2009年10月25日

戦争と漫画

戦後のマンガに描かれた戦争について系譜を探っていきます。

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ネット時代の消費生活は、殆どGoogleとamazonで事足りる、という人も多いことでしょう。かくいう私も古本を購入するのに古本屋に足を運ぶことは殆どなく、amazonのマーケットプレイスに出品されている古書を買うことが多くなりました。340円の送料+αの出費で手軽に昔の本が手に入るのは画期的なことです。
そんな手段で60年代のマンガを買う機会が増えました。今回は、戦後から今日に至るまでのマンガに描かれた「戦争」について、手持ちの作品を紹介しながら掘り下げてみたいと思います。

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1.60年代
戦争の記憶がまだ生々しかったこの頃、一大戦記マンガブームが起きました。といっても反戦マンガではなく、太平洋を舞台に少年達がゼロ戦や紫電改に乗って華々しく戦うストーリーです。意外にもこの頃の方が今よりも戦争アレルギーが少なかったのかもしれません。

【少年忍者部隊月光】
後に「タツノコプロ」を創始した吉田竜夫作の戦争マンガ。普通の旧日本軍と異なり、頭には米軍風のヘルメットを被り、上は黒の半そでのTシャツに白の作業ズボンという服装をしている。陸海軍どちらに属していたかは不明だが、連合艦隊司令長官:山本五十六と仲がいい。試作戦闘機「震電」に優先搭乗できる。通常の武装で戦わず、「忍法カギなわ作戦」等の忍者の術を使って戦闘する。
このマンガは実写化され、フジテレビで「忍者部隊月光」として放映された。何故か女性の隊員や小学生の隊員もいた。
吉田竜夫は、後にタツノコアニメ「決断」でも太平洋戦争を描いたアニメーションを放映したことで有名。

【紫電改のタカ】
「あしたのジョー」「のたり松太郎」で有名なちばてつや作。主人公:滝城太郎は、それまでちばてつやが描いていたマンガ「ちかいの魔球」の主人公そっくり。ひとりだけ黒塗りの紫電改に乗り、「逆タカ戦法」という必殺技(=上方から急降下し、消えたように見せかける)で空中戦を行う。
ライバルは虎模様を描いたP-51に乗る「タイガーモスキトン」で、ここかと思えばまたまたあちらと変幻自在な敵だが、実は「兄弟の乗った二機が、入れ替わり立代わり攻撃してくる」という奇想天外な戦法だった(=この戦法は、後の潜水艦マンガ「沈黙の艦隊」にも受け継がれる)。これに気付いた滝は、一機ずつ撃墜することで敵を倒した。最終回、慰問に訪れる母と幼馴染の信子のおはぎを食べる機会もなく、特攻に出撃するシーンで感動のラストを迎える。

【サブマリン707】
小沢さとる作。旧式の潜水艦だった潜水艦707号は、原子力潜水艦として生まれ変わる。707号艦長の旧友で、敵のUボート艦隊をあやつるライバルのウルフは、世界の征服ではなく、戦争のない世界統一を果たしたいのだと訴える(=この理屈は後の潜水艦マンガ「沈黙の艦隊」の海江田艦長の言い分とほぼ同じである)。707号はよく浮力を失って限界水深以下に達し、パイプから水が噴出すが、なかなか沈まないことで知られる。

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2.70〜80年代
60年代と異なり、太平洋戦争をマンガとして描くことが「戦争を美化している」との批判にさらされるようになったため、もっぱら舞台を海外に移した戦争マンガが描かれました。

【エリア88】
新谷かおる作。作者は「かおる」という名前だが、別に女性ではなく、男性。ただしマンガに出てくる女性は、奥さん(=やはり漫画家の佐伯かよの)が描いていたらしい。
傭兵達が、中東のアスラン王国という国で内戦を戦い抜く物語。主人公の風間真は、経営不振の続く大和航空をリストラされ、傭兵部隊に出向となる。大型航空機のパイロットだった風間は、やがて戦闘機乗りの撃墜王として数々の武功を立てる一方、大統領の資産を受け継いで大富豪となって日本に帰国する。ここで終われば単なるサクセスストーリーだが、戦いの血が沸き立つ風間は再び戦場のアスラン王国へ戻っていくのだった。

【風の谷のナウシカ】
宮崎駿原作。自然破壊撲滅を訴えるマンガと勘違いしている人が多いが、これはれっきとした戦争マンガである。
人類は「火の七日間」と呼ばれる最終戦争で滅亡する。だがわずかに残った人類は、まだ飽きもせずに戦争を繰り返している。大国トルメキアの戦乱に巻き込まれた小国「風の谷」は、一人乗りグライダーに乗って空中戦を繰り広げるナウシカを先頭に抵抗する。トルメキア王国も、1発屋の巨神兵を繰り出して応戦し、さらにだんご虫が巨大化した蟲の大群も現れ、さらにその蟲たちがナウシカになついたりと、収集のつかないうちに混乱の世界に陥っていくのだった。

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3.90年代〜
年号も平成に変わり、改めて「日本の軍備」というテーマが正面から問われる時代を象徴するマンガが鬼才:かわぐちかいじによって作られました。そのニ作品こそ「沈黙の艦隊」と「ジパング」です。
ただ、「どちらも補給を念頭に置いていない」という点で、ややリアリティに欠けるきらいもありますが、「社会的にインパクトを与えたマンガ」という意味では重要な地位を占めていると言っていいでしょう。
以下、すでに多くの方が内容をご存知と思われますので概要だけご説明します。

【沈黙の艦隊】
アメリカの原潜「シーバット」を勝手に乗り逃げした海上自衛官:海江田が、艦名も勝手に「やまと」と名称変更し、世界の海で追手と魚雷戦を戦うマンガ。海江田は「紫電改のタカ」と「サブマリン707」を愛読していたと見え、同じような戦法を使う。この男の、やけに自信たっぷりな顔つきに嫌悪感を覚えた読者も多いと聞く。

【ジパング】
マルコポーロ原作。というのは嘘だが、自衛隊が昔にタイムスリップするという点では「戦国自衛隊」に近い。架空の自衛艦「みらい」が、太平洋戦争の最中に現れ、戦艦大和の46cm砲弾を全弾打ち落とすなどの好き放題をやる。主人公の「みらい」副長:角松が、たまたま通りかかった海軍参謀:草加に未来の日本のことをうっかりしゃべったために、歴史はあらぬ方向に…

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以上、戦後の戦争マンガをいくつか取り上げてみました。少ない例ではありますが、日本人の「戦争」イメージの変遷が、時代の変化に敏感に接していたことを読み取って頂けたら幸いです。

(本文と写真は関係ありません)



posted by シモン at 13:30| 東京 雨| Comment(12) | TrackBack(0) | コミック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私はアパッチ兄弟と戦う「烈風」が好きでした。敵より憎い大城寺少将という悪党が出ていました。
源田少佐、笹井中尉、坂井一飛らも実名で登場します。(山本元帥も)
紫電改のタカにも菅野直大尉が出てましたね。
Posted by デハ at 2009年10月25日 15:31
このブログの姉妹掲示板?が最近低迷化していて無念です・・・。
Posted by デハ at 2009年10月25日 15:32
今日は比島海戦の日で瑞鶴の命日です・・・無念
Posted by デハ at 2009年10月25日 15:36
デハさん
「烈風」というマンガは知りませんでした。「紫電改のタカ」にも源田中佐や坂井少尉が実名で登場しますね。他にも「0戦はやと」とか60年代はいろいろ戦記マンガがあったようですが、読みきれていません。
今日は瑞鶴のお亡くなりになった日でしたか。奇しくも明日はホーネットの命日ですね(年は2年ほど前ですが)。
Posted by シモン at 2009年10月25日 17:39
烈風、是非御覧下さい。
登場人物の少年兵たちは個性派揃いで、それぞれの父が新型戦闘機「烈風」の開発者でした。
主人公の「大和一郎」彼の活躍で戦艦大和と併せて「海にも大和、空にも大和・・・」と賞賛されますが、父親は戦艦大和の開発に反対して航空機の開発と生産を増やすように主張して閑職に追われています。山本長官の推挙でアメリカに留学し、一緒に訓練を受けた米兵がライバルとなります。(はじめP40、のちにP51に乗る)
次に、同様の経緯で独逸に留学していたやや性格の悪い「蛇田恐二」のちにチームの参謀格として活躍します。腕も確か。
半澤勇はイケメンで「ハンサム」と呼ばれています。他に西郷隆盛に似た巨漢と、常に2人コンビで活躍する稲荷と金太(夫々神主と坊主の息子)、それに源田中佐の親友の荒武者(渕田中佐がモデルと思われるが別名)の大鷲隊長が主人公チームです。
 しかしアメリカ軍の兇悪なアパッチ兄弟の襲撃と、新たに着任した大城寺少将の陰謀で追い詰められていくのですが・・・。ストーリーは楽しみがなくなるので書きません。
Posted by デハ at 2009年10月25日 18:19
23日が愛宕、摩耶、
24日が武蔵、扶桑、山城の命日です。
ま、他にも両軍あわせ多数沈没しています。
そして、今日は・・・
そう、関大尉が「セントロー」に突入・・・
神風の始まった日でもあります。合掌。
Posted by デハ at 2009年10月25日 18:21
「あかつき戦闘隊」を探しているのですが、中々そろいません。
立風書房の「劇画」も大半は持っています。
松本零二先生の「戦場まんがシリーズ」も愛読書でした。

平成になってからにわかに戦記漫画は復活しました。ただ、架空戦記のトンデモ兵器が絵になったのを見て嫌気が差したものも多いです。

基本的に未来兵器のタイムスリップ物はまず否定しますね。あと、女が活躍するやつ。時代考証を考えれば帝国海軍に女性士官・兵士などいなかったはずです。(ロシアにはいたそうですが)

 60年代、70年代の作品はトンデモ兵器が出ていても何故か不思議と受け入れられるのは、絵柄がほのぼのとしていることと、当時は完全な空想のモノが描かれていたのに対し、年代が下がって、科学が進歩すると、「それはまだ早い」というモノが(中途半端に未来的に感じる)受け入れられないんですよね。

 何はともあれ、双胴の大和とか、大和の舷側にアングルトデッキとか、5,500t巡洋艦を空母に改装とか、輸送船に巨砲を一門だけ搭載とか、ビーム兵器とかを第二次大戦に出す作品はNOですね。
Posted by デハ at 2009年10月25日 18:29
デハ様、
>そして、今日は・・・
>そう、関大尉が「セントロー」に突入・・・
>神風の始まった日でもあります。合掌。

ちょうど65年の歳月が流れたんですね。
今でも特攻で死んでいった人達のことを思うと痛切な思いになります。
明日10月26日が命日の大和隊の植村大尉が愛児に遺した手紙は、読んでいると涙が溢れてきます。
http://www.geocities.jp/kamikazes_site/isyo/isyobun/uemura.html
Posted by 無名X at 2009年10月25日 18:52
私があと10年早く生まれていれば、60年代作品の熱烈ファンとなっていた事でしょう。70年〜80年代はSF、しかもいきなり宇宙が舞台だったり武器がロボットばかりです。沈黙の艦隊の頃は高校生で、青年向け漫画として読んでいましたし、ジパングなど社会人になってからでした。
現代では漫画というメディアがメジャーとなり海外輸出されている以上、大東亜戦争や日露戦争をテーマに使うのは極めて困難です。戦国ものでさえ朝鮮出兵を武勇伝的に美化しようものなら反発必至です。
宮崎駿作品は最近こそ普遍的な家族愛が主題ですが、ナウシカの漫画版とかコナン(未来少年の方です)の頃は破滅に瀕しても尚争い続ける人類と言う、大変重苦しい世界観を子供向けアニメに纏め上げた才能は高く評価します(映画のナウシカは環境保護で終わらせたので消化不良ですが)。
Posted by HB at 2009年10月25日 20:00
江川達也の「日露戦争物語」なんかは比較的近年ですが良い物ですね。
外国の目を気にしているのがばかばかしいです。
Posted by デハ at 2009年10月25日 20:50
おはようございます!
そういえば「ナウシカ」は映画公開されたときは漫画の連載はまだ終了しておらず途中だったんですね。なのでHBさん仰る様に「消化不良」だったかもしれません。

今朝も雨ですが仕事頑張りましょう(^^)/
Posted by Captured at 2009年10月26日 04:56
無名Xさん
その遺書は、確かアニメ「決断」の特攻隊の回でも読まれていました。今は消されましたが昨年ニコ動で見ました。
HBさん
「戦争」というカタルシスは、マンガの世界では70年代以降は遠い架空の国だったり宇宙に舞台を移しましたね。60年代はまだマンガが輸出されるなど思いもよらなかった時代だったのかもしれません。
宮崎アニメの「普遍的な家族愛」という主題からは「ナウシカ」は外れていますね。Capturedさんのご指摘の通り、まだ未完の漫画を映画化したため何かよくわからない宗教的?なエンディングでした。
デハさん
私も松本零士の「ザ・コクピット」シリーズは好きでした。具体的な内容はもう記憶にありませんが…
Posted by シモン at 2009年10月26日 20:50
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