社説
日航法的整理/不安と不信広げぬ再生策を
経営危機に陥った日本航空について、いったん破綻(はたん)させる法的整理という荒療治で再建を目指す。その方向で「負の遺産」を処理する枠組みづくりの事前調整が加速している。
多額の借金棒引きを余儀なくされる主力取引銀行3行が法的整理を大筋で了承した。高額のため公的資金投入の障害とされた企業年金の支給額大幅減額については退職者からも同意を得た。19日とされる日航の会社更生法申請に向け、一つ一つハードルを越してはいる。
だが、日本を代表する航空会社の法的整理は「ある種の社会実験」(取引行幹部)と言われるように、それに伴う信用不安の広がりには予想しがたいものがある。とりわけ運航に支障を来さないよう、混乱の回避に万全を期さなければなるまい。
より重要なことは、大手術を施した後、どんな航空会社に生まれ変わらせるかだ。
政府は、更生法申請と同時に企業再生支援機構による支援を決定。出資と融資合わせて1兆円近い公的資金を投入し再建を支える。国民の「空の足」として、競争力のある航空会社に再生させる処方せんをしっかりと描かなければ、国民から納得と信頼は得られまい。このことも肝に銘じるべきだ。
そうした注文を付けざるを得ないのは、再建をめぐる政府の方針が迷走しているからだ。
前原誠司国土交通相は去年9月、不採算路線の廃止や人員削減策も盛り込んだ日航の自主再建計画を白紙に戻すと表明し独自の作業チームを設置。法的整理は視野の外に置いて再建策をまとめながら、結局は支援機構を活用する方針に転じた。
その再建案づくりも、利害関係者の話し合いによる私的整理が前提とみられていたものの、年末になって法的整理が浮上してきた経緯がある。
確かに8000億円を超す巨額の債務超過に陥っている現状からすれば、破綻処理するのはやむを得ない判断といえる。だが、方針が二転三転した背景には、再建の道筋をめぐり政府内で「軟着陸派」と「強制着陸派」の対立があったとされる。
この足並みの乱れが今も不安をあおる。日航株に空前の売りが殺到し2日続きでストップ安となった。支援機構が上場廃止の方針と伝えられたためだが、政府の腰が定まっていないことが混乱に拍車をかけた形だ。
法的整理にはどうしても「倒産」の印象がつきまとう。利用者離れに加え、幅広い取引先の中でも、海外で信用が低下すれば何が起きるか分からない。運航確保のため、政府は危機管理を徹底しておく必要がある。
半面、法的整理は過去のしがらみを断ち切り、日航の「親方日の丸」体質を改める好機である。経営陣も刷新され、京セラ名誉会長の稲盛和夫氏が最高経営責任者(CEO)に就任する。
航空会社に最も大切なのは言うまでもなく安全運航だ。政府は新経営陣と協力し、その上に新たな日航像を築かなければならない。鳩山政権に、腰の据わった一枚岩の対応を求めたい。
2010年01月14日木曜日
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