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社説

環境戦略 「緑の産業」を伸ばしたい(1月4日)

・地域の自然資源を掘り起こそう

・官民の投資で新技術の育成を

 石油など化石燃料からの脱却の動きが世界で加速している。いかに省エネを進め、温室効果ガスの少ない低炭素社会を実現していくか。

 かつては資源の枯渇が「脱石油」を促すと考えられた。いま、地球環境の危機という人類共通の問題が大量消費社会に変革を迫っている。

 太陽光や風力、バイオマスといった再生可能エネルギーはその転換への重要な手だてだろう。

 導入には越えるべき課題も多いが、北海道など地方には眠ったままの自然資源がある。それを掘り起こしながら、飛躍への芽を育てたい。

 そのためには環境と成長を両立させる戦略を練り上げねばならない。

 一つの手本がある。世界を席巻するグリーン・ニューディール。環境やエネルギー分野への投資を増やし、成長や雇用につなげる政策だ。

 米国や欧州諸国が競うように力を入れ始めた。将来の石油資源の枯渇や争奪という事態を考えれば、エネルギー転換は避けて通れない。

 なにより化石燃料が生み出す温室効果ガスの抑制は、人類はもとより生物全体の生存にかかわる。新たな環境政策への挑戦は、そうした課題に向き合う「共通解」とも言える。

 政策の軸になるのは再生可能エネルギーである。ドイツは太陽光発電で、米国は風力発電で首位を走る。世界の市場規模は10年後には10倍の百数十兆円に達する勢いだ。

 20世紀の社会で自動車産業が担った役割を、21世紀は「緑の産業」が果たす。そんな野心的な予測が変革の機運をかき立てている。

 鳩山由紀夫政権は温室効果ガスを10年後までに1990年比で25%減らすという大胆な目標を掲げる。重い負担には産業界から反発もある。

 だが、目を向けるべきはそのハードルの向こうにある好機だろう。

 環境規制を踏み台にエコカーのような先端技術を磨き、世界の競争に立ち向かっていく。それは新たな成長産業の地平を開き、日本の社会構造を変える力にもなる。

 市街地から車で10分ほど、広い畑地のなかに巨大なタンクが横たわる。ゆっくりと施設に入っていくのは家畜ふん尿を積んだトラックだ。

 十勝管内鹿追町のバイオガス施設は酪農家から集めたふん尿を発酵させ、メタンガスをつくって発電している。本格稼働から2年余り。視察は全国から年千人を超えるという。

 注目を集めるのは、この種の施設で最大級というだけではない。町と酪農家が利用組合をつくって手探りで始めた挑戦ながら、しっかりと「黒字運営」をしているからだ。

 減価償却を別にすれば、北電への売電収入などで経費を賄って昨年度は400万円近いお釣りがきた。本年度はさらに上積みできるという。

 成功の大きな鍵は足元の資源を活用したことにある。

 「家畜ふん尿を『ナマの石炭』と言った人がいる。なるほどと思った」。吉田弘志町長はそう語る。

 家畜ふん尿は牛だけで全国で年2千万トンと膨大な量に上り、半分近くを北海道が占める。化石燃料と違って手を伸ばせば届くところにある。

 「将来はメタンガスや、発電機の廃熱をハウス園芸にも使いたい。それで雇用も増やせる」。確かな足掛かりを得て、吉田町長は次なる構想を描こうとしている。

 エネルギー事業で肝心なのは、鹿追町のように身近な資源と産業をつなぎ、地産地消の循環型の仕組みをいかにつくり上げていくかだ。

 その実現には技術革新とともに、国と産業界、地域が一体となった取り組みが欠かせない。

 北海道と人口がほぼ同じデンマークは石油危機のあと脱石油に力を注いできた。再生可能エネルギーはいまや総発電量の約3割を占める。

 主力は風力発電で、地域の住民が電力の自給、ひいては地元経済のために設備資金を出し合い、それを国が後押しする。

 世界有数の風力発電メーカーが育ったのも、そんな地域ぐるみの努力があったからにほかならない。

 日本でも徐々にだが、地域主導で模索が始まっている。

 昨年12月に東京都と青森県が結んだ自治体協定はその一つだ。都内でつくれる再生可能エネルギーは限られる。風力発電などに力を入れる青森から電力の供給を受け、温室効果ガスを減らそうという試みだ。

 青森側にとっては、新規の事業参入や雇用づくりが期待できる。

 温室効果ガスの削減目標を達成するため、国や産業界は海外からの排出枠の購入も検討する。だが、地方への投資も忘れないでもらいたい。

 官民の資金で地域の新産業と環境技術を育てていく。それこそが低炭素社会に着実に近づく道である。

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