温室効果ガス削減をめぐって対立する先月の国際会議を見ていて、ふと県南の集落で会った子どもたちの顔が浮かんできた。
1993年の正月、本紙の特集で「まわれ 命の輪」と題して循環型社会をテーマに取り上げとき、表紙の写真のモデルになってくれた9人である。
当時、県内で一番小さな下伊那郡阿南町の和合小学校。その児童と保育園児に、近くの神社で「かごめ かごめ」をしてもらった。
呼吸で二酸化炭素(CO2)を吐き出す生物と、光合成でそれを吸収する植物との炭素循環。多様な生きものを育くむ食物連鎖の輪。“わっこ”の大切さをイメージしての場面だった。
昼時に訪ねると、子どもたちがおいしそうにインスタントラーメンを食べている。給食の材料は、先生が週末、街へ出たついでに買ってくるという。
「たまには、全員が好きなものをね」。そう話す兄のような先生を中心にして家族のよう。
将来の夢は−。子どもたちに聞いてみた。
「野球の選手」「先生」…。次々と挙がる中で、「ここにずっといたい」と答えた女の子がいた。
炭が重宝された戦後しばらくまでは、活気があった地区である。やがて石炭、石油が取って代わり、山仕事で食べていけなくなると、過疎が進んだ。
あれから18年、みんな20代だ。だれか古里に残ったろうか。
<巡りが悪い炭素循環>
この間にも“炭素の輪”は巡りが悪くなってきた。CO2は増加の一途。中国の改革開放政策、インドやブラジルの急成長が拍車をかけた。山村の暮らしが成り立たなくなるにつれ、化石燃料の消費は増える。日本がたどった社会変化が、これらの国にも起きている。
バブル崩壊後、長い停滞期にあった日本。それでも温室効果ガスの排出量は90年を上回る。このままでは、2012年まで5年間の平均で6%減らす、と約束した京都議定書の目標達成は危うい。
大きな排出源は鉄鋼、化学、セメントなどの工場、火力発電所、自動車である。
日本だけ負担が重くなれば、工場を海外に移すしかない。競争力が失われれば雇用は守れない−。
コペンハーゲンでの国際会議を前に、業界からは悲鳴ばかり。削減への覚悟を示した経済人はわずかだった。
主要な排出源である企業の責任は大きい。リーダーシップをとって環境的に優れた製品やサービスを提供していく努力がほしい。
<果敢にチャレンジを>
もともと環境技術は日本のお家芸だ。公害防止や省エネで培った実績がある。温暖化対策の技術でさらに先行できれば、世界市場で優位に立つこともできる。
「やってみもせんで何いっとるか」。ホンダの創業者、故本田宗一郎さんの口癖だったという。
「頭で考え、手で考えろ」「ああやって駄目なら、こうやってみろ」。「難しい」と言う部下を一喝した。厳しい排ガス規制をクリアする世界初のエンジンをはじめ独創的な技術を開発している。
いまの企業に必要なのは“やってみろ精神”ではないか。
政府の全面支援も欠かせない。規制緩和や税制改革によって企業の創意工夫を引き出していかなければならない。技術立国を支える人材の育成も重要になる。
CO2削減で高い目標を掲げたのは鳩山政権である。具体的なビジョンを示す必要がある。
その道筋は、低炭素・循環型社会の構築と、経済成長とを同時に進めることだ。
米国はこの目標を成し遂げるため、グリーン・ニューディールを打ち出している。環境や再生可能エネルギー分野への投資によって景気を刺激し、産業・社会構造の転換を目指すものだ。この考え方は先進各国の主流になっている。
<省エネ住宅への挑戦>
県内でも、エコに挑戦する企業が少なくない。高気密・高断熱の家を研究してきた上水内郡飯綱町の住宅メーカーも、その一つ。
「独立して三十数年、結露があったという施主の指摘がきっかけで、暖かい家造りにまい進した。方向は間違っていなかった」
社長の相沢英晴さんが目指すのは、省エネに徹した長持ちする家を安く提供することだ。昨秋建てたモデルハウスは県産材を使用した。カラマツの床は真冬も暖かく、足に心地よい。床下のエアコン1台がときどき動くだけで全体が温まる。長寿命の工法は、国のモデル事業に採択されている。
木材はCO2を吸収した缶詰だ。住宅が長持ちするほど、温暖化防止に役立つことになる。地元の木材を使う地産地消なら、輸送で出るCO2を抑えられる。森林の再生にもつながる。
夢の推進に必要なものは−。
「お仕着せの建材で簡単に造ることに慣れてしまった職人に、本来の技術を思い起こさせること。やる気を引き出すこと」
やはり、やる気が鍵になる。