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社説

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同盟協議―土台を固め直す議論に

 鳩山政権が発足して4カ月、普天間問題という太いとげはのどに刺さったままだが、日米関係の歯車がようやくかみ合いだした。

 ハワイでの日米外相会談で「同盟深化」の協議を始めることが決まった。

 クリントン国務長官は米軍普天間飛行場を名護市辺野古に移設する日米合意の実行を重ねて求めた。

 同時に、普天間問題は極めて重要だが「包括的なパートナーシップの一部だ」とも述べ、日米の他の協力関係は進めなくてはいけないとの立場を明確にした。

 太平洋の東と西で、相前後して政権交代が実現した。多国間の協調や核廃絶、地球環境問題への取り組みの重視など、多くの理念を共有する鳩山、オバマ両政権には幅広い協力の可能性が開けている。

 ところが、日本の新政権の普天間合意見直しをめぐる外交のまずさもあって、両政権当局者間の信頼が傷ついた状態が続いてきた。

 クリントン長官は、日米同盟が米国のアジア外交の礎であるとともに、アジア太平洋地域の安全保障の基盤だと強調した。普天間問題だけで他の関係を損なってはいけないという判断である。時間はかかったが、両政権は何とか本来の出発点に立ったといえる。

 今年は日米安全保障条約が改定されて50年の節目にあたる。両外相は今後の同盟の土台を固め直す議論を始めようと一致した。岡田克也外相はオバマ大統領の来日が予定される今年11月をメドに、新しい安保共同宣言をまとめたい考えだ。

 アジア太平洋地域にどんな脅威や不安定があるのか、安全保障環境についての認識を共有する作業から始めたいという。

 戦後一貫して日米安保体制を担ってきた自民党政権にとって代わった民主党政権である。何を継承するのか。アジアや世界の大変化の中で何を新たな日米戦略としていくのか。岡田外相のいう「継ぎ足しではない、基本からの、構えの大きな議論」が必要だ。

 こうした認識の共有は、普天間問題での出口を探る作業にも役立つだろう。基地や日米地位協定、思いやり予算のあり方など、長く安保体制を支えてきた施策について、新しい国際環境の中でその当否を考え、国民の認識を深める好機にもなろう。

 普天間について、政府与党は辺野古以外の移設先を検討中だ。岡田外相は「首相の約束」として5月までに結論を出す方針を伝えた。この約束が果たせなければ、政権の信用にかかわるとも述べた。

 普天間問題が日米同盟の一部でしかないのは事実だが、双方が納得できる解決策を見いだす厳しい作業なしには同盟の将来を語ることも難しい。

性同一性障害―千葉法相の妥当な判断

 結婚している男女が、第三者の精子を使って人工授精で子をもうけたら一般的には嫡出子だが、性同一性障害のため性を変えた夫と妻の場合は非嫡出子とする。こうした法務省の認定に、兵庫県宍粟(しそう)市に住む夫と妻は納得がいかなかった。

 夫妻の強い思いを知った千葉景子法相は、現行の扱いを改善し、そうした子を夫妻の嫡出子として認める方向で検討することを表明した。

 法相の判断を高く評価したい。

 心と体の性が一致しない性同一性障害の人たちが、望む性別を社会的に選べるようにと2004年、性同一性障害特例法が施行された。

 夫は手術を受け、特例法に基づいて戸籍上も男性となった。妻と法律上の婚姻関係を結んだ。

 だが、第三者から精子提供を受けて妻が人工授精で産んだ子を、嫡出子として届けようとして待ったがかかった。夫がもとは女性なので、「遺伝的に父子関係がないのは明らか」として法務省が認めなかった。同様の例が特例法施行以来、5件あるという。

 法律上の婚姻関係にある男女を父母として生まれた子を嫡出子と呼ぶ。その例外とされたわけだ。

 第三者の精子を使い人工授精で子をもうける夫妻は年100件以上。無精子症など夫側が原因の不妊症の治療として日本では60年前から行われ、1万人以上の子が生まれたという。

 夫婦の間にできたこれらの子は通常、嫡出子として出生届が受け付けられている。

 特例法は、性を変更した後は新たな性別で民法の適用を受けるとしている。親子関係について差別を受けるのは不合理だ。法相もそう判断したのだろう。

 障壁を乗り越えて心と社会的性別を一致させ、結婚した夫と妻が子どもを持ちたいと思うのは自然だ。性同一性障害で戸籍上の性を変えた男女は1400人以上いる。

 同じ障害に悩む人はさらに多い。これからも宍粟市の事例のような夫婦は増えるだろう。

 千葉法相が示した見直しの実現には運用の変更、法改正などいくつか方策があろう。早急に詰め、他の5例についても調査し、救済してほしい。

 法務省が性同一性障害の夫を別扱いしようとしたのは、民法が子どもは生来の男女の自然生殖で生まれるものだという前提に立っているからだ。だが現実には、民法が制定された明治には想定されなかったような状況で生まれる子が増えている。

 医療の進歩によって、これまで子どもを持てなかったようなカップルが子どもを持てる時代になった。それによりそった法律の考え方がもっと論じられていい。

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