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連合の外国人労働者問題に関する当面の考え方


このコーナーの目次


I.はじめに

 「グローバル化」が進む中、国境を越えた商品や資本などの「モノの移動」にとどまらず、「人の移動」も劇的に進行している。この動向は今後一層盛んになることは明白であり、日本にもこの流れは確実に押し寄せている。
日本国内では、国際的な人の移動について多くの議論がわき起こっている。まず、少子高齢化が急激に進展する中で、今後減少が予想される労働力に対してどう対応するか、注目が集まっているのである。労働力不足を外国人労働者で補うことの当否をめぐる議論がマスコミ等でクローズアップされ、日本経団連や日本商工会議所は、特別の知識や技能、熟練を必要としない労働(以下、「単純労働」とする)は特に人手不足となる、として、外国人を単純労働に受け入れるべき、と要求している。
また、モノやサービスに関する自由貿易協定(FTA)だけでなく、人の交流なども含む経済連携協定(EPA)の交渉が進展していることもある。日本はアジア諸国から労働者受け入れを強くせまられており、人の移動についても大きな焦点になっている。
しかし、「人の移動」は「モノの移動」とは基本的に性格が異なる。その理由は、文化の異なる人間同士が接触することによって生じがちな生活上の摩擦から、国家の在り方についてまで、人の移動は多様で非常に幅広い問題を引き起こすからである。

 連合は、民間連合時代の1988年に「外国人労働者受け入れにあたっての前提および判断基準についての考え方」で、「外国人労働者の受け入れについては、専門的な知識・技術・技能を必要とする職種に限定し、国内雇用の調和と国民的合意を原則とする」との内容を確認し、1989年の連合結成の際に再確認した。しかし、現在の世界と日本の人の移動をめぐる状況は88年当時から比べると激変しており、外国人労働者をめぐる議論は新たな段階を迎えている。
そこで連合は、この間の世界と日本の動きをふまえ、新たに「外国人労働者問題に関する当面の考え方」を取りまとめ、提言する。

II.外国人労働者に関する現状

1.日本の外国人労働者受け入れ制度の概要

(1)外国人が日本に在留して就労するためには一定の在留資格が必要であることが、「出入国管理及び難民認定法」(以下、「入管法」と略称)で定められている。入管法は1951年に制定され、1989年に大きな改正があり、現在の在留資格27種類が整備された。具体的には、芸術、医療、留学などの「活動に基づく資格」と、永住者とその配偶者、日本人の配偶者等、日系人などの定住者の「身分・地位に基づく資格」に分かれ、「身分・地位に基づく資格」であれば、原則として就労は制約を受けない。
(2)「資格外就労」とは、[1]日本に不法に入国したり、在留期間を超えて不法に残留したりするなどして、正規の在留資格を持たない外国人が行う就労、[2]正規の在留資格を持つ外国人でも、資格外活動許可を受けないで、その許可の範囲を超えて行う就労、をいう。
(3)89年改正以前の入管法は、外国人の就労について、日本人や永住者の配偶者や子である場合をのぞけば、「研修」「技術提供」「熟練労働」や日本では代替できない高度の技術・技能職に在留資格を限り、単純労働が可能な在留資格は認めていなかった。しかしながら、日本経済の急成長にともない、日本国内で資格外の就労をおこなう外国人労働者が急増し、とりわけ単純労働に集中する事態が発生した。そのため政府は、1989年に入管法を改正し、単純労働が可能な在留資格は引き続き認めないものの、改正以前の在留資格を拡充整備し、禁止される資格外活動を明確化するとともに、違反した者に対する退去強制手続および罰則規定を整備した。罰則のうち重要なのは、資格外就労をあっせんする業者と資格外就労者の雇用主に対する「不法就労助長罪」を設けたことである。

2.我が国の外国人労働者に対する政策と外国人労働者の概況

(1)入管法違反を含むすべての外国人労働者の推計は、1990年には26万人であったが、2002年には76万人にまで増加しており、多くの外国人労働者が日本に定着し始めている。
(2)我が国の外国人労働者受け入れの基本的考え方を示す「第9次雇用対策基本計画」(1999年閣議決定)では、専門的・技術的分野の外国人受け入れを積極的におこなうとしたが、専門的・技術的分野の外国人労働者は、2002年には約18万人と外国人労働者の総数76万人に比して少なく、受け入れは進んでいない。
(3)現実には、政府の外国人労働者受け入れの考え方とは反対の事態が進行している。日本では、有期、パート、派遣、請負などの非典型労働者が増えており、これらの労働者はいわゆる「正社員」と比較すると賃金などの労働条件も不十分で、労働組合組織率も極めて低い。日本の雇用の階層化・二極化が進む中で、日系人、資格外就労の外国人、技能実習生・研修生が日本の雇用の下層部分に組み込まれて、単純労働を担う大きな労働力となりつつある。
(4)日系人は、1990年には7万2000人であったが、2002年には23万4000人にまで激増している。 入管法の89年改正では、[1]引き続き単純労働を可能とする資格を認めず、[2]不法就労の取締りを強化し、[3]「定住者」の在留資格を新設した。89年改正以前から、日本国籍をもつ日系人が日本で就労することは何ら制限がなかったが、入管法改正で日本国籍を持たない日系人が「定住者」の資格で制限のない就労をおこなうことが可能となった。そこにブラジル国内の経済状態悪化などが重なったため、多数の「出稼ぎ」日系人が来日するようになった。
日系人は就労に制限がないといっても、事実上、大多数は製造業の中の単純労働に従事している。また、日本滞在も長期化しているが、キャリアアップの機会は乏しい。すでに日系人が集住(外国人がまとまって居住していること)している地域も形成されている。集住地域では住宅や教育など、次世代にまたがる問題も発生している。
(5)資格外就労の抑制を目的として1989年に入管法が改正されたにもかかわらず「不法残留者」が増えている。「不法残留者」の多くが資格外の就労を行い、事実上は単純労働に集中している。「不法残留者」数は1990年の11万人から2002年には22万人に倍増した。
(6)89年入管法改正直後に「研修生」の受け入れ基準を大幅に緩和し、1993年には1年の研修後さらに最長2年の就労を認める「技能実習制度」を導入して現行の制度となった。しかし、「国際貢献と人材育成」という本来の制度趣旨を歪めて利用されている実態もある。研修・実習の名の下で、単純労働をおこなわせる隠れミノに利用されたり、悪質な受け入れ先や企業により研修生・技能実習生の人権侵害が多発しているという問題もある。

III.外国人労働者に関する連合の基本的考え方

  • 就労資格の有無にかかわらず、日本に居住するすべての外国人労働者の人権を尊重し、労働基本権、日本人と同等の賃金、労働時間その他の労働条件や安全衛生、労働保険の適用を確保する。外国人との共生を目指し、いかなる外国人であっても住宅や公共施設などの社会的インフラを利用できるようにする。
  • 外国人の単純労働を可能とする在留資格、就労資格の緩和はおこなわない。医師や看護師、介護士など法律上我が国の資格を有しなければ就業できない「業務独占資格」については、資格の国家間相互認証はしない。
  • 連合と地方連合会ならびに構成組織・単組は、NPO等と協力し、外国人労働者からの労働相談をおこなう。

1.外国人労働者の人権について

(1)すべての外国人労働者の権利保護について
日本国内で働く者はすべて、労働関係諸法が適用されて適正な労働条件や安全衛生が確保され、労働・社会保険により保護がはかられる。たとえ入管法に違反した資格外就労の外国人労働者であっても、日本人と等しく人権が尊重されることをはじめ、労働関係諸法が適用され労働・社会保険の保護が受けられるのは当然であり、実質的にこれらがおこなわれるよう、必要な体制整備を進める。外国人に対するダブルスタンダードは許さない。
とりわけ、日本国内の労働関係諸法や社会保障関係諸法を外国人労働者にも周知徹底し、外国人労働者の雇用主に対しても、労働関係諸法や社会保険関係諸法を遵守させ、その雇用する外国人労働者に職場の労働条件や安全衛生について説明させる取り組みを、政府は早急におこなうこととする。
(2)資格外就労への対応について
資格外就労に対しては、違法な使用者の摘発を一層強化することで対応する。
(3)外国人との共生を目指す社会について
外国人労働者の就労を法律で制限することは、言うまでもなく、日本社会が閉鎖的であればいいということではない。日本は外国人との共生、異なる文化を柔軟に受け入れる国を目指さなければならない。そのため、日本に居住する外国人が、適正な住宅を確保でき、公共施設等の利用を妨げられないなど、社会的インフラを日本人と同等に利用できるよう、政府は早急に取り組みを開始する。

2.国際的な人の移動のルールについて

(1)「人の移動」のルールについての基本的考え方について
「人の移動」についての政策判断は、当該国・地域の内発的持続的な社会開発・発展が可能となるような中・長期的視野から検討されるべきであり、「送り出し国」の一時的なニーズや「受け入れ国」の労働力需給状況など短期的視野からなされるべきではない。
外国人労働者を受け入れることは、日本社会全体として、国内雇用への悪影響だけでなく、医療や住宅、教育から文化面での摩擦、治安に至るまで、将来にわたり非貨幣面も含め、莫大なコストを負担しなければならないことを十分考慮すべきである。また、「送り出し国」や外国人労働者自身にも大きな影響があることを忘れてはならない。
(2)日本への外国人労働者受け入れについての考え方について
以上から、外国人労働者の受け入れについては、専門的な知識・技術・技能を必要とする職種に限定し、国内雇用の調和と国民的合意を原則とすべきである。また、国内の雇用状況や労働条件等を守るためにも、外国人労働者が日本国民と同等かつ適切な条件で就労できることを前提とすべきである。
外国人の単純労働を可能とする在留資格、就労資格の緩和は行わない。単純労働の外国人については、日本の雇用状況や労働条件等に悪影響を及ぼす可能性があることから、今後も受け入れるべきではない。日本国内では今、非典型労働の拡大と雇用の階層化が進んでおり、安易な外国人単純労働の受け入れは、そうした雇用階層の底辺部として固定化されるおそれがある。また、国内の学卒未就業者や大量のフリーターやニートの問題の解消、高齢者・女性労働力の活用にむけた環境整備など、少子化に伴う労働力不足を外国人で補うという対応以前に、まず国内の雇用状況を改善すべきである。
(3)FTA/EPAについての考え方について
また、現在FTA/EPA交渉で議論中である、医師や看護師といった法律上我が国の資格を有しなければ就業できないいわゆる「業務独占資格」については、相手国の該当資格を相互に認証することはしない。業務独占資格により日本国内で外国人が就労を希望する場合は、日本国内の資格を取得させることとする。ホームヘルパーなど国内の資格制度が未整備なものについては、いわゆる単純労働者との区別が難しいため、受け入れない。

3.連合の取り組みについて

連合と地方連合会ならびに構成組織・単組は、NPO等と協力し、すべての外国人労働者の基本的人権が脅かされることのないよう、外国人労働者からの労働相談をおこなう。さらに、外国人労働者についての組織化も将来の検討課題である。

IV.労働政策に関する個別課題

1.就労資格制度について

  • 現行の在留資格・就労資格を維持する。
  • 現行の「興行」資格は、トラフィッキングや強制労働に繋がるケースもあることから、審査を厳格化する。
  • 奨学金制度を充実させるとともに、就学生・留学生の資格外就労許可を厳格化する。
  • 大臣権限による在留特別許可の付与要件を明確化する。
(1)在留・就労資格についての考え方
わが国の在留・就労資格は、1989年の入管法改正によって大幅に緩和されている。一方で、わが国の雇用環境は依然として厳しく、先進諸外国に比べ、女性の活用などが遅れている現状では、その改善なくして新たに外国人の受け入れ議論を行うべきではない。その前に、技術・技能、経験にすぐれた高齢者の活用や、未熟練若年労働者等が活躍できる雇用環境の改善、技術革新による省力化・効率化、雇用管理の改善等を推進することが重要であり、こうした当面の課題解決が不可欠である。
また、将来的に現状の入管制度の枠組みを超えて外国人労働者を受け入れることは、「国家のあり方に関する将来像」を左右する重要な問題である。例えば、一時的に減少する労働力を補うために外国人労働者を受け入れることは、経済が悪化した場合に大量の失業が発生する可能性があるので、事前に十分な国民的な合意を形成しておく必要がある。
それゆえ、現行の在留資格・就労資格は、これを維持し、その要件も緩和すべきではない。
(2)「興行」資格について
現行の「興行」による在留資格は、トラフィッキングや強制労働に繋がるケースが多くみられることから、審査を厳格化する必要がある。日本にはトラフィッキングという行為そのものを定義し、一般的にこれを違法として禁止する規定がない。そのため、売春周旋者やブローカーに対しては、資格外就労の斡旋に対する罰則のみ適用されるだけで、刑事罰に課せられない場合が多い。そこで、被害者に対するカウンセリングや医療面での保護措置を充実させることと同時に、違法なブローカーの摘発強化が不可欠である。
(3)就学生・留学生の資格外就労許可について
近年、コンビニや居酒屋などで働く多くの外国人就学生・留学生を目にする。就学生・留学生のアルバイトは、資格外活動の許可を受ければ、在留資格に属する活動を阻害しない範囲で、就学生は4時間以内/日、留学生は28または14時間以内/週のアルバイト可能時間が認められている。しかし実態は、日本の物価水準に合わせて生活費を稼ぐために、やむなく複数のアルバイトを掛け持ちするケースもあり、なかには就労を目的とした悪質な就学・留学が後を絶たない。
アルバイト可能時間を越えた就労は、資格外就労であるばかりでなく、「勉学」という本来の目的にも支障をきたすことから、資格外活動許可の審査をこれまでより慎重に行う必要がある。さらには、アルバイトによらずにわが国での就学・留学が可能となるよう、国籍にかかわりなく適用を受けられる奨学金制度を、さらに充実させる必要がある。
(4)大臣権限による在留特別許可について
入管法第24条(退去強制)に該当する外国人への恩恵措置に在留特別許可があるが、その許可を与えるか否かの裁量は、単に違反者の経歴や家族関係等の主観的あるいは個人的事情だけでなく、国際的な情勢や、送還事情、外交政策などを総合的に勘案して決定されることとなっている。現実には主観的・客観的事情は個々に異なり、在留特別許可の許否についての一義的基準はないため、付与要件を明確化する必要がある。
また、滞在期間や犯罪履歴、納税状態等の一定条件で資格外就労者を合法化する「アムネスティー政策」は、すでに大臣権限による在留特別許可の付与が行われていることと、再度の政策実施を期待して、さらなる資格外就労者の入国に繋がる可能性があることから、慎重に対処する必要がある。

2.外国人研修生・技能実習生制度

  • 制度廃止を含めた抜本改革が必要であり、以下の条件を満たす新たな国際貢献の制度を検討する。
  • 研修・実習対象業務は、送り出し国・地域が技術移転を必要とし、その地位で貢献できる技術・技能領域に限定する。
  • 研修・実習の内容は、「国際貢献としての技術移転」という制度の目的を強化するために、技能検定の取得や語学力の向上に重点を置き、同一技術分野での研修・実習を目的とした再入国は、原則として許可しない。
  • 実習内容の決定は、企業に対して、研修期間のみでは取得できない上級技術の実習であることを証明する義務を課す。
  • 企業に対して、研修生・実習生の生活環境の整備、生活費への十分な配慮や、研修生への労災並み保険給付を義務付ける。
  • 物理的・精神的暴力、人権侵害や入管法・労働諸法等に違反した事業所については、以後の研修・実習生の受け入れを禁止する。
  • 強制預金や、監督機関の承認のない研修・実習生に対する課金等は、受入機関・送出機関双方で禁止とし、違反した場合は以後の制度に関与することを禁止する。
  • 研修・実習生の手取り賃金・手当等の労働条件を統一的に調査・管理を行い、違法運営に関するチェック体制を強化する。
(1)外国人研修生・実習生制度の概要
外国人研修生・実習生制度は、日本企業が海外から研修生・実習生を受け入れ、彼らの技術・技能の修得を支援し、各国の経済発展を担う人材育成に協力することを目的とした政府主導の活動で、62職種113作業(2003年11月5日現在)を対象としている。研修生・実習生は、合計で最長3年間、日本企業で研修・実習を受けることができる。
(2)外国人研修生・実習生制度の問題点
この制度は、国際貢献の趣旨に沿って真摯に運用される一方で、制度の趣旨を大幅に逸脱し、単純労働者の受け入れ手段にもなっている。さらに、入管法に抵触するパスポートの取り上げの他に、強制貯金、住宅費・食費の天引き、労働安全衛生上の配慮の欠如や、研修生に対して入管法基準省令(入国手続の保険加入義務)によって義務付けられている保険の未給付等により、研修生や実習生が不安を訴えるケースもある。また、失踪問題のみならず、最低賃金法違反や違法な研修生の残業など、その原因は、制度を悪用している一部企業および送り出し・受け入れ団体にあり、送り出し国側にも問題がある。
(3)外国人研修生・実習生制度についての連合の考え方
以上のように、この制度には、解決すべき問題が山積しており、制度自体を廃止することを含めた見直しをおこない、以下の条件を満たす新たな枠組みを政労使で議論する必要がある。
(4)外国人研修生・実習生制度の適正化のために
研修生・実習生制度の適正化には、単に入国する研修・実習生に対する査証・在留資格審査の厳格化や、悪質な受け入れ団体・企業の違反摘発強化のみでは対応はできない。そのため、以下の制度改革が必要である。
[1] 研修生・実習生を適格にサポート・指導するには、現状の基準以上の受け入れ態勢が必要となる。そのために、受け入れ可能な研修生の人数は現在一部で緩和されているが、原則としている「受け入れ企業の常勤職員20名に付き、研修生1名」を厳格に適用する。
[2] 単純と思われる業務を研修・実習の対象業務から除外するなどの対象業務を見直す。
[3] 受け入れ機関の責務の強化・厳格化、違反した機関・企業の以後の受け入れ停止等。
[4] 失踪を無くす観点から、合法な研修生・実習生等の生活環境の整備や生活費の支給を行う。
[5] 現状では研修・実習生の手取り賃金・手当等について、統一的に把握しているところがないため、その実態を正確に把握し、法違反等をチェックする枠組みを創設する。

3.違法な雇用主への対策について

  • 資格外就労者を直接・間接に使用した雇用主への罰則を強化する。
  • 資格外就労による物品の製造やサービスの提供を許さない条項を盛り込んだCSR (企業の社会的責任) の策定を、構成組織と加盟する単位組合に、早急に普及させる。
(1)資格外就労の外国人の権利保護について
わが国においては、例え資格外就労であったとしても、労働者である限り労働者としての権利が保護される。法文上では、労基法、最賃法、安衛法等の労働諸法は国籍をとわず、すべての労働者に適用されるものの、労働者としての権利は実質的に守られなければならない。
(2)「不法就労助長罪」の罰則強化について
資格外就労外国人を雇用した事業主や、資格外就労となる外国人を斡旋した者等資格外就労を助長した者に対しては、不法就労助長等罪により3年以下の懲役又は200万円以下の罰金に処せられる。また、集団密航者の運搬人から密航者を収受し、支配管理下に置いたまま資格外就労させている場合、不法就労助長罪のほか、入管法第74条の4により5年以下の懲役又は300万円以下の罰金(営利目的は1年以上10年以下の懲役及び1,000万円以下の罰金)に処せられる。そのほか、退去強制を免れさせる目的で、不法滞者をかくまった場合、法第74条の8により3年以下の懲役又は100万円以下の罰金(営利目的は5年以下の懲役及び300万円以下の罰金)に処せられることとなっている。
しかし、資格外就労の外国人に対する量刑は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金となっており、これと比較すると雇用主の量刑が低いためか、違法な雇用主が後を絶たない。したがって、雇用主に対する量刑をさらに強化する必要がある。
(3)資格外就労を抑制するCSRの策定について
資格外就労者を雇用している違法な雇用主は、違反と知りつつ低賃金で雇用しているケースが多く、合法労働者を雇用している場合と比べてコスト上有利であることから、違法雇用主の存在は公正な経済競争を阻害し、法律を遵守している企業が駆逐されかねない。悪意の有無にかかわらず、資格外就労者が国内に存在する大きな要因は、資格外であっても労賃は安ければ良いとする企業風土にある。こうした企業は社会的責任(CSR)の視点にも反しており、厳しく対処する必要がある。

4.連合の取り組みについて

  • 連合と地方連合会ならびに構成組織・単組は、NPO等と協力し、就労資格にかかわらず、すべての外国人労働者の労働相談に取り組む。

 連合と地方連合会ならびに構成組織・単組は、NPO等と協力し、すべての外国人労働者の基本的人権が脅かされることのないよう、外国人労働者からの労働相談をおこなう。 また、すでに一部の構成組織や地方連合会では、外国人労働者を対象にした組織化の取り組みを開始している。外国人労働者についての組織化も連合の将来の検討課題である。

V.その他の政策

1.定住する外国人への支援体制について

  • 合法的に定住する外国人に対しても、差別なく良質な雇用の創出を促進する。
  • 国籍を問わず日本語指導・日本文化講座等を開講し、言語的・文化的な溝を埋めるよう公的に支援する体制を確立する。
  • 教員、自治体職員への採用の道を開くとともに、自治体選挙権(投票権)を付与する。
  • 集住地のある地方自治体への外国語通訳を増員する。
  • 民族学校、民族学級の法的位置づけを明確にし、財政的な支援を行う。
  • 差別の根絶のため、相互理解を深める文化交流等をすすめる。
  • 国籍を問わず合法的に定住する外国人に対する帰化の付与基準を明確化し、さらに緩和する。
(1)定住外国人の参政権、自治体職員採用について
現在、オールドカマーと呼ばれる在日韓国・朝鮮、台湾・中国人に加え、ブラジルやペルー等からの日系人が合法的にかつ長期に日本に滞在・就労している。
外国籍であっても、合法的に一定期間以上(例えば5年以上)滞在を継続しており、かつ本人が希望する場合には、地域住民として認め、自治体選挙権(投票権)を付与すべきである。同時に、自治体での公務員採用等の「国籍条項」を撤廃し、職種を問わない外国籍住民の採用を確立する必要がある。その際には、権利義務の関係から、外国人登録ではなく「住民登録」に移管し、地方税の納税の義務も生じる。
(2)外国人労働者の雇用・失業問題について
外国人労働者の間でも失業者が増加しており、本人や配偶者の生活面でのケアも必要となってきている。また、外国人労働者の職業能力開発も立ち後れているため、とりわけ数の多い日系人向けの職業訓練プログラムの策定が望まれる。さらに、出稼ぎのリピーター化も進行しており、一貫した教育を受けることが不可能な子弟も多くなっている。
(3)外国人と日本人の相互理解、文化交流について
外国人が文化的な違いから日本に順応できないということに考慮し、外国人に対する日本文化への理解をはかるとともに、日本人も外国人の出身国の言語・習慣の理解を深める必要である。また、日本語の理解が不十分であると、地域コミュニティに対して無関心となり、対人関係のトラブルから孤立・差別を感じ、入管や各種社会保障等の行政手続にも支障が生じるため、日本語の教育体制が必要となる。
(4)帰化の要件について
帰化については、従来よりその要件が緩和されているものの、帰化は総合的判断の部分があり、その要件は完全に明確化されていない。そこで、国籍を問わず合法的かつ長期的に日本に滞在する外国人で、かつ本人が望む場合には、その許可要件をさらに緩和し、明確化する必要である。
(5)集住地のある地方自治体について
行政サービスとしては、外国人が集住している地域の地方自治体でも、外国語のできる担当者は若干名程度しか配置されておらず、意思疎通や相互理解の不十分さから、集住地域での日本人住民との軋轢もあり、十分な役割を発揮しているとはいえない。予算の制約上、十分な配置が不可能な場合でも、地方自治体の職員採用を外国人にも解放し、外国人・日本人間のコミュニケーションの向上をはかる必要がある。

2.外国人の住宅問題について

  • 外国人労働者を雇用する企業及び国・自治体は、使用者としての社会的責任で、外国人労働者が住宅を確保できるようにする。
  • 国や自治体は、不動産業者や家主に対する啓発活動を行い、外国人の入居を円滑にする。
  • 自治体や不動産業者は、外国人向けの外国語の住宅のガイドブック・パンフレット等の住宅情報の提供を推進するとともに、相談窓口を設置する。
  • 集住により、生活習慣等の違いから、地域住民との間で問題が生じている地域については、自治体等が仲介となって、相互理解を深めるための取り組みを推進する。
(1)外国人労働者の住宅確保について
外国人の入居をためらう不動産業者や家主に対して、一定の理解を得る取り組みが必要である。同時に、外国人に対して住宅情報や入居手続き等の情報を外国語で提供することによって、より円滑な入居を促進する必要がある。また、資格要件を満たせば、外国人であっても公営住宅や公団住宅等の公的住宅へ申し込むことは可能であるが、手続きが複雑なため書類準備に苦労するケースもあることから、自治体もこれを積極的に支援する体制を整える必要がある。
(2)集住地における地域住民とのトラブル解消について
外国人が集住する一部地域で、特に公的住宅に集住した外国人と地元住民とがトラブルになるケースがあり、社会問題化している。現実問題として、言葉の壁もあり意思の疎通は難しいが、相互理解のための取り組みが必要である。

3.外国人も包括する社会保障制度の確立

  • 年金と健康保険制度の「セット加入」については、現状の制度を維持する。
  • 年金加入のメリットの周知(障害年金等)を行い、加入率の向上を目指す。
  • 年金脱退一時金の算定期間の上限を3年(36ヶ月)から5年(60ヶ月)に引き上げる。
  • 諸外国における年金制度確立のための支援を行い、年金制度の確立した国と年金通算協定を締結していく。
  • 合法的な外国人労働者に対しては、内国民と同様に実質的社会的権利の確立をめざす。
(1)外国人の社会保障について
わが国が年金の通算協定等を締結していない国の外国人労働者の場合、国民年金や厚生年金といったわが国の年金制度への加入が原則となっている。年金に未加入のままでは、不幸にして障害を負ったり死亡した場合に、障害者年金や遺族年金が保障されないこととなる。日本で就労する外国人が日本社会で共に暮らすために、少なくとも日本滞在中は、日本人と同様に税金も社会保障も応分の負担をし、必要な給付が保障されるべきである。
(2)年金と健康保険制度の「セット加入」について
むしろ、日系人にみられるように、外国人の滞在期間は長期化する傾向があり、将来的に当該外国人が無年金者として社会問題になる可能性がある。現在でも、無年金の障害者が約10万人程度存在しているという現状を考え、年金・健康保険は外国人もセットで加入すべきである。
(3)年金通算協定の締結について
また、アジア諸国でも年金制度自体がない国や、制度上存在しても現実的に給付が難しい国もあることから、日本の年金に関するノウハウを提供し、安定した年金制度を確立できるようサポートし、通算協定を拡大してゆくことが必要となる。

4.外国人の子どもの教育

  • 原則として、日本国内のすべての子どもが国籍・在留資格に関係なく、普通学校に通学でき、かつニーズに見合った教育を受けられる「包括的な教育(インクルー シブ教育)」の原則を確立する。
  • 留学生および外国人児童・生徒の受け入れ態勢や入学・編入等の条件を整備・拡充する。
  • 外国人の子どもの教育の権利と、機会に関する情報提供を確保し、かつ教育内容充実のための基盤・体制整備をはかる。
  • 日本語教育の支援、母語教育の支援、および外国人学校への運営補助を自治体レベルで行う。
  • 国内のインターナショナルスクールや民族学校などで、当該国が本国と同様の教育を行っていると認定する学校、または国内とほぼ同様の教育を行っている学校については、日本の小・中・高の修了・卒業者と同様の転入学・卒業資格を認める。
  • 外国人の子どもの高校進学について、義務教育との連携のもとで、情報提供や入試等での支援的措置を拡充する。
  • 教員採用の国籍による制限を撤廃する。
  • 外国人に対する「偏見・差別」を撤廃する教育を進める。

 日本国内のすべての子ども達が、国籍や在留資格を理由として、公教育から排除されることのないよう、国、または地方自治体は条件整備を行うとともに、外国人の子どもが言語上・習慣上の違いを乗り越えられるようサポートを充実する。義務教育は公教育であり、憲法。教育基本法、学校教育法等の理念を受けて、公的財政で手当てすべきである。また、公教育へのアクセスは情報提供とサポートが重要であり、これを当該の外国人が理解できる言語で行うことが重要である。
さらに、日本人の子どもも、諸外国の文化等を認識しあい、共生できるよう、地域でも対話の場を設け、交流を促進する。他民族・多文化との共生やインクルージョン(多様な人々を包括する教育)などの人権意識を高めながら、教科学習への興味や関心にもつなげる必要がある。

5.国際的連携と円滑な就労に向けて

  • 日本における外国人労働者の労働実態に関する広報を、海外で積極的に行う。
  • 日本国内で外国人が安心して就労できるよう、送り出し国のナショナルセンターと協議の場を設ける。
  • 入国する労働者に対し入国審査の場で、日本の労働諸法や、就労資格で可能な就労の範囲についての基本的な情報を当該外国人労働者に理解可能な言語で提供する。
(1)外国人労働者の労働実態に関する広報について
入管法の就労資格違反などを犯したとしても、日本で就労すれば現地通貨換算で多額の収入となることから、外国人労働者の日本での労働実態を知らずに来日を希望する者が多い。合法的な就労であっても、本人の意図した労働条件でない場合等もあり、来日する前に、法制度など日本に関する適切な情報を海外に向けて発信する必要がある。
法務省は英語、中国語及び韓国語等による広報用リーフレットを作製し、7か国・地域にある在外公館21箇所に送付して外国人に配布する取り組みを行っている。それをさらに拡大・強化するとともに、連合も海外のナショナルセンターに対しても情報を発信する必要がある。
(2)送り出し国のナショナルセンターとの協議について
合法・非合法を含め多くの国の労働者が日本で就労しているが、人の移動は送り出し国の人材流出となる。そこで、送り出し国における人材育成や日本での就労状況や処遇について、送り出し国とのナショナルセンターと必要に応じて協議することも重要である。
(3)日本入国に際しての情報提供について
日本での就労について、法律等で保護されている内容や合法的に就労できる範囲、いざというときの相談先について、労働者に対して情報提供を行うことが必要である。パスポートチェックの際には、国籍や就労資格等を確認することから、併せて外国人労働者の理解可能な言語で各就労資格ごとの情報を適切に提供することがトラブルの減少につながる。

6.難民への対応について

  • 入管法については、行政手続法の適用を受けるよう法改正する。
  • 難民の定義については、人権擁護の観点から難民条約または議定書の定義より広義にとらえ、戦争、内戦等による避難民を日本の「難民」の範疇に加える。
  • 2004年の入管法改正における付帯決議を踏まえ、難民認定基準を公正で透明性・納得性のある内容に改善し、その基準を公表する。
(1)入管法の改正について
入管法は、行政手続法第3条第10項により、行政手続法の適用除外とされている。2004年の入管法改正によって、第三者諮問機関としての難民審査参与員制度が導入されたものの、難民認定処分に対する異議申し立ては、不認定処分を行った法務大臣に対して入管局を通じて行うため、同じ省庁による再審査であり、審査の公平性について疑問がある。
例えば、ドイツにおいては、難民認定に関する一次処分を行う連邦外国人難民認定庁の判断に対する行政上の不服申立手続は存在しないものの、同庁の判断に不服のある者は、行政訴訟を取り扱う州の行政裁判所に対して訴えを提起して審査を求められる(庇護手続法第11条)。さらに、この行政裁判所の判決に不服のある者は、同裁判所の許可をえて、高等行政裁判所に対して控訴も可能である。
本来、行政手続法は「国民の権利を守るために立法化」されたものであり、難民認定には馴染まないとの見解もあるものの、人権面の配慮からも、さらなる不服申立制度の改善が必要である。
(2)難民認定基準について
わが国の難民認定制度は、「迫害を受けるおそれがある」ことが重要な要件とされている。従って、国会の付帯決議も踏まえ、難民認定基準を公正で透明性・納得性のある内容に改善し、その基準を公表すべきである。
(3)難民の定義について
また、戦争、天災、貧困、飢饉等の事由では難民条約(1951年の難民の地位に関する条約)または議定書にいう難民に該当せず、「難民」と認定されない。これは、難民条約に定義された難民の要件に該当すると判断された人のみを、「条約難民」として受け入れの対象にしていることにもとづいている。現実には、天災・飢餓については国際的な支援の枠組みがあり、当面の危険状態から逃れることができるが、内戦状態は国際的な救援が届かないことが多い。そこで、戦争・内戦等については、仮に直接的な迫害が及んでなかったにせよ、避難民ではなく「難民」として受け入れるべきである。

7.今後の検討課題

  • 外国人労働者受け入れについての「新たな制度の創設」について議論を進める。
  • 今後の連合の外国人労働者受け入れについての考え方を策定する際には、国際連帯の観点から、ICFTUやILOでの議論をも考慮に入れる。
  • 外国人の国内での登録のあり方について検討を行う。
  • 特区での外国人労働者受け入れ緩和(研修生の拡大、医療分野等)について、追跡調査をおこなう。

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