看板の掛け替えに終わるのか、それとも信頼回復への一歩を踏み出せるのか−。ここが剣が峰である。
日本年金機構が動きだした。昨年いっぱいで廃止された社会保険庁の年金業務を受け継ぐ組織である。
不祥事続きだった旧来の体質と決別できるかが問われる。国民の厳しい目が注がれていることを、忘れてはならない。
社保庁はひどすぎた。年金記録ののぞき見、幹部による汚職事件、ずさんな事務処理の結果「宙に浮いた」年金、企業と社会保険事務所が示し合わせた厚生年金記録の改ざん−。年金機構の第一の課題は、組織改革である。
厚生労働省の外局だった社保庁とは異なり、年金機構は特殊法人だ。職員は公務員ではない。正規職員の1割を民間から採用し、管理職にも登用している。
「民間」の利点を生かして人事や給与の体系を見直し、組織の風通しをよくすることだ。
試みに、近くの年金事務所(旧社会保険事務所)を訪ねてみる。「わかりやすい言葉で、ていねいにご説明します」「電話は3コール以内に出ます」など「お客さまへのお約束10か条」が壁にある。いまでは相談窓口の職員が名刺を渡すことも欠かさないという。
こうした基本を徹底し、職員の一人ひとりが加入者、受給者最優先の意識に変わることが大事だ。
年金記録問題の対応も急がなくてはならない。
長妻昭厚労相が掲げるコンピューターと紙台帳記録の全件照合は、財政難で厳しい状況にある。
市町村の協力を得て記録漏れの可能性がある受給者と、連絡を取る試みが名古屋市で成果を挙げている。工夫を重ね、確認作業のスピードアップを図りたい。
加入者に年金記録を通知する「ねんきん定期便」は、昨年末から受給者にも発送が始まっている。
手元に届いた「定期便」や「特別便」を、ほったらかしにしてはいないだろうか。自分や家族の記録を確かめておくことが、年金業務をただし、問題の早期解決にもつながる。
もう一つ。待ったなしの課題が年金制度改革である。
長妻厚労相は年金機構を、税と保険料を一体徴収する「歳入庁」へのつなぎととらえている。政権1期4年の最後の年に、制度改革の法案をまとめる考えだ。
少子高齢化にこたえる制度につくりかえるには、土台のところから見直す必要がある。全力で取り組まなくては間に合わない。