株価上昇 期待を手応えに変えたい

 年明け早々の東京株式市場で株価が連日値上がりした。5日の日経平均株価の終値は1万0681円83銭だった。2008年10月以来約1年3カ月ぶりの高値水準である。
 5日は世界景気の回復が続く観測が強まり、輸出関連企業を中心に買いが集まった。しかし午後は為替が円高に振れ、上昇幅は急速に縮小した。
 株価は景気の先触れとして動く。順調に上昇基調に転じてくれることを願う。しかし、年が改まったからといって日本経済の地合いががらりと変わったわけでもない。
 上昇は多分に期待感が先行した結果といえよう。本格的な回復への手応えを市場が実感しているのではない。
 今年の株価について、市場関係者には厳しい見方が目立つ。08年9月のリーマン・ショック前の水準である1万2000円台に届くかどうか、見通すことは困難だ。
 株価を押し上げる力は、か弱い。先行きの不透明感がいつまでたってもぬぐえないからだ。
 共同通信による主要企業アンケートで、景気が一段と悪化し「二番底」を付ける可能性が「極めて高い」「高い」とした企業が約4割を占めた。円高やデフレ、政府の景気対策の息切れへの警戒感の表れだろう。
 新潟経済社会リサーチセンターの調査でも、県内業界団体、商工団体の3分の2が10年の景気は前年より悪化すると答えている。
 企業は設備投資に踏み切れない。個人消費は一向に伸びず「巣ごもり」が進む。所得減や失業の不安が「守り」「縮み」志向を加速させる。
 今こそ求められるのが景気回復を最重要課題に掲げる政府の力強い意思表示と、実効ある経済対策である。
 政府は昨年末になってようやく「成長戦略の基本方針」を発表した。20年度の名目国内総生産(GDP)を現在の1・4倍にするなどが柱だ。明確な目標は持たねばならないが、とっくに示されていてしかるべきものだ。
 目標の実現に向けた道筋をはっきりと、早急に示してもらいたい。併せて、雇用問題などでは即効性のある対策の実行が必要だ。
 昨年の株価は3月10日に7054円と26年5カ月ぶりの安値を記録してから景気の持ち直しとともに反転した。8月26日に年初来高値を付けたが、政権交代後の円高の進行などで足踏みをし、その後、日銀の追加金融策で何とか持ちこたえた。
 市場は用心深く政権を見詰めている。先行きに不透明感を生んでいるのは、鳩山内閣の不安定さと頼りなさではないか。経済対策は待ったなしだ。迷いがあってはならない。

新潟日報2010年1月6日

親権制限 虐待防止に本腰入れねば

 親から虐待される子どもたちを守るため、親の絶対的な権利と義務とされてきた「親権」が制限されることになりそうだ。
 法務省の研究会が今月中にまとめる報告書には、民法改正の必要性が盛り込まれる。法制審議会などで検討した上で、2011年の通常国会への法案提出を目指す。
 深刻化する児童虐待に対し、親権に踏み込んで法制度を見直すのは初めてだ。親子関係に影響を及ぼす制度だけに、丁寧な論議が求められる。
 全国の児童相談所が受理した08年度の虐待件数は約4万2700件で、10年前の約6倍に達した。虐待で死亡した子どもも後を絶たない。宗教上の理由などで、親が子どもの治療を拒否する「医療ネグレクト」も多い。
 08年4月に施行された改正児童虐待防止法は、強制立ち入り調査や、子への接近禁止命令など、相談所の権限強化が盛り込まれた。
 だが改正法にも限界があった。親が親権を盾に、子の連れ戻しを主張し、施設側とトラブルになる例が相次いでいる。親元に帰れば、虐待が繰り返されかねない。悲惨な実態を踏まえれば、親権制限が検討されるのは当然だ。
 民法では、相談所が親権を制限するには、家庭裁判所に「親権喪失宣告」を申し立てるしかない。だが、これが認められると、戸籍に記載される。子どもの将来に影響を及ぼす懸念がある。家裁の判断に時間がかかり、実効性に乏しい側面もある。
 これに対して、報告書の方針は、親権を一時的に停止できるようにするものだ。虐待された子どもを受け入れる児童養護施設の施設長の権限を民法上の親権よりも「優越」させる規定も設ける。家裁による親権喪失宣告に比べて迅速に対応できるようにする。
 親権一時停止は、その間に親への支援や指導を進め、虐待姿勢の改善を図ろうという点にある。停止期間が短ければ短いほど、親子関係に与える傷も浅くて済むだろう。
 問題は、親に対するきめ細かな支援の在り方だ。カウンセリングを行うには、人的手当てが重要になる。
 親が虐待をする原因は、複雑である。望まない出産や、育児ストレス、配偶者への不満などが絡み合っているとされる。核家族化や地域との結びつきが弱まり、孤立感を抱く親も多い。
 相談所は、急増する児童虐待に追われて慢性的な人員不足に悩まされている。児童養護施設の体制整備も追い付かない状況という。これではいくら法改正しても、実効は上がるまい。
 児童虐待の増加に歯止めを掛けなければならない。政府に求められるのは、法整備と同時に、マンパワーの確保に力を尽くすことだ。

新潟日報2010年1月6日