北朝鮮が「朝鮮戦争の休戦協定を平和協定に転換する会談を始めよう」と呼び掛けた。最近活発化する「外交攻勢」の一環だろうが、核放棄への圧力をかわすためという疑念は消えない。
今年は朝鮮戦争勃発(ぼっぱつ)から六十年になる。一九五三年に休戦協定が結ばれたが、今でも韓国軍、在韓米軍と北朝鮮軍合わせて百万人を超す兵力が銃口を向け合って対峙(たいじ)している。
北朝鮮外務省は声明を発表し「朝鮮半島の非核化を軌道に乗せるには、核問題の当事者である米朝の信頼構築を優先すべきだ」と述べた。信頼醸成には米朝の平和協定締結がまず必要で、その議論は六カ国協議の枠内でも可能だとして休戦協定の当事国に会談開催を提案した。
米国の軍事的脅威を減らし、「金正日体制」を維持するため、かねて主張してきた内容だ。
しかし、国際社会の信頼を裏切ったのは北朝鮮の方である。北朝鮮は二〇〇五年、六カ国で発表した共同声明を通じ核計画放棄を約束したが、その後、核実験をしミサイル試射を重ねたため、国連安保理が制裁決議をした。平和協定を主張する前に、まず非核化に向けた行動を取るべきだ。
外務省声明は、制裁が解除されればただちに六カ国協議に復帰する姿勢も示した。昨年四月に離脱を表明してから復帰を示唆したのは初めてだが、米韓両政府は「まだ条件をつけている」とし制裁解除には応じないと表明した。
北朝鮮は最近、積極的な外交攻勢に出ている。昨年末にオバマ政権になって初の米朝高官協議を実施。韓国には「南北首脳会談」を呼び掛け、南北の高官がシンガポールでひそかに接触した。日本の民主党関係者にもさまざまなルートで接触しているとされる。金正日総書記が近く、中国を訪問するという観測も出ている。
その背景には軍事部門に資金を過剰につぎ込み、制裁も受けているという経済の低迷がある。統制を強めようと昨年十一月にデノミネーション(通貨呼称単位の変更)を実施し、国民の隠し財産を吸い上げようとしたが、かえってインフレなどの混乱を招いているとの情報も伝わる。外交攻勢は海外からの支援を取り付け、経済を立て直す狙いもありそうだ。
金総書記には健康不安があり、三男ジョンウン氏への権力継承作業も進行中だという。外交姿勢の変化には、多くの要因が絡み合っている。
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