進路2010年 政権交代の内実を問う
日本政治のこれからを占う上で重要な年を迎えた。ことし夏には参院選がある。その結果によって、政権交代に始まる政治変革の流れが確かなものになるかどうかが分かるからだ。
◆自民党の反転攻勢は
昨年の衆院選で民主党は308議席を得て初の第1党となり、歴史的な政権交代劇の主役を演じた。しかし参院では過半数に足りず、社民党、国民新党と連立を組んでいる。
民主党が参院選で勝ち、単独過半数を握ることになれば、揺るぎない政権の土台ができる。いわば政権交代の完成、民主党体制の確立といえる。参院選に注目しなければならない最大の理由はここにある。
この裏返しとして、自民党が民主党の攻勢を食い止められるかも大きな焦点となる。ほぼ半世紀にわたる長期政権から滑り落ちた自民党は、参院選を復権のスタートラインと位置付けている。しかし、着々と準備が進んでいるといった状況とは程遠い。
野党転落後、国政での存在感の低下は目を覆うばかりだ。論戦を通じて政府を追及し、国民にアピールする格好の機会にできたはずの臨時国会では終盤になって審議拒否を繰り返し、チャンスを自ら放棄してしまった。
2010年度予算編成では、民主党の小沢一郎幹事長の注文に沿う形で自民党支持団体と関係の深い土地改良予算が大幅に削られた。この影響で、団体の支援を受けて参院選に出るはずだった自民党公認候補が出馬辞退を申し出る事態となった。
昨年末には参院議員の離党の動きも相次いだ。参院選での党勢回復を掲げながら、この体たらくは情けない。自民党執行部はもっと危機感を持つ必要がある。そうでなければ党の再生などおぼつかない。
このままの状況が続けば、政権交代可能な二大政党制が定着するどころでなく、新たな一党優位体制ができるのではないか。そんな思いも募る。
今月から通常国会が始まる。自民党は早急に態勢を立て直し、参院選につながる論戦を挑んでもらいたい。
◆二重権力では駄目だ
民主党も組織の現状が「変革」を担っていくにふさわしいか、あらためて足元を見つめるべきだろう。
鳩山政権が大方針として掲げる「政策決定の政府一元化」が大きく揺らいでいる。代わりに目立ってきたのが小沢幹事長の影響力の強さだ。危ぶまれていた「二重権力構造」が現実のものとなっている。
小沢氏は参院選勝利に執念を燃やしている。鳩山由紀夫首相にも選挙をにらんだ予算編成を求め、党の重点要望では子ども手当など集票が期待できる政策の実施を盛った。一方、財源確保などのためガソリン税などの暫定税率は廃止から維持へ方針転換した。
小沢氏は陳情を幹事長室に一元化するルールをつくった。重点要望はそうして吸い上げた国民の思いを反映したものとされている。だが、取りまとめの過程には不透明感が残る。小沢氏への権力集中がいっそう進むのではないかとの懸念も禁じ得ない。
かつての自民党は政策決定を左右できる政権党の力を駆使することで選挙に勝ち続け、長期支配体制を敷いた。今回の手法はそれと変わらない。党の権力者の政策介入は、「政治主導」の混乱を示している。
政党が選挙での勝利を目指すのは当然だ。問題はその方法が「変革」と矛盾しないかどうかである。
民主党では小沢氏の存在感が増すにつれ、「私党化」が進行しているようにも見える。小沢氏が率いた12月の中国訪問に、約140人もの党国会議員が参加したことは記憶に新しい。
旧態依然とした政治手法の復活を見過ごし、党内が「二重権力」に追従するのでは、政権交代に対する多くの支持者の期待が宙に浮く。
◆選挙協力はどうなる
参院選では民主、自民両党の帰趨(きすう)とともに連立与党が選挙区でどう連携するかも注目したい。2人区の本県は現時点で、自民党から民主党にくら替えした現職と社民党現職、自民党新人を軸に4人が争う構図となっている。
民主党本部は参院で過半数を獲得するため、原則として2人区で2人を擁立する方針だ。ただ、連立を組む社民党に配慮する姿勢も示しており、本県選挙区の今後の動向が気になる。
民主党は政権交代しやすい選挙制度を目指し、マニフェスト(政権公約)に衆院比例定数の削減を盛り込んでいる。二大政党制への志向を鮮明に示すものだ。「参院2人区2人擁立」にも同様の発想があるはずだ。
仮に連立を組む社民党に配慮するとしても、目的と公約との整合性について選挙民に対してきちんと説明していく必要がある。
鳩山首相は1日付の年頭所感で「温かい目で見てくれとはもう申し上げない」と国民に呼び掛けた。有権者は政権交代の内実に冷静に目を凝らさなければならない。それは参院選に備えて眼力を鍛えることにもなる。