きょうの社説 2010年1月17日

◎石川のアパレル支援 高めたい地域からの発信力
 繊維リソースいしかわの後押しで、県内の縫製、アパレル企業が、東京での自社ブラン ドの売り込み強化に動いている。国内の衣料品市場は縮小と低価格化が進み、地方のアパレル関連企業は厳しい経営環境にあるだけに、最新ファッションの中心地である東京で積極的にアピールする姿勢は大いに評価される。

 大市場に打って出る姿勢と同時に、地域からのブランド発信力を高める取り組みと、地 元のアパレル産業を支える人材の育成にも一段と力を入れてほしい。例えば、毎年開催される「金沢コレクション」をより充実させ、認知度を高めていけば、石川のアパレル、ファッション都市金沢の評価も上がり、デザイナーなど人材の定着を図ることにもつながろう。

 繊維リソースいしかわは、新年度から縫製業者の支援事業を本格展開する方針で、その 先駆けとして、自社ブランドを持つ県内の縫製業4社が東京・南青山に共同ショールームを開設し、アパレル企業としてアピールするのを支援するという。繊維産業の流通構造の変化に応じ、大手の下請けが中心だった縫製業者自身が、企画・販売もできるアパレル企業に転身することは、石川産地の生き残り戦略として大変重要である。

 また、繊維リソースの取りまとめで先ごろ、県内のアパレル6社が東京のファッション 見本市に出展した。こうした共同のショールームや合同の見本市出展は「石川ブランド」のPRにも効果的であるが、ファッション産業界ではこのところ、地域からの発信力の強化も一段と重要になっている。

 ファッション業界の東京一極集中に抗する形で、神戸や福岡、札幌、仙台などで各都市 名を冠した「コレクション」が開催され、足もとの市場拡大にもつなげていることが一例である。北陸最大級のファッションショーである「金沢コレクション」を他都市に負けないものに育てていきたい。

 県内のファッション系人材の教育機関は比較的充実しているが、卒業生の多くが東京な どへ出ることが課題になっている。県内のアパレル業界の魅力が増せば、人材の流出も減るだろう。

◎法制局長官の答弁禁止 憲法解釈権はどこにある
 民主党は、内閣法制局長官を含む官僚の国会答弁を原則禁止する国会法改正案を今度の 通常国会に提出する予定で、政府も法改正を待たずに法制局長官を国会審議に参加させない方針である。「政府の憲法解釈の番人」ともいわれる内閣法制局のトップが国会で見解を述べるのを封じることは、その時の政権の便宜的、恣意的な判断で政府の憲法解釈が安易に変更されかねないとして反対論も根強いが、国会答弁禁止の是非はむしろ枝葉の問題であり、憲法解釈の権限と責任はどこにあるかという原理原則を確立することの方がより重要であろう。

 内閣法制局は内閣の下で、省庁の法律案や政令案が憲法に反しないかどうかなどについ て審査し、法律問題に関して内閣に意見を述べる役割を担っている。しかし、法制局の憲法解釈に法的拘束力があるわけではない。内閣や国会は独自に憲法解釈ができ、それに基づく法律や行政措置が憲法に適合するかどうかの最終判断は最高裁判所が行うことになっている。

 ところが、最高裁が憲法判断に消極的なこともあって、政治における憲法解釈権は実質 的に内閣法制局にゆだねられているのが実情である。法制局の憲法解釈が絶対視され、「護憲の砦(とりで)」のように見なされているのは決して正しい状態ではなく、「法制局長官の考え方を金科玉条にするのはおかしい」という鳩山由紀夫首相らの見解はもっともといえる。

 自衛隊の戦力保持や海外派遣、集団的自衛権行使などに関する政府の憲法解釈は本来、 内閣の責任と判断でなされるべきもので、鳩山政権が「政治主導」でその原理原則を通そうというのであれば、それだけ高い見識や的確な判断力が必要になってくる。

 内閣法制局が憲法解釈権を持ち、法制局の了解がないと政府見解を変更できないような 状況を国民が容認してきたのは、政治に十分信頼をおけないせいでもあろう。法制局長官の国会答弁を禁止しようがしまいが、現行制度上、法制局の役割と意見を尊重しなければならないことに変わりがない点を認識する必要もある。