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社説

安保改定50年 「日米」を平和構築の礎に(1月3日)

・ソフトパワーの連携広げたい

・米国かアジアかの二者択一でなく

 ガジュマルの葉が冬の日差しを優しく受け止める。

 沖縄県南部、宜野湾(ぎのわん)市の嘉数(かかず)高台公園。丘の上の展望台に立つと、眼下に米軍普天間飛行場が広がる。

 高台にはかつてトンネル陣地が築かれ、沖縄戦で最大の激戦地となった。占領、基地建設。そして移転問題の越年…。いまは住民が憩う公園に戦後の日米関係と安保体制の現実が凝縮されているようだ。

 1960年、日米安全保障条約は改定された。そこには二つの側面があったと言えるだろう。

 当時の岸信介内閣は「不平等性の解消」を掲げ、旧条約で不明確だった米国の日本防衛義務を明文化した。同時に、安保に新たないびつさを持ち込んだ点は見逃せない。

 改定の目玉は日本が基地使用などで拒否権を持つ事前協議制の導入だった。核持ち込みを容認する密約などにより、拒む権利が当初から封印されていたことは今や明らかだ。

 安保に関する情報の公開を渋り実相を国民から隠す。「密約の論理」は歴代自民党政権に継承された。

 繰り返されたのは安保再定義(96年)や周辺事態法制定(99年)といった事実上の条約改定である。

 適用範囲は「アジア・太平洋」へと広げられ、日米の軍事一体化は進んだ。「9・11」の後は遠いアフガニスタンやイラクへ自衛隊を派遣し、米軍が主導する戦いの後方支援を担うまでに立ち至った。

 安保条約は51年の講和条約締結と同時に結ばれた。目的は冷戦対応だった。冷戦が終結すると自民党政権は中国や北朝鮮を旧ソ連に代わる脅威と見なし、米側の意向を背景に軍事面での連携強化を加速させた。

 この半世紀、時に平和憲法との矛盾を指摘され、論争を呼び起こしながら、安保条約は日本の平和と繁栄に役割を果たしてきた。

 だが主体性を欠く対米追随では、いつか大きく針路を踏み誤るのではないか。アフガン、イラク両戦争の泥沼はそうした危惧(きぐ)を抱かせる。

 世界は変化の中にある。

 米国の一極支配で幕を開けた21世紀は、10年がたち確実に多極化へと向かっている。中国、インドの台頭により、世界の成長センターとしてアジアの存在感は高まった。

 新たな潮流の中で日米関係を位置づけ直し、さらなる発展を目指すことが重要だ。ともに新政権を率いる鳩山由紀夫首相とオバマ米大統領にこそふさわしい使命だろう。

 大切なのは、2国間関係を軍事の狭い分野に閉じこめず、幅を広げていくことだ。

 世界経済のかじ取り。先端科学技術や発達した医療技術を活用した地球温暖化対策、感染症対策。そうした共同作業を強めることがアジアや世界の安定に貢献するはずだ。

 追求すべきは地球規模の課題に対処するソフトパワーの連携だ。それを平和構築の礎としていくことが「同盟深化」の名に値しよう。

 大義なきイラク戦争を振り返れば、必要なら日本が米国の武力行使に堂々と待ったをかけ、開戦の判断をいさめる役割を引き受けたい。

 言うべきことは言う。それが真の友好関係を築く道である。

 鳩山首相は日米関係の包括的なレビュー(再検証)を唱え、今年1年かけて米側と協議していくことでオバマ大統領と合意している。

 そのためには総合的な外交政策の構想を急がねばならない。重視したいのはアジアとの関係だ。

 首相は就任以来、東アジア共同体構想を提唱しているが、いまだに具体像は不明確だ。早急に中長期のビジョンを描き、実現までの道筋を示して、内外に問うべきだ。

 もちろん「米国かアジアか」という二者択一の発想にとどまってはいけない。日米安保体制と東アジア共同体を外交の2本柱とし、バランスを取りながら地域の平和を実現していく構想力が試される。

 昨年来、普天間問題をめぐって日米間にきしみが生じている。本はといえば政府間合意に広範な理解を得られていないことが原因だ。

 長年にわたり国民的な安保論議を避け、米国主導の安保体制に安住してきたつけとも見ることができる。

 米軍の抑止力と基地提供の負担のあり方について国民自身が考えを深め、安保体制そのものを検証する。普天間を、その好機と考えたい。

 安保条約改定から50年。日米の次の50年を切り開く論議がたとえ摩擦を生んだとしても、全体の危機とはき違えてはなるまい。

 太平洋をはさんで向き合う両国の絆(きずな)を確固とするための産みの苦しみである。鳩山首相とオバマ大統領には新しい時代を見据えたリーダーシップの発揮を期待したい。

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