永野厚男

 在日韓国・朝鮮人や中国帰国者の生徒が多く在籍する都立南葛飾高校定時制(南葛定)教諭として、長年人権教育に取り組み、10・23通達(03年)直後の卒業式での「校長による『起立して君が代を斉唱せよ』の職務命令に違反」を理由に、定年退職(08年3月) 後の再任用を都教育委員会に拒否された木川恭(きかわきょう)さんが、“不合格”撤回を求めている裁判(松本真裁判官)で、最終弁論が09年12月15日、東京地裁で行われた。

 1日も早く教壇に戻せと、1円の慰謝料を求めて裁判に訴えた木川さんはまず、「都教委は『不起立処分者は生徒に向き合わせられない』と再任用を拒否し続けているが、『教員のリーダー』と位置付けている主幹教諭に、07年の不起立処分者の教諭を昇格させている例がある」と、人事面でのダブルスタンダードの不当性を告発。

 次に木川さんは、都教委が出した『教育課程編成基準』の冊子が、一般論では「生徒一人一人が主体的に考え活動していくこと」が大切だと説く一方で、卒業式等の儀式的行事についてだけは「国家や集団への所属感を深める」などと一変するという、政治色の現れを指摘した。

 最後に木川さんは、長年、識字教室で在日韓国・朝鮮人のオモニ(母親たち)を教えてきたが、以前、「朝鮮はオンドルがあって暖かくていいですね」と言ったら、「食べ物もないのに、オンドルの薪(まき)なんて買えない」と言われ、「侵略戦争や植民地支配下の歴史や社会認識、そして感性を持てる社会を築いていく上で、“君が代”強制は無意味どころか有害だ」と実感した、と締め括った。

 閉廷後の報告集会では、東京教組所属の小学校教諭の“君が代”時の不起立処分撤回裁判(11月26日)を傍聴した市民が、「尋問された志村文穂・江戸川区立小松川第二中校長(05年当時、都教委主任指導主事兼府中市教委指導室長)は、ベルリン五輪マラソンの優勝者・孫基禎(ソンギジョン)選手の、ゼッケンの“日の丸”を塗り潰した写真を掲載した『東亜日報』記者が、当時の朝鮮総督府の警務局に逮捕され、発刊停止処分にされた事件を『全く知らない』と証言した。一方、志村氏は、『在日外国人の児童生徒であっても“君が代”時は起立させるよう、教師はきちんと指導しなければならない』と明言した」と発言。
 歴史の基礎知識を欠く都教委幹部が“君が代”処分を強行していた事実が明らかにされた。