音声ブラウザ専用。こちらより記事見出しへ移動可能です。クリック。

音声ブラウザ専用。こちらより検索フォームへ移動可能です。クリック。

NIKKEI NET

社説1 鳩山政権のIT戦略が見えない(1/13)

 鳩山政権のIT(情報技術)戦略が発足から約4カ月たった今もよく見えない。

 昨年末に原口一博総務相が自身の構想を発表したが、政府全体の司令塔は、不在のままだ。経済成長にはITは不可欠であり、技術開発や国際競争力の強化に向けた新戦略を早急にまとめ、実行すべきである。

 新政権では当初、国家戦略担当の菅直人副総理が成長戦略とIT戦略を一緒に担当した。菅氏の財務相就任に伴い、川端達夫文部科学相がIT担当となった。成長戦略とIT戦略は本来一緒に議論すべきもので、川端文科相は政府全体の立場から新戦略を考えてほしい。

 情報通信分野を預かる総務省の役割も重要だ。総務相のもとに経営者や学者などを集め、「ICT(情報通信技術)政策タスクフォース」を発足、今後1年かけて議論するという。だが日本経済の現状を考えれば、もっと前倒しが必要だろう。

 そこでの議論とは別に、原口総務相が12月に突然示した「ICT維新ビジョン」にも違和感がある。政府戦略として打ち出すなら、IT担当と一緒に発表すべきだった。情報通信だけでなく、知的財産戦略や文化振興などとも関係し、政府全体の共通認識が求められるからだ。

 原口構想の内容も物足りない。政府の温暖化ガス削減目標の25%のうち、10%以上を情報通信技術で実現するという点は新しい。しかし高速通信網を生かした様々なサービスの実現も2015〜20年を目標としており、スピード感に欠ける。

 日本のIT政策は、通信網の整備を掲げた小泉内閣時代の「e―Japan戦略」で成果を上げた。通信の速度や料金の安さは世界最高水準となったが、行政や医療、教育など規制分野での利用が遅れている。15年までの麻生内閣の戦略は政権交代で消失したため、新しい方策を急いでまとめなければならない。

 欧米でもITの活用を各国政府が経済政策の重要な柱に据えている。米オバマ政権は「技術・イノベーション戦略」を掲げ、高速通信網の整備に72億ドルを投じる計画だ。英国やフランスも新しい戦略を発表し、情報通信技術に力を入れている。

 民主党はマニフェスト(政権公約)で、電波の入札制度導入や通信放送行政の一体化などを訴えていたが、政権発足後は具体策が聞かれない。日本も来年はテレビがすべてデジタル化される。放送番組を有効活用するためにも行政の壁を取り払うことが重要だ。IT分野にこそ鳩山内閣の政治主導を期待したい。

社説・春秋記事一覧