慰安婦決議案の意味するもの
昨年7月アメリカの下院で慰安婦対日非難決議が可決された。日本軍が組織的に若い女性を強制して慰安婦とし、性奴隷として虐待した。20世紀最悪の人身売買だというのである。
慰安婦がいて気の毒な目にあった方がいたという話ではない。そういうことなら、何も60年以上の前のことを言わずとも、韓国には国連軍(実質米軍)専用慰安所があったことは1961年9月14日付の東亜日報に詳しく書かれている。ベトナムで米軍は旅団長の指揮管理下でキャンプ内に売春宿を営業させていたことは有名なブラウン・ミラーの"Against
Our Will"という本(p. 95)にも出ている。こうしたところで働いていた慰安婦で気の毒な目にあった例はゴマンとあっただろう。そうした問題の一つということではないのである。
「組織的」に慰安婦を強制したなどという事実に基づかない全くの架空の話しが、言論の自由の国であるはずのアメリカでまともな議論もされずに、さも「疑いようのない真実」であるかのようなムードの中で可決されてしまったのである。
しかもアメリカに続き、オランダ・カナダ・EUでも同様な決議がされる有様である。日本は近代に類例のない凶悪な人権蹂躙を行なった犯罪国家であるという烙印を国際的に押されたということなのである。
何故このような理不尽がまかり通るのか
政府がまともな反論を行ってこなかったことがこうした理不尽なことを許してしまった基本理由であることはいうまでもない。しかも河野談話などという世界の常識からしたら、慰安婦強制連行を認めたと解釈されても仕方のない愚かな談話がこの問題に対する日本政府の基本見解とされているのだから、日本政府の責任の重さたるやまさしく「万死に値する」ものであろう。
しかし、政府の責任を追及するだけでことは済むのかといえば、そんなことではすまない。
昨年慰安婦問題が議論されていた時に、たった1冊でも慰安婦問題の真実を伝える英文の本が存在していたかといえば、嘆かわしいことに皆無であった。一方吉田清次の全くのウソと判明した慰安婦奴隷狩りをそのまま載せているジョージ・ヒックスの“The Comfort Women"はオーストラリアで1995年に出版されている。又同じく吉田ウソ話にそのまま基づく呆れた内容の『クマラスワミ報告』が国連人権委員会に採択されている。それだけではない。保守派の北朝鮮専門家の元グリーンベレーのゴードン・ククリュまでが2004年に出した『誕生時点で引き離されて―いかにして北朝鮮は邪悪に育ったのか』のなかで「12歳から16歳までの少女を慰安婦として手に入れようとした。・・・20万近い韓国女性が拉致され慰安婦として・・・多くの場合撤退に当たり、彼女らをその場で殺した」などと書いている。
さらにニューヨーク・タイムスをはじめとする反日的な新聞にこれと大同小異の記事が載るのに対して、英文でこれに反論する根拠となる文献ゼロという状況であったことを認識すべきなのである。こうした状況下では、政府がちょっとはまともな反論を行おうとしても、とても太刀打ちできず、却って過去を隠蔽しようとしているなどと非難されることになるかも知れない。
ともかく発信していくことからはじめるべきである
外務省が明確な反論をすべきである、という正論を何回唱えても現状が改善されることはまずないと知るべきである。
真実を発信すべきであると考えるものがまず自らそれをはじめるしかない、ということで加瀬英明氏を代表に10人の有志で一昨年4月に立ち上げたのが「史実を世界に発信する会」である。日本語サイトhttp://hassin.sejp.netで趣旨を説明し志ある方々の支援を呼びかけ、英文サイトhttp://www.sdh-fact.comに、史実文献の英訳版を掲載するという方法をとっている。
慰安婦問題については、昨年前半にようやく小論文をここに掲載し、さらに秦郁彦教授の『諸君』5月号論文を英訳して掲載すると同時に、これは印刷してラントスなど下院外交委員会メンバーをはじめとする関係議員、学者等に抗議の手紙とともに送付した。真っ向から「事実」はこうだ、とアメリカに対して訴えたのはわれわれとワシントン・タイムスにすぎやまこういちさんらが出した意見広告くらいなものであった。残念ながらわれわれのこうした活動が功を奏するには至らなかったが、多勢に無勢、仕方のないことであった。
慰安婦に関してはようやく1冊の本の英訳が完成した。西岡力著『よくわかる慰安婦問題』(草思社)である。これが1年前に存在していたら、もっと効果的な戦いができたのにと悔やまれるところであるが、しかし今からでも真実を発信していくのが遅すぎるということはない。既にサイトにアップしているが、外国人特派員協会でこれを記者発表し、世界に紹介していきたいと考えている。ダニエル・イノウエ上院議員には、英訳が1章できるごとに送付して来たが、そのつど丁重な返事を戴いている。先日完全訳のコピーを送付したばかりである。
南京のウソも本当になってしまう
発信しなかったツケがいかにむごいものかという実例を今回の慰安婦問題でいやというほど知らされたわけであるが、これで終わりになると考えたら大間違いである。
当面大問題として出てくるのが南京大虐殺問題だろう。昨年が事件から70年ということで、10件ほどの南京映画が中国・香港・アメリカなどで企画され出来上がりつつある。また「南京大屠殺記念館」が10倍の規模に拡大新装されて昨年オープンした。
こうした動きに対して黙っていたら、慰安婦問題の二の舞になってしまう可能性が高い。虐殺犯罪国家の烙印が国際的に押し付けられるに止まらず、膨大な補償要求まで出てこないとも限らない。
60周年の時にアイリス・チャンの『ザ・レイプ・オブ南京』が出版されたときには、慰安婦と同じく虐殺否定の英文文献はゼロであった。斉藤駐米大使が、テレビでチャンに言いくるめられ「教科書にもちゃんと書いている」などと情けない防戦に追い込まれたのもやむをえない状況であった。しかし、今やわれわれのサイトにも東中野教授の本をはじめ、一枚も虐殺を証明できる写真はないことを証明した本などの全訳がのっている。まだまだ不十分ではあるが、反撃の武器はできつつあるので、志ある皆様と協力して発信のための戦い(ホワイト・プロパガンダとわれわれは呼んでいる)を進めて行きたいと思う。