ハイチ大地震を伝える映像が、あの日の記憶をよみがえらせる。阪神大震災から15年がたった。近い将来、東海、東南海地震など巨大地震の発生が予測される日本で、被害を最小限に食い止める「減災力」は万全だろうか。
目安になるのが「耐震化率」だ。昨年の文部科学省調査では、公立小中学校施設のうち約7300棟が、震度6強で倒壊する恐れがあると指摘された。災害拠点病院や救命救急センターも、耐震基準を満たしているのは62%しかない。国や自治体の財政難が影響して、取り組みは遅れがちだ。
阪神大震災の発生時、救援活動の初動が遅れ、被害を拡大したことが指摘された。民主党は総選挙のマニフェストに危機管理庁創設を掲げ、その実現を急ぐ動きも出ている。
しかし、第一線で市民の生命を守るのは自治体の使命であり、その権限強化も必要とされる。国と自治体の役割分担など課題は多い。
むしろ、限られた予算の優先度を見直して、自治体の消防、救急体制の拡充や公共施設の耐震化を手厚く支える方が先決ではないか。
「震災障害者」と呼ばれる人たちの存在も浮かび上がってきた。震災の重傷者は1万人を超えたが、障害の残る人の大半は孤立したまま、十分な支援が受けられず、行政は実態すら把握していなかった。
被災して兵庫県外に避難したままの「県外被災者」からも「高齢になって元の街に戻りたいが、経済的に無理だ」と嘆く声を頻繁に聞く。
「減災」とは、モノの被害を減らすばかりではない。住民を体や心の傷から守るということも、極めて重要なのである。
関西の大学の研究者や弁護士が先に、「災害復興基本法」の試案を発表した。被災者を復興の主体とし、国や自治体はその自立を支援する責務を負うという内容だ。とりわけ、地域コミュニティーの重要性や住まいの多様性を確保することの大切さを強調した点で傾聴に値する。
新潟県中越地震の被災地では、コミュニティーの高齢者と外部の若者が力を合わせて、地域社会を復興させた例がある。都市部でもこういうやり方は十分可能だろう。
もちろん、住宅耐震化など市民個々の努力と工夫の積み重ねが、減災への第一歩なのはいうまでもない。さらに、災害を体験した市民の発想を国や自治体の施策に生かしていけば、減災社会への道が開ける。
地震など巨大災害への備えが必要な国や地域は無数にある。国際支援の一環として、日本が身をもって学んだ減災の知恵を、広く発信していきたい。
毎日新聞 2010年1月18日 東京朝刊