平成21年12月
日本は、国民の安定的な経済・社会生活の基盤となる各種エネルギー資源や鉱物資源、漁業資源、農産物やその他の資源の多くを海外からの輸入に依存しています。四方を海に囲まれた我が国は、この輸入のほとんどを海上輸送に頼っています。また、国内で生産された製品の市場を海外に求める貿易立国であり、我が国貿易に占める海上貿易の割合は約99パーセント(輸出入合計、トン数ベース。金額ベースでは約75パーセント)と、貿易のほとんどを海上輸送に依存しています。このような日本にとって、海上交通路の安全確保が妨げられると、経済活動、国民生活に大きな影響を及ぼすことになります。
近年、特にソマリア周辺海域において航行中の貨物船やタンカー等の船舶が海賊等に襲撃される事件が多発・急増しています。海賊問題は、日本の海上輸送への脅威となっているばかりではなく、世界全体の社会の安定と経済の発展に大きな脅威となっています。日本は、東南アジアの海賊対策として、アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)の作成を主導し、積極的に貢献をするとともに、アフリカ沖の海賊に対しても、特にソマリア沖・アデン湾において海賊事案が頻発していることを受け、関連する国連安保理決議の採択に賛成しました。
海賊対策は、何よりも日本国民の人命及び財産の保護の観点から、急を要する課題であるというのが、これまでの一貫した認識です。
2009年3月13日に、内閣総理大臣の承認を受けて、防衛大臣が海上警備行動を発令しました。これを受け、翌14日に海上自衛隊護衛艦2隻(「さざなみ」及び「さみだれ」)が出航し、3月30日にソマリア沖・アデン湾における護衛活動を開始しました。また、10月13日に第3次隊(「たかなみ」及び「はまぎり」)が出港しました。3月30日から、12月6日現在で85回(海賊対処法に基づき44回)の護衛活動を実施。さらに、P-3C哨戒機2機が5月31日にジブチに到着し、6月11日からジブチを拠点にアデン湾における警戒監視等を実施しています。
また、政府は、これまで新たな海賊法制の整備を進めてきましたが、2009年3月13日に「海賊対処法案」について閣議決定が行われ、国会の審議を経て、同法案は、6月19日に成立しました。これにより、保護される船舶等について国籍を問わず対処することが可能となる等、より適切かつ効果的な海賊対処が可能となりました。7月28日から、同法に基づく護衛が実施されています。
なお、日本は、ソマリア沖海賊問題の解決のためには、沿岸国の海上取締り能力の向上と、不安定なソマリア情勢の安定が、いずれも必要であると考え、そのための具体的な支援を行ってきています。
政府は、引き続き国際社会と連携しつつ、このような多層的な取組を進め、海賊対策に積極的に取り組んでいく考えです。
(参考)ソマリア沖を通過する日本関連船舶は、年間約2,000隻(4〜5隻/日)。日本〜欧州航路の大動脈であり、日本からの自動車輸出全体の約2割(約150万台)が同海域を通過しています。
国連海洋法条約101条には、海賊行為に関する定義があり、要約すれば、「私有」の船舶等の乗組員等が「公海上において」、「私的目的」のために人若しくは財産にして行う不法な暴力行為や略奪行為等を指すとされています。(該当条文は下記を参照。)
しかしながら、一般的には、「海上を横行し、往来の船や沿岸地方を襲って財貨を強奪する盗賊」(広辞苑第5版)という意味で用いられることが多く、公海以外の水域において発生した事件でも、普通は、「海賊事件」と称されているのが現状です。
以下の文章における「海賊」とは、特に断りのない限り、公海及びそれ以外の水域両方で行われる不法な暴力行為等を指します。
(参考)国連海洋法条約関連条項
第百一条 海賊行為の定義
海賊行為とは、次の行為をいう。
(a)私有の船舶又は航空機の乗組員又は旅客が私的目的のために行うすべての不法な暴力行為、抑留又は略奪行為であって次のものに対して行われるもの。
(i)公海における他の船舶若しくは航空機又はこれらの内にある人若しくは財産
(ii)いずれの国の管轄権にも服さない場所にある船舶、航空機、人又は財産
(b)いずれかの船舶又は航空機を海賊船舶又は海賊航空機とする事実を知って当該船舶又は航空機の運航に自発的に参加するすべての行為
(c)(a)又は(b)に規定する行為を扇動し又は故意に助長するすべての行為
発生件数 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 1月-9月 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
東南アジア | 170 (38.2%) |
158 (48.0%) |
102 (37.0%) |
83 (34.7%) |
70 (26.6%) |
54 (158.4%) |
32 (10.5%) |
アフリカ全体 | 93 (20.9%) |
73 (22.2%) |
80 (29.0%) |
61 (25.5%) |
120 (45.6%) |
189 (64.5%) |
200 (65.4%) |
ソマリア沖 アデン湾 紅海 |
21 (4.7%) |
10 (3.0%) |
45 (16.3%) |
20 (8.4%) |
44 (16.7%) 〈1〉 |
111 (37.9%) 〈3〉 |
162 (52.9%) 〈1〉 |
全世界 | 445〈12〉 | 329〈7〉 | 276〈9〉 | 239〈8〉 | 263〈10〉 | 293〈12〉 | 306〈4〉 |
(注1)( )内は全世界発生件数に占める割合。
(注2)〈 〉内は日本関係船舶(日本籍船及び日本事業者運航の外国船)被害数。(国土交通省の資料に基づく。)
○(参考)2009年の海賊事案は、12月10日現在で209件(既に2008年の発生件数の約9割増。ハイジャックされた船舶は42隻)、また、11隻の船舶が拘留されており、約245名の乗員が人質となっています。(IMBから聴取した内容に基づくもの。)今年1月から9月末までの発生件数は、IMB作成のレポートによれば、アデン湾(紅海含む)115件、ソマリア沖47件です。
また、アデン湾だけでなく、ソマリア東部での発生件数が増えています。特に、2009年10月以降は、海賊対処のために各国海軍の艦船が継続して派遣されているアデン湾では、乗っ取り事件は発生しておらず、事件のずべては、ソマリア東部沖、特にセーシェル諸島の北方海域で10件発生しているのが特徴です。12月10日時点で、同年の乗っ取り事件の発生件数は、アデン湾は18件、ソマリア東部沖は24件となり、ソマリア東部沖の発生件数がアデン湾の発生件数を上回っています。
◎最近の主な海賊事件(報道等公開資料によるもの)
(a)2009年3月、ソマリア沖で、日本企業が運航する自動車運搬船が海賊から銃撃を受け、船体に損傷を受けたものの、同船の回避行動により海賊の襲撃を振り切りました。
(b)2009年4月、ソマリア沖で、世界食糧計画(WFP)の支援物資などを積み、米国人乗組員が乗船するデンマーク企業保有の米国船籍貨物船「マースク・アラバマ」が乗っ取られ、米国人船長が連れ去られましたが、米海軍が同船長を救助しました。海賊一人は、ニューヨークに連行され、起訴されました。
(c)2009年4月、ソマリア沖で、フランス海軍は乗っ取られたフランス船籍のヨットに対し救出作戦を実施し、人質を救出しました。
(d)2009年5月、アデン湾で、アンティグア・バーブーダ船籍の貨物船が乗っ取られました。(2009年7月解放。)
(e)2009年6月、オマーン領海内で、ドイツの貨物船が乗っ取られました。
(f)2009年7月、アデン湾で、トルコ船籍の貨物船が乗っ取られました。(2009年10月解放。)
(g)2009年7月、アデン湾と紅海の境界付近(バブ・エル・マンデブ海峡)で、日本企業が運航するケミカルタンカーが高速船2隻に追跡されましたが、国際VHFからの通報を受けた近くの艦船が到着し、海賊は逃走しました。
(h)2009年10月、ソマリア沖で、スペイン船籍の漁船が乗っ取られました。(2009年11月解放。)
(i)2009年10月、セーシェル諸島の北方海域で、シンガポール船籍のコンテナ船が乗っ取られました。
(j)2009年10月、セーシェル諸島の北東海域で、中国船籍の貨物船が乗っ取られました。
(k)2009年10月、セーシェル諸島の西方海域で、パナマ船籍の貨物船が乗っ取られました。
(l)2009年10月、ソマリア沖インド洋で、英国人夫婦の乗ったヨットが乗っ取られました。
(m)2009年10月、セーシェル諸島の北方海域で、タイ船籍の漁船が乗っ取られました。
(n)2009年11月、ソマリア沖インド洋で、マーシャル諸島船籍の貨物船が乗っ取られました。
(o)2009年11月、セーシェル諸島の北東海域で、マーシャル諸島船籍の貨物船が乗っ取られました。
(p)2009年11月、セーシェル諸島の北西海域で、バージン諸島船籍の貨物船が乗っ取られました。(船長死亡。)
(q)2009年11月、セーシェル諸島の北東海域で、ギリシャ船籍の大型タンカー(約30万トン)が乗っ取られました。
(注:代表的なものを掲載しました。この期間に発生したすべての発生事件を網羅しているわけではありません。また、公開情報等を取りまとめたものであるため、記述が実際の事件の大要と異なる可能性もあります。)
(注)IMB
国際貿易等に関する取引習慣の統一化等を行う民間団体である国際商業会議所(ICC)の専門部局であり、海賊など海事関係の犯罪に対する防止対策等について、独自に情報を収集し、その分析等を通じて、広く海事関係者に助言を行っている機関。
ソマリア沖・アデン湾における海賊事案が急増しています。2008年にソマリア沖・アデン湾では111件の海賊事案が発生しましたが、これは全世界の発生件数の約4割を占め、2007年の同地域の発生件数の2倍半に当たります。我が国関係船舶も3件の海賊被害を受けました。3年連続で減少していた世界全体での海賊事件は、ソマリア沖・アデン湾での事案の多発を受け、2008年は2年連続で増加しました。他方で、2007年まで世界の海賊事案最多発地域であった東南アジア地域は顕著な減少傾向が見られ、5年連続で減少しています。2008年の発生件数は、近年の最多発年である2003年の約3割の水準にまで下がっています。
国際海事局(IMB)の調査によれば、2008年に世界中で乗っ取られた船舶は49隻であり、前年の18隻から大幅に増加しました。人質に取られた乗組員は889人で、前年の292人の約3倍も増加しました。このうち815人と約92%がソマリア沖・アデン湾における事案の被害者です。
2008年は、全世界で海賊事件により11人(前年5人)が殺害され、21人(前年3人)が行方不明になっている等、身体や生命に危害を与える凶悪な海賊事件が増加しています。
(イ)発生件数
日本関係船舶で、2008年に海賊等の被害(単に船舶に乗り込まれたものを含む)を受けた船舶は12件(前年:10件)でした。
船籍別の内訳としては、日本船籍2隻の他は外国船籍でした。
被害船舶の中で日本人が乗船していた船舶は1隻でした。
また、2009年は、6月30日現在、日本関係船舶が海賊等の被害を受けた事案は4件です。
(ロ)発生場所
2008年は、東南アジア周辺5件(前年:5件)、インド周辺2件(前年:2件)及びアフリカ周辺5件(前年:3件)で発生しており、アフリカ周辺の事案が増加しています。なお、アフリカ周辺の5件のうち、3件がアデン湾において発生しました。
2009年は、3件すべてがアフリカ周辺(うち1件はソマリア沖)で発生しています。
(ハ)被害状況
2008年は、アデン湾を航行中の船舶が海賊から銃火器らしきものによって発砲・追跡を受けるという事案が3件発生していますが、いずれも回避操船等によって海賊の追跡を振り切っています。その他の被害については、窃盗事案がほとんどでした。乗組員には被害は発生していません。
2009年3月には、ソマリア沖で日本関係船舶が海賊から銃撃を受け、船体に損傷を受けましたが、回避操船により襲撃を振り切った事案が発生しました。その他は、窃盗事案等で、いずれも乗組員には被害は発生していません。
(ニ)その他
2008年は、日本関係船舶ではありませんが、日本の船舶管理会社(乗組員の配乗、整備受託等を行う会社)等が関与する船舶がアデン湾で5隻、ハイジャック被害に遭っています。
海洋国家であり、貿易立国でもある日本にとって、航行の安全や海上の安全確保は国家の存立と繁栄に直結する極めて重要な問題です。現在、海洋交通路において、海賊行為が多発・急増していることは大変懸念すべき事態です。航行の安全確保や、何よりも、日本国民の生命及び財産の保護の観点から、海賊対策は急を要する課題です。
国連海洋法条約には、公海上における海賊行為について、海賊船舶の船籍にかかわらずすべての国が軍艦その他の政府公船により取締りをすることが認められています。これまで我が国には、公海上で他国による海賊行為を取り締まる国内法令がありませんでしたが、2009年6月19日に成立した「海賊対処法」の下では、日本関係船舶だけではなく、外国船等の護衛活動も可能となり、また、海賊行為を処罰することも可能となりました。7月28日から同法に基づく護衛が実施されています。
これに先立ち、3月13日に防衛大臣が海上警備行動を発令し、これを受け、翌14日に海上自衛隊護衛艦2隻が出航し、3月30日からソマリア沖・アデン湾における護衛活動を開始しています。12月6日現在、85回(海賊対処法に基づき44回)の護衛活動を行いました。更に、P-3C哨戒機2機が6月11日からジブチを拠点に活動を開始しています。
各地域における海賊問題に対しても、日本を含む国際社会によって様々な取組が行われています。
また、平成21年度補正予算において、海賊対策を実施する観点から、沿岸国の海賊対処能力の強化等を図るための経費として、約36億円を手当しました。
なお、本年1月より「ソマリア沖海賊対策コンタクト・グループ会合」(CG会合)が4回開催されました。第4回会合は、ニューヨークで我が国の議長の下、開催され、参加国が当初の24か国から約倍増し45か国となり、我が国が主導してIMOに設置されたマルチ・ドナー基金や、沿岸国に海賊被疑者の訴追費用等を支援するための国際信託基金を設置することに合意しました。なお、次回会合は来年1月の予定です。
国土交通省(http://www.mlit.go.jp/)
海上保安庁(http://www.kaiho.mlit.go.jp/)
IMO(http://www.imo.org/)
アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)情報共有センター(ISC)(http://www.imo.org/)
IMB(http://www.icc-ccs.org/index.php?option=com_content&view=article&id=27&Itemid=16)
日本財団(http://www.nippon-foundation.or.jp/)
日本船主協会(http://www.jsanet.or.jp/)
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