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社説:派遣法改正 労働者に安心と尊厳を

 世界不況の波で製造業で働く派遣社員が大量解雇され、社員寮も追い出されて「年越し派遣村」が話題になったのは1年前のことだ。自民党の小泉政権がもたらした格差社会のシンボルのように見られた。その派遣労働が規制されることになる。

 鳩山政権は労働者派遣法改正案を今月召集の国会に提出する。派遣には仕事があるときだけ雇用契約を結ぶ「登録型」と、仕事がないときでも給料がもらえる「常用型」がある。改正案は(1)登録型は専門26業務を除いて原則禁止(2)製造業派遣は常用型を除いて禁止(3)日雇い派遣は禁止、などが内容だ。派遣先企業に違法派遣行為があったとき、雇用契約が結ばれているとみなす「直接雇用みなし規定」も盛り込まれる。派遣社員が希望すれば派遣先は直接雇用する義務が生じる制度である。

 派遣労働者は08年6月時点で約202万人おり、規制対象にならない26業務を除くと約102万人(このうち登録型は44万人)、製造業は約55万人(同20万人)に上る。経営側は、登録型派遣が禁止されると結果的に大量の失業者が出る、と批判する。業績回復が遅れている中小企業は請負に切り替えるほどの仕事量もない。景気の下支えをしなければいけない時期に冷水を浴びせるようなものだというのである。

 一方、労働側は(1)派遣先の労組との団体交渉応諾義務や未払い賃金に関する派遣先の連帯責任が見送られた(2)常用型がどのくらいの期間なのか規定されておらず、「常用」を装った登録型が温存される(3)施行まで最大5年も猶予が与えられるなど時間がかかりすぎる--などと批判しており、両者の隔たりは大きい。国会で徹底論議して派遣労働をめぐる問題を根底から洗い直すべきだ。

 経営側の懸念もわかるが、現在の派遣労働はあまりにも不安定で正社員との格差も大きい。会社の業績次第で機械的に切り捨てられる「雇用の調整弁」では、人間としての尊厳も生活の安心もあったものではない。今回の改正は派遣労働を改善する第一歩にしなくてはならない。

 これを機に、派遣だけでなく雇用全体の論議を深めたい。パート、アルバイト、契約・嘱託社員などを合わせると派遣社員の2倍にもなる。厚生労働省の非正規労働者の就業理由の調査では「仕事内容、責任の程度が希望にあっていたから」など肯定的な理由も上位を占めた。正社員も過重労働や精神衛生で深刻な問題を抱えている。個々のライフスタイルや価値観に合わせた働き方を求めている人が多いのも事実だ。

 完全失業者350万人の時代、企業や労働者にとってどのような働き方が望ましいのかを考える時期だ。

毎日新聞 2010年1月12日 東京朝刊

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