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生きる:事業仕分け=小川道雄・熊本労災病院顧問 /熊本

 ◇どうなる日本の医療

 今年の流行語大賞は「事業仕分け」ではないかと思っていた。国の約3000事業のうち243事業を選び、必要かどうかを「公開の場」で「外部の視点」から「廃止」「予算削減」「事業見直し」に分類するものだ。結果は行政刷新会議に報告され、来年度予算案に反映されるという。

 数年前から「事業仕分け」はいくつかの自治体で行われてきた。昨年は国レベルでも、文部科学省の事業について行われた「政策棚卸し」は、同じ型式だった。ただ今回は、政権交代で国民の期待感が高まっていたし、インターネット中継があった。テレビニュースでも、各省の担当者の説明を、仕分け人が容赦なく切り捨てるシーンだけが、繰り返し放送された。関心が高まるはずである。

 たしかに公開の場で、これだけの規模の「仕分け」が行われたこと自体、新鮮で画期的と思う。しかし、はたして国の将来を見据えた作業だろうか、と疑問に思った。

 私がかかわっている1日目の医療関係予算の仕分けを見ると「診療報酬の配分」「医師確保」「救急・周産期対策の補助金」などが大きな審議項目だった。ワーキンググループの結論は、いずれも見直しか、半額削減である。

 経済協力開発機構(OECD)の調査によると、国内総生産(GDP)に占める日本の保健医療支出は、30カ国中の21位で8・1%、30カ国平均と比べて、1ポイント近く低い(07年)。他国に比べてはるかに少ない医療従事者で、高いレベルの医療提供体制がつくられている。それを主に支えているのは、医療従事者の過重労働だ。その体制が、今崩壊に瀕している。

 「仕分け」の判定に対して、医療従事者が、科学者や芸術家のような目立った声をあげないのは、すでに諦観(ていかん)の境地に達しているからだろうか。財務省は診療報酬全体を、できれば引き下げたいと、考えているというのに。

 英国の医療崩壊を立て直したブレア政権は、目標値を明確に設定して、まず政治主導で医療費増額、次に医療従事者の大幅増員を実行した。日本の現在の動きは、安心、良質、高度な医療を切り捨てる方向にある。

 無駄な予算の廃止、前例踏襲の打破は必要だ。しかし将来の展望、戦略の全くない状況で行われた「事業仕分け」は、国民の目くらまし以外の何物でもない。「必殺仕分け人」という評もあった。1時間のドラマを見ているような、その場限りの、終わって「ああ面白かった」「気が晴れた」で、チャンネルをスポーツ番組に切りかえ、結果を忘れさせるものだ。

 現在の政治の動向をみて「自民党をぶっこわす」から「日本をぶっこわす」になってしまうのではないかと恐れる。

毎日新聞 2009年12月26日 地方版

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