日本人が謝罪会見をするとなると冒頭は大抵こうだろう。「世間をお騒がせして申し訳ない」。世間にどう見られるかを行動規範とする感覚は、外国人には理解しがたいようだ
世間と呼ばれるものはIT(情報技術)化が進んだネット社会にも存在する。京都大霊長類研究所の正高信男教授は「IT世間」と名づけた(「他人を許せないサル」講談社)。携帯メールを頻繁にやりとりする行為は、もらったらお返しするという現実社会の贈答に通じる。メールの中身より、つながっている感覚が大事ということらしい
IT世間で音楽は「着うた」などとして携帯電話で入手するのが常識だ。だが、著作権料を払わない違法サイトが増え、無料だからと気軽に利用する人も増えてしまった。「みんながやっているから」という感覚だろうか
改正著作権法が今月施行され、私的目的でも違法サイトから音楽や映像を入手することが禁じられた。罰則こそないが、損害賠償など民事上の責任を問われる可能性もある
業界団体の調査では違法サイト利用に後ろめたさを感じる割合は10代より20代、30代と年齢層が上がるごとに低くなる。子どもへの啓発と同時に大人もわが身を振り返る必要がありそうだ
まだ歴史の浅いIT世間。少しずつ健全な常識を根付かせたい。