社説
国際観光立国/すそ野の広さを地方にも
鳩山由紀夫政権の成長戦略を貫く基本理念は内需主導。国内総生産(GDP)の6割弱を占める個人消費の盛り上げは、最重要課題だ。
そうはいっても「100年に一度の不況」と聞けば庶民の財布の口はいよいよ固く、レジャーなどの娯楽費は真っ先に仕分けの対象となる。
「裕福な外国人に来日してもらい、どんどんおカネを落としてもらおう」。年末年始、政府が矢継ぎ早に打ち出した観光政策には、そんな狙いがある。
経済的な波及効果を期待するのはもちろんだが、島国日本を国際的に開かれた存在としてアピールしていく好機。究極の「平和産業」でもある観光産業を育てていく視点を、官民で共有したい。
政府が年末に策定した2020年までの成長戦略の基本方針で、観光は環境・エネルギー、医療・介護などとともに6項目の一つに選定された。観光分野では56万人の雇用を創出するとしている。
12月1日には前原誠司国土交通相を本部長に全省庁の副大臣で構成する「観光立国推進本部」を設置。訪日外国人観光客数を19年までに08年の約3倍の年間2500万人に、将来的には3千万人とする目標を掲げた。
10年度の観光庁予算案は126億円で、09年度の約2倍に増えた。前原氏は初代長官を事実上更迭し、後任にJリーグ大分トリニータ運営会社前社長の溝畑宏氏(49)を充てる人事を断行、人心一新もアピールした。
観光産業はすそ野が広い。旅行業や宿泊業、飲食業はもとより、最近脚光を浴びている「地産地消」と連携すれば、1次産業の活性化も期待できる。
推進本部創設前、観光庁は20年までに外国人観光客を年間2千万人に増やす目標を掲げていた。ところが、世界的な不況や新型インフルエンザの流行もあって、09年の入国実績は758万人にとどまった。
溝畑長官は11年までに1千万人という高い目標を設定、観光を「国民運動」として盛り上げていく考えを示した。照準はアジア、中でも今後成長が見込まれる中国からの旅行客誘致だ。
ただ、08年に中国を訪れた日本人が約345万人なのに対し、訪日した中国人は約100万人にすぎない。目標達成のためには、現在は富裕層に限定している個人ビザの発給要件をなくすか引き下げるなど、日本政府の対応が鍵を握っている。
溝畑長官は外国人観光客の7割が東京、京都などのゴールデンルートを訪れていることを念頭に大都市圏重視を打ち出した。現状は確かにそうだが、東北も手をこまぬいている場合ではないだろう。
北海道では中国からの観光客が急増している。リゾート地としての知名度に加え、道東部で撮影された中国映画の大ヒットが人気を後押しした。
新潟を含む東北7県への訪日観光客数は08年、約43万人。「もう一つの日本」を提示し、この数字を上積みしていくことが国際観光で東北が生き残る道であり、成長戦略でもある。
2010年01月13日水曜日
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