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安心の支え 住民と専門職結ぶ輪を '10/1/5

 認知症や末期がんになっても、住み慣れた自宅で人生を全うしたい。そんな願いを持つ人は多かろう。しかし現実となると、なかなか難しい。介護や医療など安心を支えるかたちを、どう地域にはぐくめばいいのだろうか。

 歴史的な町並みで知られる福山市鞆町で始まった試みがヒントになろう。民間の介護施設を核にしてできたネットワークだ。

 住民の4割が高齢者で、その半数は75歳以上。半世紀後の日本を先取りする地域に、古い造酢場を再生してオープンしたのが「鞆の浦・さくらホーム」である。

 従来型のグループホームやデイサービスに「小規模多機能ケア」を加える。通所と宿泊、スタッフによる訪問を柔軟に組み合わせて24時間365日見守る、というサービスだ。

 ある一人暮らしの認知症の女性は、徘徊(はいかい)を繰り返していた。自宅はごみ屋敷同然。ほっとけない、と近所の人がホームに相談した。

 スタッフが訪問したり、弁当を毎日届けたりするうちに、落ち着きを取り戻してきた。何度も自宅に足を運び、徘徊の道順を確かめたのはスタッフだが、それを側面から支えたのは住民だった。

 徘徊しているのを見かけたら声を掛ける。ホームに連絡する。そんな見守りのネットワークがつくられていったからこそ「在宅」が続けられた。

 ただ自然発生的にできたのではない。ホームの側から、近所の人がお茶を飲んだりする場を設け、気軽に立ち寄れる雰囲気をつくっていった。スタッフも町内の店や「たまり場」に出向いて、話の輪に加わる。

 双方に「顔なじみ」の関係ができる。住民に安心感が生まれ、地域の意識を変えるきっかけになりそうだ。

 医療側が核になったネットワークで注目されるのは尾道市だ。

 主治医となる開業医が中心になったチームをつくっている。薬剤師や看護師、介護スタッフ、民生委員らと連携しながら、在宅緩和ケアやリハビリなどに、24時間365日の対応をする。末期患者であっても自宅で家族に囲まれて過ごせるのは、こんな後ろ盾があるからだろう。

 状況に応じて、本人や家族と専門職が顔をそろえる「ケアカンファレンス」を開くユニークな方式も心強い。

 地域には、子育てに悩む母親や生きづらさを抱えている若者もいる。ネットワークがさらに広がりこうした人たちも視野に入ってくるようになれば、地域での安心感はさらに広がるに違いない。

 ネットワークがうまく機能するかどうかは、核になる人次第である。経済的に報われないようでは精神的な疲れも出てこよう。

 昨年は介護報酬が3%引き上げられたが、まだ不十分だ。診療報酬は今年、10年ぶりにプラス改定される見通しで、後期高齢者医療制度に替わる新しい青写真も議論される。国による下支えが必要なことは言うまでもない。

【写真説明】なじみの人と場が地域のお年寄りを支える(福山市鞆町)




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