公務員制度の抜本論議を

 官僚の出世レースのゴールである事務次官の在り方を考えさせられる人事だ。
 原口一博総務相が、前政権が任命した総務事務次官を解任した。総務相は更迭を否定している。だが、半年で解任というのは極めて異例だ。
 民主党が掲げる政治主導、脱官僚を印象付けようとの狙いがあるとの指摘にはうなずけるものがある。
 事務次官会議は廃止したものの、霞が関の幹部人事にはほとんど手を付けていない。政治主導には程遠いとの批判が出ている。国土交通相が観光庁長官を事実上更迭したばかりだ。政治的意味を込めた「更迭」というのは、あながちうがった見方ではあるまい。
 国家戦略担当相を兼務することになった仙谷由人行政刷新担当相は、事務次官を廃止する方針を示している。府省を束ねるのは官僚である必要はない。政務三役と次官の関係は屋上屋を架すものであり、政治家が直接各局長に指示すればいいという考えだ。
 脱官僚政治を貫こうという政権の方針と整合性は取れている。米国などでは政権が変われば、公務員の主要ポストは大幅に入れ替わるのが常だ。
 日本では次官が決まれば同期入省組は府省を去るのが通例で、その受け皿づくりが天下りの温床となっていた。
 次官の存廃論議は、政と官のありようを見直す格好の材料といえよう。長年続いてきた次官制度が国益にかなうものかどうかも問われる。
 政権交代後、官僚の「指示待ち」が増えたという。各府省の次官への官房長官による年頭訓示に対し、「政務三役の指示が遅れ士気が下がっている」との声が次官側から出たとされる。
 天下り根絶を掲げる政権が日本郵政社長に元大蔵事務次官を据えたり、人事院総裁に前厚生労働事務次官を起用したりした。その理由に「適材適所」などが挙げられた。これでは国民の期待を裏切ったに等しい。官僚側の不満の一因でもあるはずだ。
 政権交代の過渡期にあって優秀な人材を有効に活用したい。官僚出身でも有能な人材を使うというのなら、その基準を明示すべきだろう。
 通常国会に提出される国家公務員制度改革関連法案には事務次官ポスト廃止が盛り込まれる方向だ。
 官僚が既得権益を死守し政治家を動かす「官僚政治」は正さねばならない。とはいえ、大きな変革期に官僚の力をどう引き出すのかも重要だ。
 民主党はマニフェスト(政権公約)で、国家公務員の天下りあっせんの全面的禁止と定年まで働ける環境づくりをうたっている。
 短期、中長期の公務員のビジョンを示しながら、新たな日本の国家像を掘り下げる論議を望みたい。

新潟日報2010年1月10日

新時代を告げる世界一だ

 2009年の新車販売台数で中国が米国を上回り、初めて首位に立った。
 米フォード・モーターによる乗用車の本格量産開始から約100年たつ。この間、世界の工業化と経済発展を先導した自動車産業は新局面を迎えたといえる。
 米調査会社によると、米国の新車販売台数は08年比21・2%減の約1043万台となり、27年ぶりの低水準に落ち込んだ。
 中国は1350万台を超えた。04年の500万台から5年で2倍以上の驚異的な伸びになっている。
 経営難に陥った米ビッグ3(大手3社)の苦境が続く。手放した傘下企業を中国企業が次々に買収した。
 中国政府の思い切った財政出動で市場が勢いづき、国内産業も力強く立ち上がろうとしているように見える。
 今はまだ生産技術などの面で日米欧のメーカーとの差がある中国企業だ。
 しかし本当の実力が備わったとき、世界の自動車地図は塗り変わるだろう。市場規模の米中逆転はそのことを十分に予感させる。
 新車販売世界一は中国市場が世界経済に及ぼす影響力の大きさを示す。それは自動車産業だけの話ではない。
 世界不況からの立ち直りの糸口を、各国は中国を筆頭とする新興国向け輸出の中からつかんだ。
 中国の高成長に陰りは見られない。国内総生産(GDP)でも近く日本を抜き米国に次ぐ世界2位に躍り出る。米国債を大量に引き受け米財政を直接支えてもいる。
 米国との「G2」とさえ称され、中国は今や世界で最も重要なプレーヤーの一人であることは論を待たない。
 日本経済にとって、その中国市場での競争にいかに勝ち残るかは今後の死命を制するといって過言ではない。
 フォルクスワーゲンとスズキによる資本業務提携に見られたような大胆な再編も有力な手法となってこよう。
 しかし、中国や新興国の経済成長に頼るばかりではいけない。足元の内需を掘り起こす努力を怠れば、いずれつけが回り足腰が弱るだろう。
 当面、最大の切り口は環境だ。環境技術は海外市場開拓の大きな武器だが、国内でも環境をキーワードとした産業振興を進めなければならない。
 日中間の政治的な安定が、両国の経済連携の前提となる。鳩山由紀夫首相と中国の習近平国家副主席は先月会談し、日中の戦略的互恵関係を深化させることで一致した。
 東シナ海のガス田問題などの懸案も十分に踏まえながら、緊密な外交関係を築かねばならない。成長を続ける大切な隣人との付き合い方を前向きに再構築する。その気概が必要だ。

新潟日報2010年1月10日