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10年後の地域像 参画とつながり求めて '10/1/1

 「政(まつりごと)」の風景が、身の回りでも変わり始めているのではないか。広島県庁で昨年末にあった事業仕分けを見ながら、思いをめぐらせた。

 職員が密室でつくる印象が強かった自治体の予算。「なぜこの事業が必要か」という議論が、白日の下にさらされた。市や町へと広がれば、税金の使い道をわが事として住民が考えるきっかけになろう。

 昨年の政権交代を機に、曲折はありながら、足元で広がる変化の波。それを念頭に置き、今から10年後の中国地方の姿を描いてみよう。

 まず5県の人口。現在の757万は約710万に減ると予測される。規模は縮んでも、住む人が幸せと感じる社会をどうつくっていくか。

 国から地方へ権限や財源が移り、国出先官庁の仕事の多くを地方が担うようになっているのではないか。道州制への移行が日程に上っているかもしれない。

 脱公共事業の流れは止まらないだろう。新たに作るより、今あるインフラの活用が求められよう。官の工事への依存度が強かった中山間地域で、それに代わる雇用の柱として農林業が再生できるだろうか。

 10年後の近未来を切り開くためのキーワードの一つは「参画」だろう。補助金頼みでなく、自分たちの知恵や実行力で勝負する時代へ。住民が「政」の観客席にいては、物事は進むまい。

■ 「お任せ」から脱却

 地域のことは自分たちで決める、という気概をどうはぐくむか。住民が当事者意識を持つのが第一歩。そのためには、事業仕分けなど行政の透明化は必須である。

 自ら動き始めた所もある。鳥取県智頭町では、100人以上の町民が政策を提案し、実施に向け汗をかく試みを、昨年度から始めた。合併で役場が遠くなった庄原市では、88の自治振興区が地域づくりプランを競うように描く。脱「お任せ民主主義」を目指す民の息吹だ。

 住民の参画が進むと、議員の活動にも厳しい目が向けられるようになる。行政に追随するだけの議会なら改革は避けて通れない。

 二つめのキーワードとして「つながりづくり」を挙げたい。

 都市部では地縁などのコミュニティーが薄れてきた。社会の安全網のほころびが広がる中で、人々の胸に兆す誰かとつながりたい思い。それをすくい上げ、テーマごとにまちづくりに取り組むNPOなどの活動が芽吹いている。

 福山市では外国籍市民の支援、尾道市では空き家再生に市民が立ち上がった。地域福祉や観光開発の分野でも動きが目立つ。「政」へ参画する新しいかたちだろう。

■ 南北軸と地域主権

 「地域主権」の名の下で、国の関与が減れば、地域同士のつながりづくりはさらに重みを増す。県の枠を超えて、中国地方の一体感をどう強めていくか。

 山陽と山陰を結ぶ南北軸を重視すべき時だろう。古来、さまざまな農林産物や鉄・銀を生んだ中国山地。沿岸部は海の道で東アジアと直接結ばれた。富や人が中央に吸い上げられる性格が強い東西軸に対し、自立性の高い地域主権軸と言えよう。

 右肩上がりの時代は、大動脈の東西軸で物や金を回す「大きな循環」に組み込まれながら地域は潤った。人口規模などが縮むこれからは、南北軸を太くしながら中国地方内での「小さな循環」を盛んにしたい。

 沿岸部ではものづくりに加えて医療や福祉、教育などのサービス産業を高度化し、中国山地エリアでは農商工の連携や林業再生を進める。そして都市と農山村の間で、物や人が緊密に行き交うイメージである。

 広島県神石高原町の小野地区は今春、都市の子ども向けに農業小学校を開く。こんな動きが各地に広がれば、流れは変わってくる。

 もう一つは、アジアなど海外との行き来。生産拠点を移すだけでなく、今後は人の呼び込みや相互交流に力点を置くべきである。

 海外からの観光客の誘致で中国地方は後れを取っている。瀬戸内海や三つの世界遺産など資源は豊か。この分野での四国も含めた連携が急務である。さらに、日本海や東シナ海を挟んだ産官学や市民レベルの交流も深めたい。異質なものとの出会いが、新たな成長につながる発想を生むのではないか。

 10年あれば、描いたビジョンを実行に移して修正を重ね、地に足が着いたものになる。参画とつながりを求めながら、2020年の未来像を探っていこう。




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