近代日本でも有数の大きな被害を出した阪神・淡路大震災は、地震の予知がまだ不可能と明らかにした地震だった。「列島のどこも地道な防災対策を怠るな」が、平凡だが最大の教訓である。
西半球カリブ海の島国ハイチで起き、大きな被害が伝えられる地震は、十五年前の阪神・淡路大震災と同じような活断層の活動によるものとみられる。
その阪神の震災は早朝、抜き打ちに襲った。微小地震の増加など数百件の「前兆」はいずれも、後で明らかになった。
一九六〇年代から地震研究も国の予算配分も、予知を重視した。しかし予知が地震の日時、地域を特定、規模の予測を意味するなら国民の期待にはずれる。当時の田中真紀子・科学技術庁長官が、地震予知連絡会の“機能不全”を批判したのも記憶に残る。
わが国の地震は、近い将来予想される東海、東南海・南海地震のようにプレート境界に発生するもの、釧路沖地震(九三年)のような海洋プレート内で起きるもの、阪神・淡路、福井(四八年)、新潟県中越(二〇〇四年)など内陸の活断層によるものがある。
阪神・淡路以後も北海道から九州まで、さまざまなタイプの地震が続発しているが、一つとして予知されたものはない。
東海地震のみ予知の可能性があるとされている。プレート境界の激しい動きの前に、ゆっくりした地殻変動(プレスリップ)が起きるのを、二十一カ所のひずみ計で検出できるという前提に立つ。一九四四年十二月の東南海地震の前に、静岡県掛川市で観測されたのに基づく。
ひずみ計一カ所で変化を観測すると観測情報、二カ所では注意情報、三カ所以上で予知情報が出され、首相の警戒宣言発令に至る。昨年八月、駿河湾が震源の地震で一時、観測情報が出された。
だが、本当に前兆の変動が起きて観測できるのか、四四年の観測は誤差ではないか、疑問視する研究者も多い。前提が誤っていれば予知の枠組みが崩れる。国民と行政は当面、予知に頼らずどの地域でも着実に、防災対策を充実させるのが正解である。
住宅と避難所に転用できる公共施設の耐震強化は、最重要課題である。災害時の救急医療に必要な要員の確保と物資の備蓄、救援や復旧活動に不可欠の基幹道路網の整備と保全は、国と自治体、ボランティアが協力し、緊急時に対処できる態勢を準備しておきたい。
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