財務相辞任 予算審議は充実するのか

 藤井裕久財務相の辞任が慌ただしく決まった。後任には菅直人副総理兼国家戦略担当相が就く。
 18日召集予定の通常国会では、2009年度第2次補正予算案、10年度政府予算案を柱とする経済対策が大きな焦点となる。その予算づくりの要だった財務相が審議前に辞めるのは異例だ。
 鳩山由紀夫首相が辞任を了承すると同時に後任人事を発表したのは、予算国会の審議に万全を期し、政権への打撃を小さくしようということだろう。
 高齢の藤井財務相は昨年の臨時国会でも、副大臣に答弁させるケースが目立っていた。長期間に及ぶ通常国会の審議に耐えられないというのだから辞任は仕方あるまい。
 一連の予算編成ではマニフェストを生かしつつ、経済刺激策と財政規律の両面をにらみながらの難しい作業を迫られた。政策の政府一元化は名ばかりとなった。政治主導で基本政策を調整するというのも形式的なものとなり、議論百出で終わった感が否めない。
 これらが財務相の辞意の理由となった「疲れ」を増幅させた要因の一つに違いない。さらに気に掛かるのは、菅国家戦略担当相や党の要求を突き付けた小沢一郎幹事長と、予算をめぐっての「確執」が伝えられたことだ。
 これはそのまま次の体制の課題でもあろう。まず経済財政運営の役割分担の在り方を見直すことだ。新たな政策決定システムが混乱をもたらしていないか、検証する必要がある。
 財務相の仕事は国会の答弁など内政だけではない。世界的不況から脱するため、日本の戦略を国際社会に向けて発する重要な立場にある。
 これらの激務を藤井氏がこなせると判断したのは首相である。政界からの引退を決めていた藤井氏を口説き落とし、「三顧の礼」で財務相に迎えた。任命責任は重い。
 前政権では財務相が酔っぱらい会見で引責辞任した。その後任も体調不良で国際会議を欠席することが少なくなかった。政権が代わっても100日余でまた財務相が辞める。
 経済大国を支える閣僚がこうもふらふらしていては情けない限りだ。民主党内では首相と小沢幹事長の二重権力の懸念が深刻化している。党内事情が経済対策に影を落とすようでは困る。
 首相が一緒に政権を育ててほしいと慰留に努めたのに対し、藤井氏は「それは総理の仕事だ」と突っぱねたとされる。首相の指導力に疑問を投げ掛けたとも取れる言葉だ。
 体調不良が理由とはいえ、重要閣僚のあまりに早い辞任は国民の不信を高めた。それをぬぐうためにも、日本の経済再生が懸かる国会論議を充実させることが求められる。

新潟日報2010年1月7日

次世代送電網 低炭素化を賢く進めたい

 「ただいま、余剰電力で電気自動車を充電中」。電気の使用情報を表示する新しいメーターをすべての家庭に設置し、賢い電力消費を促す。
 こんな低炭素社会を実現するシステムとして注目されているのが、次世代型送電網の「スマートグリッド」(賢い送電網)だ。オバマ米大統領が掲げる「グリーン・ニューディール」に目玉施策の一つとして盛り込まれ、ブームに火が付いた。
 国内でも研究開発が始まっている。温室効果ガス25%削減に向けて、再生エネルギーの普及を加速させる重要なインフラになるからだ。
 現在の送電網は、太陽光や風力発電装置などの設置が進んで電源が多様化すると、効率的な送電ができないなどの技術的な問題を抱えている。
 情報技術(IT)や通信システムを備えるスマートグリッドは、これを解決する切り札になる。電力会社と家庭とを双方向通信させ、太陽光などによって生まれた余剰電力を蓄え、電力消費量が増大する時間に送電することが可能となる。
 スマートグリッドが脚光を浴びているのは、温室効果ガスの削減につながるからだけではない。新産業として、経済のけん引役も期待できる。
 政府は、昨年末に決めた成長戦略の柱として「環境・エネルギー」を第一に取り上げた。この分野だけで2020年までに140万人の雇用創出を目指すという。
 具体的な道筋は今後詰めるとしているが、自然エネルギーの普及と同時にスマートグリッドの整備をその中核に位置付けてほしい。
 問題は、巨額な投資が必要となることだ。通信機器を備えた専用のメーターを各世帯に取り付けなければならない。電圧調整装置や変圧器などの送電網にも費用が掛かる。
 これまで消極姿勢を見せていた国内の電力会社が、大型投資に乗り出す動きを見せ始めている。歓迎すべきことだ。これを国家戦略としてどう推進させるかである。大胆な政府支援と企業の投資を結び付けて、経済成長への足掛かりとしたい。
 オバマ大統領は昨年、スマートグリッド関連で約1兆円の支出を決め、新産業を強力に後押ししている。欧州連合も開発に乗り出した。海外に大きな市場が広がっている。
 その際、欠かせないのはスマートグリッドの規格化だ。日本が主導権を発揮して、国際基準をまとめることが重要になる。経済産業省が昨年、研究会を立ち上げたのは、日本企業の海外展開を後押しするためでもある。
 環境対策で経済を押し上げる。次世代送電網はその可能性を秘めている。

新潟日報2010年1月7日