民主党の小沢一郎幹事長は16日の党大会で政治資金管理団体「陸山会」の土地取引をめぐる事件に関し、幹事長職の続投を表明した。東京地検特捜部が私設秘書だった石川知裕衆院議員らを政治資金規正法違反容疑で逮捕したことに小沢氏は「断固として戦う決意だ」と検察当局との全面対決を宣言するという異例の事態に発展、鳩山内閣の屋台骨が揺らいでいる。
党の要である小沢氏自身の疑惑が側近議員らの逮捕に発展したことは、さきの衆院選で国民が民主党に与えた信任を揺るがしかねない深刻な状況である。鳩山由紀夫首相は「小沢氏を信じている」と述べ、続投を了承した。このため、事件の推移が首相の政治責任と直結する構図となってきた。
事件をめぐる小沢氏のこれまでの説明は説得力に乏しく不十分であり、このまま幹事長職にとどまろうとしても、国民の理解は得られまい。潔白を主張するのであれば、国会などの場で自ら進んで説明する責任をまずは最低限、果たすべきである。
もともと次期参院選に向けた決起大会と位置づけられていた党大会は現職議員逮捕の衝撃で、異様なものとなった。小沢氏は検察当局とのあくなき対決姿勢と闘争心をあらわにし、「党大会に合わせたかのように逮捕が行われ、到底、容認できない」とまで言い切った。一方で、首相も早々に小沢氏の続投支持を大会で表明した。政治的に小沢氏と運命を共にする意向を示したにも等しい、重い発言である。
検察当局との全面対決に政治生命をかけた小沢氏と、次期参院選を控え、小沢氏抜きの政権運営は立ち行かないと判断したとみられる首相が結束を強調した形である。しかし、このまま小沢氏が続投するにはあまりにも多くの疑問が解明されておらず、小沢氏の説明も不足していると言わざるを得ない。
石川議員らの逮捕容疑は土地取得資金の4億円を報告書に記載しなかったことなどだ。だが、重要なのはその原資が「胆沢(いさわ)ダム」下請け工事受注をめぐるゼネコンからの裏献金ではないか、との疑惑が持たれている点にある。「陸山会」をめぐり、中堅ゼネコン「水谷建設」元幹部が「1億円を小沢氏側に渡した」と供述したとされている。家宅捜索を受けた大手ゼネコン「鹿島」はダム工事の元請けだ。
小沢氏は16日、記載をしなかったことについて「形式的ミス」としたうえで4億円の原資について「積み立てた個人の資金」と説明、裏献金疑惑を全面否定した。だが、石川議員は意図的な虚偽記載である点は捜査当局に認めているという。仮に「積み立てた」資金とすれば、どのように形成されたかの説明も小沢氏からはされていない。取得経緯をめぐり、多くの疑問がつきまとう。
それだけに、小沢氏自らが国民が納得できるよう、説明する責任がある。そもそもこれまでも、機会は十分にあったはずだ。あれだけ検察を批判しながら捜査に配慮して説明を拒むこともあるまい。18日召集の通常国会では、むしろ進んで国会で証人喚問にのぞむべきであろう。
一方で問われるのは、首相の姿勢だ。自身の政治献金虚偽記載問題で元秘書が起訴され、野党からの厳しい追及が予想される身だ。にもかかわらず、十分な党内調査も経ないまま「信じている」とあっさり小沢氏の続投を了承した対応は、安易に過ぎるのではないか。小沢氏に自発的な説明を促すことはもちろん、事態究明について自らが指導力を発揮すべき局面である。
民主党内の議論も焦点だ。小沢氏の資金問題に関してはこれまでも党内の動きが鈍く、国民へ説明を求める声すらあまり聞かれなかったことは異常である。党大会でも首相、小沢氏に異を唱える声はほとんど聞かれなかった。実権を掌握する小沢氏の意向をおもんぱかり国会議員が一様に口を閉ざし、それが党の空気を一層、重苦しくする悪循環に陥っているのではないか。どれだけ自浄機能を発揮できるか、政権政党の体質が問われよう。
党大会で民主党は次期参院選に向け、単独過半数の獲得を目指す活動方針を採択した。同党は自民党の組織票の切り崩しや候補の発掘に全力を注ぎ、各種世論調査で民主党支持率は自民党を大きく上回る。小沢氏は幹事長業務の多くを輿石東参院議員会長に委ねることで、収拾を図ろうとしている。
だが、このまま正面突破が可能と首相らが考えているのであれば、あまりにも危機感に乏しい。政権交代を実現し、政治の刷新を国民から期待される鳩山内閣がゼネコン絡みの旧態依然の疑惑の渦中にあることを、首相らはより深刻に受け止める必要がある。事件をめぐり通常国会が混乱し予算案などの審議に支障を来すことがあれば、結果的に影響を被るのは国民の生活である。
同時に、検察当局も捜査に関する小沢氏らの批判にこたえる必要があるのではないか。捜査の節目では一定の説明を国民に対し行うことを、改めて求めたい。
毎日新聞 2010年1月17日 東京朝刊