昨年末ぎりぎりになって、政府は経済の中長期ビジョンとして新成長戦略を発表した。9月の発足以来「新政権の成長戦略が見えない」という経済界などの批判に応えたものである。
「輝きのある日本へ」の副題で、2020年までに100兆円を超える新たな需要を創造するとして、年平均3%を上回るプラス成長を目標に掲げた。現在5%超の失業率を中期的に3%台に下げるという。意気込みは伝わるが、道筋はまだ明確でない。
政府はこの戦略を基本方針にとどめ、有識者や国民の意見を踏まえ、今年6月をめどに具体的な施策を含めた実行計画をまとめる。この姿勢は評価できる。数値目標の不確かさをあげつらうより、国会での審議をはじめとして国民各層の幅広い声を最終案に反映させることが肝心だ。そのために論点を整理する必要があろう。
「経済は閉塞(へいそく)感に見舞われ、国民はかつての自信を失い、将来への漠たる不安に萎縮(いしゅく)している」と冒頭の現状分析は悲観論に塗り込められている。新政権としては当然の見方かもしれない。だが成長を論じるなら、その予兆や萌芽(ほうが)を社会の現場から見いだすことも欠かせまい。
ビジョンでは、これまでの経済戦略を公共事業依存と市場原理主義の「二つの道」とくくる。今やそれらが一時的な「成功体験」から抜け出せない呪縛(じゅばく)になった、との指摘にはおおむね同意できる。
しかしそこから打ち出す「第三の道」とは何か。財政頼みや行き過ぎた市場原理主義から脱した新たな理念をはっきり打ち出さず、いきなり「成長戦略による需要・雇用の創出」とつなぐ展開は説得力にやや乏しい。
いわば「哲学」を欠いたまま、個別の課題と対策を列挙する各論に移る。これでは環境、健康、観光を成長の3本柱に掲げ、技術革新やアジアとの共生といった方策をいくら示しても、構想の全体を貫く基軸が見えない。
大都市の空港や港湾など公共インフラへの集中投資とか、健康分野への民間参入を促す規制緩和など「二つの道」と変わらない施策も盛り込んでいる。つぎはぎとの印象がぬぐえない。
しかも地方都市や中山間地域は公共事業にも頼れず、効率的な重点投資の対象からも外れよう。「地域主権」改革を断行する、と勇ましいが、高速道路の無料化や戸別所得補償などの政権公約をちりばめて対策にするだけでは住民の共感を得るのは難しいだろう。
ただ、地域での経済活動の主体として、自治体やNPO法人の協働・連携を強調しているのは歓迎する。「官か民か」という従来の発想を超えたい。
戦略では経済指標だけでなく安心や豊かさを実感できる「幸福度」を示す成長の新たな指標をつくる。政権交代を実現させた国民の期待もそこにあるのではないか。一部の学者を重用した過去の手法と決別し、文字通り各層の総意で具体案を練り上げよう。
|