「貢献」の意味問い直そう

 インド洋で給油活動を行っていた海上自衛隊の派遣部隊に撤収命令が出された。活動根拠となっていた改正新テロ対策特別措置法の期限が切れるためだ。
 2001年12月から一時中断を挟んで約8年間続いた活動が終了する。イラクに派遣されていた航空自衛隊と陸上自衛隊は既に撤収している。今回、海自が引き揚げることで、戦時下での自衛隊海外派遣はすべて終了することになる。
 この間、派遣部隊が一度も交戦せず、一人の犠牲者も出さなかったことは喜ばしい。国民世論が二分する中、過酷な任務を全うしたことには、率直に敬意を表したい。
 だが、派遣そのものを高く評価するわけにはいかない。憲法上の制約もさることながら、日本が何をなすべきかさえ十分に議論されないままテロ特措法を成立させてしまったからだ。
 海自の出航は、特措法に定められた国会承認を待たずに行われるという慌ただしさだった。「顔の見える貢献」を求める米国への配慮が何より優先された結果だろう。
 その米国はテロとの戦いの主戦場をイラクからアフガニスタンに移し、日本にさらなる貢献を要請している。給油活動はその重要な一環だとの指摘もある。だが、ここは腰を落ち着けてテロとの闘いで、日本は何ができるのかから検討し直すべきではないか。
 米国と有志連合によるアフガンでの戦闘は泥沼化している。米軍増派で事態が好転する見通しは立っていない。ドイツなどではアフガンからの撤兵を求める声が高まる一方だ。
 昨年12月、オバマ米大統領は11年半ばにアフガンからの撤退を開始するという新たな戦略を打ち出した。もくろみ通りに進むかどうか。米国内には撤退開始は遅れるとの見方がある。
 アフガンをはじめとするテロとの闘いは、軍事力だけでは勝利を得ることはできない。むしろ、テロの温床となっている貧困や圧政を解決する方が先決だ。一見遠回りとも思えるこうした考え方を大切にしたい。
 他国に軍事力を行使しないという国是を持つ日本こそ、新たな対テロ戦略の中心になり得る。
 テロとの闘いは国際的な責務、貢献だとして自衛隊が派遣され、いまその任務が終わった。あらためて派遣の意味を問い直し、活動を総括する必要がある。日米同盟優先や貢献ありきの論議になってはいなかったか。
 なし崩しとも思える手法で継続されてきた海自の給油活動を収束させるのは当然である。また、新たな貢献策を、これまでの派遣の延長上に位置付けるべきではない。非軍事の道を追求することこそ日本が目指すところだ。

新潟日報2010年1月16日

中国の人権に一石投じた

 米インターネット検索最大手のグーグルが中国からの事業撤退を検討することを明らかにした。
 中国のネット人口は3億人を超え、世界最大である。検索シェアは中国最大手の「百度(バイドゥ)」が過半を占め、グーグルが追う。グーグル撤退は、民間企業の問題だけでなく、米中関係の新たな火種ともなりかねない。
 撤退検討の直接の引き金となったのは、中国の人権活動家が持つグーグルの電子メールシステムに、外部の第三者が侵入を試みるなどのサイバー攻撃があったことだ。何者かが人権活動家の情報を入手するためだったとみられる。グーグルは、中国政府が関与した疑いがあるとしている。
 これが事実であるならば、見逃せない。米国政府は中国側に説明を求めている。中国は早急に事実関係を調べ、関与の有無を明らかにする必要がある。国家的犯行呼ばわりされていることを重く受け止めねばならない。
 サイバー攻撃の背後には、非常に高度な技術と、それを持った組織の存在があるとされる。グーグルが情報管理に危機感を抱くのも当然だ。
 だが、撤退検討の理由はそれだけではない。言論の自由と人権に対する当局の厳しい姿勢がある。中国は昨年の建国60年に際して、有害情報の取り締まりを強化した。
 中国政府は「グーグルの検索エンジンには大量のわいせつ情報が含まれている」と検閲を正当化する。しかし、検閲はそれにとどまらない。政府や言論弾圧を批判するネット上の書き込みは以前から削除されている。
 中国は、天安門事件やチベット騒乱など、人権抑圧が問題視された歴史や事件を抱えている。匿名で自由に論議できるネットを規制しなければ、政府批判の声が高まり、社会の不安定化を招きかねない。これが検閲の真の狙いに違いない。
 グーグルは、言論統制を強める中国の姿勢に不満を募らせていた。撤退検討は、中国政府に検閲の撤廃を求めて投げた一石といえる。
 ただし、これを言論の自由か規制かだけでとらえるのは適当ではない。
 グーグルは2006年、「利用者増の利点の方が、検閲を受け入れるマイナス面を上回る」として中国に進出、米国内から強い批判を受けた経過がある。検閲は承知の上ということだ。
 中国の人権活動家らにとってグーグルは貴重な存在だ。撤退論に困惑の声が広がっているのは理解できる。米国など中国に進出している外資系企業にとっても影響は大きい。
 体制維持を目的に言論統制をする国家は民主的とは呼べない。中国政府にこの自覚がないことを憂える。

新潟日報2010年1月16日