進路2010年 千鳥足外交では危うい
「米国追従の外交から対等な日米関係の構築へ」-。こう大見えを切って登場した鳩山由紀夫首相が、早くも正念場に立たされている。
最大の懸案となっているのは沖縄県宜野湾市にある米軍普天間飛行場の移設問題だ。「同盟関係を危うくしかねない」との懸念が聞かれるまでに、焦点化されてしまった。
ここまでこじれた原因は鳩山首相とその閣僚が無定見な「方針」を乱発したためだ。県外、国外への移設-嘉手納基地との統合-国外断念などなど。安全保障に関する政策が、思い付きのままに提起されるのは異様である。
◆日米安保の見直しを
米軍が日本に駐留する根拠となっている日米安全保障条約が現在の形に改定されてから、今年で50年になる。鳩山首相が「新たな日米関係」を唱えたのも、これと無縁ではあるまい。
日本外交の基軸が安保条約とそれに基づく日米同盟にあることは確かだ。ただ、条約改定時と現在とでは国際情勢が大きく異なっている点に留意する必要があろう。1996年に日米首脳が安保の再定義を行ったのも、時代に合わせた見直しの一つといえよう。
鳩山首相は大局的な見地から、日米安保の見直し、再定義を提起すべきだ。普天間飛行場をはじめとする沖縄の米軍基地負担削減や解消も、しっかりとこの文脈に位置付けられるべきだ。
日米関係の危機というなら、沖縄にあれほどの米軍を駐留させておくこと自体が不安定要因だ。米軍絡みの事件や事故に対する沖縄の反応にそれはよく表れている。
冷戦構造が崩れてから20年以上がたつというのに、日本外交の腰は一向に定まらない。これでは米国だけでなく、周辺諸国の信頼も得られまい。多極化する国際情勢に対応した、21世紀の外交戦略を早急に打ち出すべきだ。
◆拉致問題を動かそう
そうはいっても、事はそう簡単ではない。「脅威」の対象が複雑化し、日本が求められる役割も変わってきているからだ。軍事による国際貢献とは一線を画し、貧困や食料、環境問題などで力を発揮する場を探りたい。
日本に対する直接的脅威という意味では北朝鮮による核とミサイルの開発は看過できない。拉致問題は解決の糸口さえつかめないままだ。今年こそこの問題の解決に一歩を踏み出したい。
米国は北朝鮮との対話に前向きな姿勢を示している。ここに日本がどう関与できるか。普天間問題が打開できないからといって、日米の対「北」スクラムが緩むようでは困る。
北朝鮮との交渉を進展させることは、沖縄の米軍基地削減にもつながる。新たな発想で対処したい。
北朝鮮などの核がテロ組織などの手に渡る恐れは否定できない。米国のオバマ大統領が、昨年「核兵器なき世界の実現を目指す」と宣言したのも、そうした脅威を直視してのことだ。
核兵器廃絶は被爆国・日本の悲願である。オバマ大統領の宣言を言葉だけに終わらせず、実行へと導くのは日本の役割だ。理念を現実とどう合致させるか。ここでも日米両首脳が、腹蔵なく話し合うことが求められている。
◆東アジア共同体とは
日本は日本海を隔てて中国やロシア、北朝鮮と向かい合い、太平洋では米国と接する。この地政学的位置が日本の外交をぎくしゃくさせ、冷戦時代には東西の波がぶつかり合う場となった。だが、いつまでもその尻尾を引きずっていてはならない。
鳩山首相が「東アジア共同体」構想を打ち出したのも、こうした問題意識からだろう。目の付け所は間違ってはいないが、実現への道筋や米国との関係がどうなるかなどについては、全く不透明と言わねばならない。
かつては日本の最大の貿易相手国だった米国は、その地位を著しく低下させている。いまや、輸出入とも半分はアジア市場が相手である。しかし、米国が日本の最重要パートナーであることに変わりはない。
鳩山政権に対して米国がいら立っているとすれば、日本の米国離れを危(き)惧(ぐ)してのことではないか。鳩山首相が新たな地域的枠組みを構想するのは理解できる。だが、そこには米国が関与する仕組みが必要であろう。
政権交代によって外交関係が見直されるのは不思議ではない。問題はそれが一時的なものかどうかだ。対等な日米関係を目指すという鳩山首相の真意はどこにあるのか。
日米安保条約も絶対的なものではあり得ない。時代に即して見直されてしかるべきだ。核の傘をはじめとする抑止力思想が維持されるべきかどうかを含めて、真剣な話し合いが必要だ。
外交は国益を軸にした現実政治そのものだ。理念や言葉だけが先行すると、思わぬ行き違いを生む。
日本、米国、中国は世界の三大経済大国である。地球的課題に対して負っている責任は重大だ。就任早々、国連で披露した「鳩山イニシアチブ」を思い起こしてほしい。日本の責任と役割をはっきり示してこそ外交である。