政府・与党は永住外国人に地方参政権を付与する法案を、早期に国会提出する方向で調整している。政権交代を機に制度改正への機運が高まりつつあるが、国の主権が絡むだけに慎重論も根強い。見切り発車は避け、幅広い議論を通じて合意点を見いだす努力が必要だ。
鳩山由紀夫首相は選挙制度の見直しに前向きな姿勢を示し、与党内の調整に関しても「理解を得られると思っている」と語った。民主党の小沢一郎幹事長は政府提出法案として早期の成立を目指す立場だ。
日本に住む外国人のうち、永住する資格のある人に限って日本国籍がなくても地方選の選挙権を与える方向で検討している。被選挙権や国政選挙は含まない。永住者への参政権付与は在日本大韓民国民団(民団)が運動を続け、韓国の歴代政権も折に触れて日本側に要請してきた。
法務省によると日本にいる永住外国人は2008年末時点で約91万人。このうち在日韓国・朝鮮人などの特別永住者が約42万人を占める。
在日韓国・朝鮮人は日韓併合などの歴史的な事情で日本に住み、戦後に永住権を取得した。「地域社会の一員であり、納税の義務も果たしている人々にせめて地方選挙権を」という主張は理解できる。
一方、外国人の政治参加には憲法違反の疑いが濃いとの強い反対論がある。憲法15条は「公務員を選定し、及びこれを罷免することは国民固有の権利である」と規定する。永住者の国籍取得の要件は以前より緩和されており、「選挙権を得たいなら帰化すればよい」という意見だ。
地方の首長や議会、行政が外国人の影響を受け「安全保障などの面で懸念が多い」との声がある。韓国は09年2月に海外に住む韓国人への国政選挙権の付与を決めており、日本が在日韓国人に地方参政権を与えると「国をまたいで2重の投票権が生じる」との指摘も出ている。
政界では公明党や共産党は制度改正を推進する立場だ。与党でも民主党内に異論がくすぶり、国民新党は反対している。自民党内にも慎重意見が根強い。
民主党は選挙権付与の対象を「国交がある国」とし、北朝鮮籍の人は除外する方向だ。実際に選挙権を与える範囲や将来の移民政策との兼ね合いなど残る論点は多い。
今年は日韓併合から100年の節目であるのも議論の高まりの背景にある。しかし参政権は憲法や民主主義の根幹にかかわる。時の勢いをかり、反対意見を封じ込め、結論を急ぐような対応はとるべきでない。