ファントーシュ編集室発行 季刊ファントーシュ2号

表紙 裏表紙
誌面目次
アニメーターが語る第2回

手塚治「ある森の伝説を語る」

5
特別寄稿 森卓也 8
あにめいしょんのつくり方(1) 12
シリーズ 映画フィルムはなぜ? 杉本五郎 23
TVアニメーションの小視考A 20
日本人形アニメーションの歴史(2) 中村武雄 15
ノーマン・マクラレンの世界(結) 17
あなたも上映会を・・・の2 おたより・情報・サークル紹介 40
ミニリスト・加奈駄 45
アニメと私 及川恒平 22
ゲスト 松本零士 私は「みつばちマーヤ」を作りたい 26
レイ・ラリーハウゼン研究(2) −その誕生からデビューまで− 20
シナリオ「わんぱく王子の大蛇退治」(中) 脚本 池田一朗/飯島敬 39

解説:ファントーシュ編集室発行の季刊ファントーシュ第2号です。

 誌面は相変わらず手書き文字と活字が混在するツギハギで誤字・誤植も満載!目次タイトルと記事見出しの不一致など・・・全国向け発行物としてあるまじき構成の代物です。ここで引用する記事も誤字・脱字を含め原文のまま・・・

私は「みつばちマーヤを作りたい。 松本零士

※本誌には宇宙戦艦ヤマト放映終了まもない1976年2月に松本零士氏に試みたインタビュー記事が掲載されています。近年世間を騒がせた宇宙戦艦ヤマト問題の帰結に示唆を与える松本氏自身の口から語られた発言(赤字部分)が含まれています。全文引用でご紹介します。

宇宙戦艦ヤマトの監督をやる話は、どんな形で・・・・・・

 あれは、ほんとにふってわいた話しで、ぼくの所へ話しが来るまでに、企画書もできてたし、 よみうりテレビで放送する事も決まってました。 ただ“ヤマトがどこかへ行くんだ”という、行くという部分までの設定ができてたわけです。その段回では、イスカンダルヘ何をしに行ってどうこうというような細かい設定は出来てませんでしたね。 

企画は大部前からあった様ですが・・・・・・ 

 うん、それはね、ぼくもこの頃になって知った事なんですが、それはヤマトではなく小惑星を、(岩みたいな船を)飛ばすという話があったというのをズーとたって聞いたのね、こちらはいきなりヤマトのはなしで、戦艦ヤマトを宇宙に飛ばすんだという話でどうだろうか? という話を聞いたから、こちらのカミカタとしては非常におそかったわけね 何故それがヤマトにかわったかはわかりません。ぼくが行った時には、あの立派な企画書ができていて、ヤマトのテザインも岩盤をつけたような船いわゆる船ネ、戦艦ではない)のデザインができてましたネ、だれのデザインかはわからないけど、コスチューム・デザインも何点かありました。さて、どうするか、という段階で会議に入ったわけです。 

練りに練ったワケですね。 

 10時間くらい会議をやったりネ、そんな事ばっかりやっていたから練りに練ったつもりだったけど・・・・・・・・・・・・・・。それにヤマトそのものが誤解をまねきやすいテーマだったので、戦記物とまぎらわしいんで、それを極力宇宙物として作り直していくという方向で会議を繰り返したんです。 

キャラクターの性格が回を追うごとに変ったようですが。 

 あれがね結局、大勢でやってるために、大勢っていっても正確に言うと、西崎さんとオレと山本暎一さんの三者で性格設定を決めていくわけ、それプラス藤川さん(脚本)とで決めていくとね、4人の扇動であっさいったりこっちいったりするわけね、特に山本さんと西崎さんとおれとの間の性格設定のとりきめが時々変って行くんで、それか全体に不統一を描いた原因になっているわけです。(キャラクターとしてネ、つくり方としてではなく)キャラの性格上の移りかわりみたいなのを感じさせるのはその辺にあると思いますネ。 
 これはまあ試行錯誤の形をとったんで、どれか良かったかと言われると正直いって、おれにもわからないのね。こちらは本当に生まれてはじめてのアニメーションなんだから、オレにとっては一つの実験みたいなものだから、もうわけがわからないけれど、 
 当時としては1話から3話くらいまでは主人公古代だとかあの辺の性格を追っていきたかったという希望はあったけれど、それが良かったか悪かったかといわれると、こちらもまだ結論が出たわけじゃないから今、再放送をやっているんで、当時夢中でわからなかった欠点が良くわかるネ、冷静になるし、当時できそこなったと思った部分でも今見るとかえっていい面も出てくるんで、今、再放送をみて、しみじみと反省をしているんだ(笑)。 
 だから本当にいきなりあーいう仕事に加わってやってね、ある程度、まかされてやったということは非常に幸福な事だったんで、こういう舞台が与えられたということについてはかんしゃしているんです。
 結局、あれは自分にとってひとつの勉強だったわけです。 


 ヤマトは正確に言うと、企画・原案というのが西崎氏で、ストーリーの原作者となるとあいまいでわからない。協議して作りあげたものとなるのかなあ?自分として言えることは、各話を追っていく基本的なストーリーやアイデアの大部分を出したという気憶があるわけで、設定を含め、個々の細かい戦斗アイデアまで含めたもの、アイデアその他も共同作品だからといって出しおしみもしなかったし。だから、その問いに対してはあいまいだね。 

もう少し、ああしたかった・・・・・・てな事はありますか?

 ムード的には、もっとヤマトの重量感というかロマンというか、そんな乗組員の少年や男の子たちのそういうロマンをもっとおもてに出しても良かったと思う。さいわい主題歌その他、音楽が良かったんですくわれたんだけど、もっと正面きって1本、はっきりとおるムードというのを出したかった。スターシァのあつかいがまだもの足りない、今度あれに必的するものが相手がたにあった場合、もっと完全に動かすつもりですし、女のキャラクターをキチンと動かしてみたい気がするね。 
 
飛び立つまでにもっと時間が欲しかった様ですが

 うん、本当は6話ぐらいで飛び立つ予定だったと思うんだが、これは色々な方面からの要望で早急にヤマトの全容を出してほしいということだったので、ねじまげてああしてしまった。最初のストーリーではああはなってないね。
 これはおやじとせがれ向けでね。だからあのヤマトが起きあがるところ、もっとじっくりやりたかった。演出方法もこちらのいたりなさで・・・・・・もの足りない。もっと大々的、もっとはなばなしく登場させたかった。 

当初39本、3クールだったはずですが、 
 
 39本やってたら、ほんとにヘタばってただろうなあ、物語は完璧になったと思うけど。 

TVアニメにつきものの中たるみが・・・ 

 あのビーメラ星あたりが、ちょっと脱線してしまったのかなあ、と言ってもオレの責任でもあるんだから、今さらグチを言ってもあとの祭り、いさぎよくしましょう。 完全なSFとして作りたかったという、こちらには願望があるわけ、そこら辺で「ヤマト」という素材をあつかっていくには、ちょっとムリな部分があるわけだよね。あらゆる設定そのもの、ヤマトを使うにしろなんにしろ、完全なSFとして後ろ指のさされないものを作りたかったというコーカイがあります。ところがこれはヤマトのねらいと脱線する部分も出てくるし、それにはそれの事情があるからこちらも押しとおせないし、やむをえない。 
 だけど、まあこちらにすれば良くもまあ、あそこまでやらせてくれたという気もあるしね。まあ、いい場所を与えてくれたという感謝をしこそすれ、それ以上どうこうとはない。 ただ、たださぞや現場は大変だったろう・・・・・・

キャプテン・ハーロックという人は? 

 あれは39本だったら出す予定だったキャラクターで、26本になった時すでに時間的な余裕がなかったためカットしたんですが、ハーロックは私の主役級の大事なキャラクターで中学の時に作りあげていた人物です。出す時は中途半端な出し方はしたくないヨ、アイツだけは。

ファンの女の子の反響は・・・・・・ 

 うん、手紙を山の様にもらったけど、おれ大筆不精だからあまり返事かかなかったけどね。「ヤマト」を作る時、打ち合わせの段階で、こちらが意図してた方向にもってたものに対する、一応予測された反応があったということになるのかなあ、こういう作り方をすればこうなるかもしれん、という予測は漠然とあったけれど、
おやじとせがれ向きのつもりていたので女の人が、ああまで盛大に見てくれたという事に、正直いって、たまげた。 
 
主人公をお兄さんとして憧れている様ですが? 

 そういう話は良く聞くよ。これは血のかよったキャラクターとして受けとられたという事は非常にうれしい事だよね。フィクションの人物でもあるし、しょせんセル板に描かれた絵なのにね。その辺で、性格設定とか血のかよわせかたというのが非常に大事な事になるわけです。 
 
ヤマトを終えて・・・・・・・・・ 

 西崎氏は、アニメーションを初めてやるオレという男に任せてどうなるかわからない。−−すると山本氏の他いろいろな人達は長年の経験があるから、こういえばどういうものがあがるか絶対的な信頼感があったわけ。しかしこの監督は何をしでかすかわからないわけ、さぞ不安だったろうに、こっちだってこれからおれはどうなるのだろう(笑)と考えたもの。大いに勉強になりましたね。 

又、アニメはやりたいですか? 

 ウン、あれでコリただろうとみんな言うけど、別にやり方の問題であってね。当然なんで。あれこそいい試練の場だったから何にも変えがたい経験だった。あの時にしみじみと感じたんだけど、現場のみなさんというか、こちらは去年いきなりやっただけのことで、とにかくアニメについてはアマチュアだよね、ところが皆さんは20年近いキャリアがあるんだよね。こちらもよくわからなかったんだけど、口でしゃべったり、打ち合わせをした事がほぼ確実にフィルムになってきてるわけです。このとき、ああこの人たちはほんとのプロだという信頼感ができて、それはもう次をやるときこっちのプラスになるわけ。ここはあの人にまかせれば絶対できると、自分がゴチャゴチャ口を出して言う必要もないという、そういうみんなのプロという腕前をはっきり認識したし、大勢の人と知り合いになって随分プラスになりました。 
 ほんとうは、漫画映画(まだアニメと呼ばれてない頃)を作ることが、おれの主たる目的だった。しかし作るには、金とかスタジオとかの問題が絡んできて結局、雑誌への方へ行ってしまっ
た。 
 はじめて東京へでてきた時、当時「みつばちマーヤ」を作った会社がたしかにあったヨ。思い違いで、別の会社からの話だったかもしれないけれど、第3者を通じて、入らないかとさそいがあった。さて入ってしまって自分の立場がどうなるか、自分のやりたいことと無縁のアニメを作ることになるので、自分のいる所をはっきりさせて、自分にもっともてきしたものを作るべきだと片いじをはって行かなかった。 

では漫画映画にあこがれて、それから雑誌漫画の方へ入っていった・・・・・・・・・ 

 そう漫画を書くこと全体が好きで、紙にかく事と平行して漫画映画にあこがれた。だからどうしてもディズニーやフライシャーかぶれになってしまうが、さいわい九州にいた時はめぐまれていてソ連のアニメを映画館で見れた。あっちこっちと片寄らず、色々なアニメをたくさん見ることができたわけで、大変めぐまれていたみたいだった。 
 こちらもSFと同時に「マーヤ」のようなメルヘンチックな、おだやかなものを作りたい、生涯の夢と言うと大げさだけど完全に全部自分の手で作りたいのは「みつばちマーヤ」でネ、自分の感じかた、描写の仕方で完全に、1本にまとめたい、という気がある。 
 正直いってTVで始まった時、大変、気になった「おれもやりてえなあ〜〜〜〜」。
自分だったらこうする。というのがあるんです。絵的にも、ものすごく清れいなイメージの浮かぶ原作なんで、それを自分なりのイメージで昆虫の世界をテーマにして完全にやれたらというのが、 
願望です。
 「マーヤ」は作りたいね!完璧と言うのはおこがましいが、少なくともあのイメージはつくってみせるというのが子供の時から思い描いてきた・・・・・・だから1カット1カット全部できあがっており、色まで決まってる。とにかく漫画映画をつくりたいのは1にも2にも、「みつばちマーヤ」を完全に映画にしたいと気があったんで、その事ばかり空想していた。 
 ヤマトはヤマトでうれしかったけれど、”マーヤ”を依頼してくれりゃ大いにハリキッタんだけど。 
 ヤマトだとか、SFポイッ物をやると、そういうものばかり志向してるみたいに誤解されてね。ぼくには両面あっておだやかな、マーヤだとかそのタイプのアニメを作りたい、という気があるわけです。そのどっちに向いているのかといわれたら、作ってみせてくれたら自分でもわかると思うけど、世の中はそう甘くはないだろうね。しかし、両方をやってみたい。その両方の接点が“スターシア”だとか、女の出し方の部分の共通点になってくるわけで、
どうなるかそれこそわからないけれど、何とかなるのではあるまいか!?とにかく色々勉強して、色々やってみたい・・・・・・・・・。 
それから、フライシャーの「バッタ君、街へ行く、が、おれは大好きです。 

昭和51年(1976年)2月3日夜

松本零士宅にて 

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