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[インタビュー]沸騰する水ビジネス

[第6回] 「水は国家の安全保障の問題だ」

中川昭一・前財務相


 

自民党の「水の安全保障に関する特命委員会」の委員長として水問題を研究し、産官学にまたがる「チーム水・日本」の結成を主導した中川昭一前財務相。どのような戦略を描いているかを聞いた。

(2009年4月28日、東京都千代田区の議員会館事務所で。聞き手・梶原みずほ)

 

―― 水の国家戦略の策定に関心を持つきっかけは何ですか?

中川昭一氏

中川昭一 日本は食糧など輸入大国ですが、一番大切な水だけは豊かだと思っていたんです。ところが、実際はそうではなかった。農水相や経済産業相などを歴任し、いかに安全で、かつ適量を世界の人々に給配水していくかということに関心を持つようになり、5年前に個人で勉強会を始めたんです。その後、自民党の政調会長になったとき、党に「水の安全保障特命委員会」をつくりました。


―― どのような問題意識をもっていますか。  

中川 まず、日本の場合、水の問題はみんなばらばらにやっている。天気なら気象庁、山に入れば林野庁で、農地に流れれば農水省で、海に流れれば水産庁……。工業用水があって、生活用水があって、排水があって。企業も優秀な技術をもつ企業もあるが、膜、プラント、パイプメーカーと分かれていて、縦割り、横割り、ギザギザ。これでは海外進出を含めて、何にもできません。


―― 昨年7月、議論の結果を約670ページの報告書にまとめましたね。

中川 「水」にちなんで毎週水曜、関係省庁、学界、産業界、NPOの方々に入ってもらって50回以上の会合をやりました。そこでは申し訳ないけど、役所には一切発言を遠慮してもらいました。傍聴は認めましたけれど、役所が発言すると、役所の話だけになってしまって前に進まないですからね。

党、政府をあげてあらゆる水の英知を集めていかないと、地球温暖化や海水上昇、洪水、飢饉(ききん)などの国際問題などに立ち向かえない。昨年夏の北海道・洞爺湖サミットにあわせ、提言を出しました。

 

―― 「チーム水・日本」という組織をつくりました。役割は?

中川 あらゆる分野の専門家がチームに入ります。ふわっとした、組織でいいんじゃないかと思っています。

たとえば、国際協力機構(JICA)や大使館、現地に駐在員や研究者、あらゆる人たちがその国の情報をもっているんだから、「チーム水・日本」という大きなくくりの中で、うまく情報交換していくことが大事。もっと官民でビジネスチャンスをみつけてくることも必要でしょう。

 

―― 日本企業も水ビジネスでの海外進出に意欲を見せています。

中川 水はシステムとして半永久的に動いていかないといけない。だからメンテナンスは非常に大事。「日本の優秀な技術できれいな水をつくりました」だけでは話は半分です。毎日供給されて初めてうまくいく。そこはビジネスとして成り立つ部分と、政府の途上国援助(ODA)でやらないといけない場合の二つあると思います。水を人々に供給するという点で行き着くところは同じなのですが、ビジネスとODAのあり方は、違ってしかるべきだと思います。

 

―― ヴェオリアやスエズなど欧州メジャーが大半を占めてきた市場に、韓国やシンガポールなど企業も参入してきていますが、日本企業のチャンスをどう見ていますか?

中川 日本は残念ながら、モノのシステムはつくるけれども、メンテナンスを何十年かけてやったり、漏水を防いだり、課金をきちんとしたりするノウハウは、自治体がもっています。

しかも、自治体のノウハウや実績を海外でビジネスをするうえで生かそうにも、現状の制度や法律では、限界があります。国際的な競争の中でどうやって活用していくか。そこを乗り越えていかないと、欧州メジャーであるフランスのヴェオリアやスエズには太刀打ちできないし、「チーム水・日本」も絵に描いた餅になってしまいます。

 

―― 産官学が一体で欧州メジャーと互角に力をつける?

中川 そうです。日本がこれから生きていくうえで、やっていかないといけないと思います。 膜メーカーが水道システムまでビジネス範囲を広げるかどうかは企業の判断ですが、日本の水ビジネスは海外ではほとんど実績がないですから、相当努力していかないといけません。「膜技術世界一」といっているけど、いつまで世界一か、いつ抜かれるかわからないという意識を僕はもっています。「オン・ザ・ジョブ」で進歩していかないと。

現に韓国やシンガポールは国ぐるみでやっています。日本も官民一体となってやるべきだと思います。現時点では、「水は大切なのに、非常に危うい状態にある」という認識を、たとえば文科省に教育を通じて広めてもらえるようにしたいと思っています。

 

―― 外資企業の日本への参入が進んでいます。

中川 海外からみると、日本は設備の更新時期でもあり需要は高く、水道料金はみんな払うし、暴動はおきないし、ビジネスに参入しやすいと思います。ただ、水のビジネスは、最終的に安全保障の問題だと思っています。「もうからないから、やめて帰っちゃえ」といわれたら、困るわけです。電気やガスとも違う。水は国民の生命であり、財産であり、採算性だけでやるものではない。

 

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