年始早々、波乱である。鳩山内閣の財政・経済対策の要である藤井裕久財務相が健康問題を理由に辞任、鳩山由紀夫首相は後任に菅直人副総理・国家戦略担当相を横滑りで起用することを表明した。
18日召集予定の通常国会で、藤井氏は10年度当初予算案の答弁を担うはずだっただけに、政権にとって痛手だ。菅氏は景気動向、財政規律双方が不安視される中、その手腕が試される。首相は政権初の閣僚交代に伴う混乱を長引かせず、新布陣を早期に軌道に乗せなければならない。
藤井氏は予算編成を終え、昨年末から検査入院していた。通常国会での答弁など、激務に耐えかねることを、辞任の理由に挙げたという。77歳と閣僚最高齢であり、蔵相経験者でもある藤井氏を起用したことは、経済政策に一定の安定感を与え続けた面がある。政権運営への影響は避けられまい。
一方で、民主党の小沢一郎幹事長との関係悪化を背景に指摘する見方もある。自民党時代から小沢氏と行動を共にした藤井氏だが、昨年春「政治とカネ」をめぐり当時の小沢代表に早期辞任を促すような発言をしたことなどを境に、疎遠になったと言われる。今回の予算編成の過程でも小沢氏が「本当に政治主導なのか」と疑念を示す場面もあった。辞任に政治的憶測がつきまとうこと自体、内閣にとって深刻な事態だ。首相が収拾を急いだのは当然である。
それだけに、引き継ぐ菅氏に課せられた使命は重い。国家戦略担当相としての存在感発揮はもうひとつだっただけに、経済対策と財政規律のバランスをどう取るか、マニフェストを具体化した当初予算案を国会で説明する能力などが試される。鳩山内閣の運営は財務官僚主導、と指摘されている。官僚勢力はもちろん、党の実権を掌握する小沢氏とどう距離を保ち財政、経済政策をこなしていくかが問われよう。
一方で、国家戦略担当相を仙谷由人・行政刷新担当相が新たに兼務する意味合いも大きい。国家戦略室による政策の立案機能と、「事業仕分け」に代表される行政刷新会議の監視機能の双方を統括することになるためだ。鳩山内閣が掲げる「脱・官僚依存」の政治主導の成否のカギを握るだけに、責任は重大だ。
首相元秘書の政治献金虚偽記載事件、小沢氏の資金管理団体の会計処理疑惑、米軍普天間飛行場移設問題の先送りに伴う対米関係など、鳩山内閣は多くの不安要因を抱える。その中で年明けから財政の司令塔が国会論戦を控え交代するようでは、政権への信用が揺らぐ。首相は経済への影響を最小限に抑えるよう、指導力を発揮すべきである。
毎日新聞 2010年1月7日 東京朝刊