鳩山政権が「新成長戦略」の目標を掲げた。今後10年間で国内総生産を約1・4倍に拡大させることなどを目指している。政治がリーダーシップを発揮し、具体策を6月ごろまでにまとめる計画だ。
日本経済を再び活性化させる必要性を認識したことは前進である。「100年に1度のチャンス」ととらえ、成長に向けて行動しようとする姿勢も買いたい。しかし、政府が前提としている考えには疑問がある。
まず、日本の成長力が落ちたのは、小泉政権下の「構造改革」が原因だとする分析だ。規制緩和や労働市場の自由化を進め、「市場原理主義」が行き過ぎたから、需要が低迷しワーキングプアが増えたと鳩山政権は説明するが、果たしてそうか。
過去の政権と一線を画したい気持ちは分かる。だが、実感の伴う成長に至らなかったのは、構造改革が中途半端に終わったからだとの指摘もある。変化の中で職を失ってしまう人たちへの支援網が伴わず、マイナス面だけ目立つ結果になった。
第二の問題は、需要サイドに偏った政策である。消費の喚起はもちろん大事だ。しかし、供給サイド、つまり企業の競争力を高め、日本経済の生産性を上昇させなければ、持続的な経済の拡大は難しい。肝心の雇用を増やせないし、税収の増加も期待できまい。
既存の企業がより成長し、新規のビジネスが生まれ、産業の新陳代謝が活発に起きるダイナミックな経済へと脱皮していく必要がある。ところが鳩山政権が取ろうとしている道は、政府が成長けん引産業を選び、重点的に支援するといった従来型の発想に立っているようだ。確かに医療・介護関連事業や農業などは、成長の余地が大きい。だが、必要なのは補助金のような支援ではなく、新規参入を阻む規制や慣行を大胆に取り除き制度改革を進めることだ。
そして何より肝心なのは、これまで本腰を入れることなく先送りしてきた難題への取り組みである。借金が膨らむ一方の国の財政を立て直し、年金など社会保障制度の抜本改革を早期に実行することに他ならない。国民の不安のもとを取り除くことこそが、本当の成長戦略の条件だ。
企業も政府頼みではいけない。業種や規模に関係なく、グローバルに打って出る企業がもっとあっていいはずなのに、そうなっていないのはなぜか、もう一度考えてみよう。政府の成長戦略が不在だからではないはずだ。優れた技術やきめ細かいサービスができる労働力を持ちながら、内向き、安全志向の経営が成長機会を摘み取っていないか。
政府も企業も、従来型の発想を打ち破る時だ。
毎日新聞 2010年1月7日 東京朝刊