にはお咎めなしです。政治的にも法律的にも、中国当局が「日本からの観光客」をいきなり逮捕はできない。そんなことしたら、日本からの観光客がこなくなります。なので客であった日本人だけは無罪放免。
しかし、その裏には「それは日本の警察側でちゃんとやってね」という暗黙の了解があった。
しかし日本側も「社員旅行で中国に行き、宴会にコンパニオンを呼んで、自分の部屋に誘った」件で、いきなり彼らを逮捕するわけにもいかない。罪の軽重ではなくテクニカルに「この事件での逮捕は難しい」と判断した。ただ、中国との暗黙の了解において、もしくは、国家のメンツにおいて?、なんらか、この会社を摘発する必要がある。
そうです。一年前に中国に団体旅行に行っていたのは、今回悪徳リフォーム業者として「詐欺罪」「訪問販売規制法」で摘発されたこの会社(の社員旅行)だったのです。
どう思います?
★★★
悪い奴はどんどん逮捕すればいい、とも思うけど、あまりに恣意的な臭いのする公権力の発動には、やっぱりちょっと疑問をもっているちきりんです。
反戦ビラだと逮捕される、同じ行為をしても「戦争大賛成!」のビラだったら逮捕されない。そういうことってあっていいのかしら?これじゃあ、戦前の「特高」そのものですよね。法律の恣意的な運用は、「いつ自分に矛先が向けられるかわからない」わけです。何かのきっかけで、一個人が公権力に目を付けられたら、逮捕も拘束も意のままだとしたら・・・
ちょっと怖いよな。
と思えるニュースでありました。
かば 2005/12/11 23:06 う〜〜ん,確かに,これは法治国家じゃない。
「住居侵入罪」「私文書偽造罪」「器物損壊罪」・・・これ以外にアブナイのは道路交通法違反ですね。クルマを運転しないまでも,道路の左側を歩いたり,横断歩道をハミ出して横断するとアブナイかも。
ちきりん 2005/12/12 17:33 でしょでしょ。
最近話題の欠陥マンション問題ですが、黒幕と言われている内川(?)氏という人が、先日「離婚」しました。賠償請求から財産を守るための偽装離婚でしょう。でも・・・おそらく近いうちに税務調査が入り(自営業で脱税してない事務所は無いです。)、「悪質な脱税」などで逮捕(追徴課税)されると思います。
結局のところ、法律が現実についていけない、ということかなとも思います。難しいですね。
貫一郎 2009/03/20 12:34 こんにちはー。
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20050524
こちらにもコメントしましたが、実際「何か」が駄目って判断したものは、何でも潰すことができるのが今の日本ですよね。
調子に乗って、睨まれちゃいけないってこと。
ホリエモンも、警察官僚を敵に回してしまったのが運の尽きという気もします。
まあどういうシステムも、それに対する「乗りよう」なのでしょうが、、、
私も気をつけねば。