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小沢マネー:側近逮捕の衝撃/中 「あいさつなしか」 ゼネコンを威圧

 西松建設の元幹部は、東北地方の公共工事で現地の幹部が「談合の仕切り役」とされる鹿島東北支店の担当役員にささやかれて身震いした様子を証言した。

 「おたくは胆沢(いさわ)ダムいらないの? 怒ってるよ」。ささやかれた幹部は、どこが怒っているかはすぐ分かった。小沢一郎民主党幹事長の公設第1秘書、大久保隆規容疑者=公判中、16日に政治資金規正法違反容疑で逮捕=を訪問し、平謝りしたという。

 日本最大級とされる岩手県奥州市の胆沢ダムは13年度の完成を目指し急ピッチで工事が進む。現場から東に約18キロには小沢氏の実家。「小沢ダム」の別名は、その位置関係ゆえではむろんない。

 元幹部は続けた。「大久保秘書はダムの工事業者を『うちにあいさつにも来ないですよね』と脅していた。あの大きなダムが東京ではなく東北の談合で仕切りになったのも小沢事務所の力」。大久保秘書に平謝りしていなければ約47億円分の工事を取れたかどうか。ただ、謝罪時に「持参品」があったのか、元幹部は記者には明らかにしなかった。

 昨年12月18日の東京地裁。西松建設から違法献金を受けたとして、政治資金規正法違反に問われた大久保秘書の初公判で検察側は冒頭陳述や鹿島の「談合の仕切り役」の調書読み上げで、東北地方での小沢事務所の「ゼネコン支配」の一端を指摘した。「小沢事務所の意向が『天の声』として機能し、従わざるを得なくなっていった……」「鹿島を通じた談合への決定的な影響を背景に、選挙の支援や多額の献金をゼネコンに要求してきた……」

 西松建設事件の捜査で東京地検特捜部は昨年3月、東京・赤坂の小沢氏の個人事務所からパソコンデータを押収した。

 ゼネコンと下請け業者からの献金状況がグループ別に管理され、鹿島など8社からの寄付やパーティー券収入の合計額は00~06年で約6億円に上っていた。大半は小沢氏の資金管理団体「陸山会」に移され、収入源の中心をなしていた。

 準大手ゼネコンで小沢事務所を担当する幹部はため息をついた。「パーティー券を50枚も買わせて『何月何日の券が1枚分未納』と言ってくる。日本で一番怖い」。なぜ資金を提供するのか、との問いには、こう答えた。「やくざに殴られたことなくても怖いよね。失礼だけどそんな感じ。『場所代出せ』と言われたら出す。そうしないと邪魔される。1社残らずやってる。出さないとうちだけ外されるかもしれない」

 岩手県内の建設業者は小沢事務所の選挙についてこう証言した。「『小沢選挙』は人件費がかからない。全部、建設業者のボランティア」。業界が元気なころには50~60社で1社平均2人、受注できたところは3人が選挙事務所を手伝った。「担当セクションが皆さんプロ化してるから決まってるんです。組織部とか遊説部とか。そこの長は、下手な秘書より精通してる」

 接待で秋波を送る業者もあった。「オーさんは仕事で大事な方。失礼のないように」。東京・向島の高級料亭で、そう芸者に耳打ちしたのは中堅ゼネコン「水谷建設」(三重県桑名市)の幹部。「オーさん」は大久保秘書のことだ。店の関係者は「2人はいつも数十分間、人払いして密談した後、芸者を呼んでいた」。胆沢ダムの下請け工事受注の謝礼として小沢氏側に04~05年、計1億円を渡したとの水谷建設側の供述が、捜査の焦点となっている。【政治資金問題取材班】

 ◇3人の拘置決定

 東京地裁は16日、政治資金規正法違反(虚偽記載)容疑で逮捕された▽当時の事務担当者の同党衆院議員、石川知裕(36)▽後任の事務担当者の元私設秘書、池田光智(32)▽当時の会計責任者の公設第1秘書、大久保隆規(48)の3容疑者について、25日まで10日間の拘置を認める決定を出した。

 ◇異様な緊張感--民主党大会

 石川知裕議員らが逮捕される中で開かれた16日の民主党大会。会場全体に緊張感が漂う異様な雰囲気で、会場を埋めた約2000人の参加者には、政権交代実現後初の党大会という高揚感はなかった。検察批判を展開する小沢一郎氏に異論は出ず、表だって小沢氏を批判できない民主党の現状が凝縮された大会となった。

 開会から1時間15分後、小沢氏が登壇すると緊張感はピークに。検察批判に終始した約11分間のあいさつでは、時折、拍手や「そうだ」という掛け声が上がるものの、すぐに水を打ったような静寂が戻った。あいさつを終えた小沢氏が退席すると、会場内は解放されたかのようにざわつき始め、席を立つ人の姿も目立った。

 大会では、連立会派を組む4党の代表も壇上に立ったが、事件に正面から触れたのは、「検察の間違った権力行使と断固戦おう」などと述べた新党大地の鈴木宗男代表だけ。同日午前のテレビ番組で「小沢氏は説明責任を果たすべきだ」と発言した社民党の福島瑞穂党首も「政治とカネの問題について考えなければ」と遠回しに述べるにとどまるなど、重苦しい空気が会場を包んだ。

 関東地方選出の若手議員は「参院選を控えて責任がある立場なのだから、当然幹事長を辞任するものと思っていた」と声を潜めた。【篠原成行、前谷宏】

 ◇小沢氏続投、検察と全面対決 有権者、冷ややか

 ◇聴取応じろ/説明責任果たせ/自信あるなら居座れ

 続投を明言し、検察との対決姿勢を強めた民主党の小沢一郎幹事長。鳩山由紀夫首相も擁護する。政権交代後初の党大会でも異論は出なかったが、有権者はどう見るのか。

 「民間の会社で同じように部下が逮捕されれば、上司は辞任するはず。そもそも本当に何もないのだったら、まず任意の聴取に応じるべきだ」。岐阜県大野町の無職、丹羽美智代さん(69)は厳しい言葉を口にした。

 兵庫県西宮市の事務員、河野由希子さん(27)は「今回の事件で何ら丁寧な説明をしておらず、党を束ねる立場にある人として、ふさわしくない態度だ」。福岡市南区の主婦、廣田和絵さん(69)も「説明責任を果たさず、逃れようとしている姿勢は旧来の自民党そのもの」と述べた。

 これに対し、東京都文京区の大学講師、高橋隆さん(46)は「やましくないと自信があるなら、辞めずに居座ればいい」と擁護。小沢氏をかばう鳩山首相についても「党務に関して『小沢さんに任せる』と言った以上、『辞めないで続けろ』というのは筋が通っている」と支持した。

 だが、その鳩山首相にも、苦言を呈する声が多い。大阪市天王寺区の米穀店主、東野亘陽(ひがしののぶはる)さん(63)は「新政権ができた時は政治が変わるのではと期待していたが、鳩山首相も小沢幹事長の操り人形のようで自分の意見があまり前面に出ていない感じがする」と批判。

 札幌市中央区の主婦、本多恵子さん(51)は「自民党時代の首相よりもひどい。政権交代が実現した時は日本が変わるかもしれないという期待もあったが、がっかりだ」とあきれた様子。

 千葉県船橋市の日本語教師、富田千絵さん(42)は「親からお金をもらっていて庶民の金銭感覚が分かってない。小沢さんを責めると自分に矛先が向くから、かばっているのでは」と皮肉った。

 表立って小沢氏を批判する声が出ない民主党への不満も根強い。「民主王国」とも言われる愛知県だが、東海市の会社員、佐藤泰さん(42)は「党内から何も聞こえてこないのは組織を守りたい意識があるからではないか」と述べ、「何か言ったら(党外に)はじかれるという体質が見える。誰も声を上げられないのではないか」とこぼした。

 札幌市厚別区の無職、野尻敦さん(68)は「みんな選挙の時にお世話になっているし、声を上げたくても上げられないのだろう。今は検察側の動向を見守るしかないのではないか」と推測。福岡市の無職、宮川康一さん(65)は「小沢さんに逆らうことができないのが今の民主党」とあきらめた様子だった。

毎日新聞 2010年1月17日 東京朝刊

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