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クローズアップ2010:グーグル、中国撤退も 「言論統制」に反発

 <世の中ナビ NEWS NAVIGATOR>

 ◇検索検閲・サイバー攻撃--譲歩迫り事業拡大?

 インターネット検索エンジン最大手の米グーグルは12日、中国国内からサイバー攻撃を受けたことを明らかにするとともに、同社の検索表示に対して中国政府が行ってきた検閲の廃止を目指し、「中国政府と交渉する」と表明した。グーグルは交渉結果によっては、中国からの撤退も辞さない強い覚悟を見せている。また、米政府も強い関心を示していることから、政治問題に発展する可能性もある。【望月麻紀、デトロイト(米ミシガン州)斉藤信宏、岡礼子】

 中国で非合法化されている気功集団「法輪功」を、中国語サイト「グーグル・チャイナ」で検索すると--。

 画面に並ぶのは法輪功を糾弾する中国公式メディアの報道ばかり。下部には「当地の法律・法規と政策により一部の検索結果は表示していません」とのおことわりが出た。検索結果は約2万7400件。これに対し、日本語サイトでは法輪功側のページも含め約115万件にヒットする。

    ◇

 グーグルは06年にグーグル・チャイナを開設し、中国での事業を本格化させた。現在では中国の利用者シェアは約3割。約6割とトップシェアを誇る中国の検索大手「百度(バイドゥ)」に次ぐ。

 ただ、検索項目には中国政府に「好ましくない」ものも含まれる。このため中国当局は検索内容を検閲し、グーグルも渋々当局の要請に従った検索結果を表示してきた。09年6月時点で3億3800万人と世界トップのネット人口に急成長した中国市場の前には、他のネット大手同様、事業を優先せざるを得なかったためだ。

 それでもネット検閲は、米政府が最も重視する人権や言論の自由に絡む問題だけに反発は大きい。米国内では人権団体などが検閲に従うネット大手各社を批判し、06年には米議会の下院公聴会で、民主党の人権派議員がネット大手幹部らを「(人権より利益を優先する姿勢を)恥だと思わないのか」と責め立てる場面もあった。

 こうした中、今回グーグルは「高度に洗練されたサイバー攻撃を受けた」と明らかにした。攻撃は同社メール送受信システムに仕掛けられ、中国人権活動家2人の個人情報を狙った組織的なものだという。同様の被害は大手企業34社に及んだともいい、暗に中国政府が関与しているとの見方を示唆した。

 ネット企業にとり、「言論の自由」を脅かされることは、ブランドイメージの低下につながりかねない。今回はその点を懸念したグーグルが、撤退をちらつかせながら中国当局に異を唱えた形だ。

 同社の真意は不明だが、国際的なネット市場に詳しいエクスポート・ジャパン中国担当の赤沢真紀子さんは「グーグルは進出以来、思ったように現地化ができず苦戦していた」と指摘する。撤退カードを示しつつ譲歩を迫り、中国でのビジネス拡大につなげる--そんな経営判断をした可能性もある。

 中国では検索大手のヤフーや、マイクロソフトも検索事業を展開している。だが、両社の場合、グーグルとはやや事情が異なる。中国ヤフーは中国最大手の電子商取引企業アリババグループの傘下だ。マイクロソフトの基本ソフト「ウィンドウズ」は中国でも大量に使われている。しかも、検索サイトでのシェアは両社とも1%未満で、中国でのビジネス全体を考えると、グーグルにならうことは難しいとの見方がある。

 アリババグループに出資しているソフトバンクの孫正義社長は13日、「外の違う価値観の物差しで一様に論じることはできない。(中国の)若い起業家が自らの状況を真剣に考え、適切に判断すると考える」と述べ、グーグルの動きには距離を置く姿勢を示した。

 国際社会経済研究所の原田泉主席研究員はグーグルの動きについて、「人権問題に厳しいオバマ政権の影響があるのではないか」と指摘する。

 クリントン米国務長官は12日、サイバー攻撃に「深刻な懸念と疑問」を表明し、中国政府の説明を求めた。中国の対応次第では、人権問題を巡る米中間の摩擦が強まる可能性も出てきた。

 ◇「数万人の監視要員」

 「連絡にはGメールを使ってほしい」。中国共産党の一党独裁などを批判する「08憲章」の起草に参加した北京の人権活動家は以前、グーグルが提供する無料電子メール(Gメール)のアドレスを記者に渡した。

 中国当局の監視を恐れる人権活動家らは米国企業のメールサービスを使っており、信頼していたセキュリティーが破られたことは大きな衝撃だ。IT企業で働く活動家は「当局のネット監視やサイバー攻撃の技術には本当に驚かされる。情報機関には数万人の監視要員が働いていると言われている」と話す。

 中国のサイバー攻撃は外交機密にも向けられている。北京の外交関係者は「地方に出張していた欧州の外交官のパソコンが細工されたようだ」とささやく。北京に戻った外交官が「細工」に気づかず大使館内のネットに接続してセキュリティーが破られ、膨大な機密情報が漏れた可能性が高いというのだ。

 中国政府は以前から海外の人権サイトの閲覧規制やネット上の反政府的な情報の削除を続けてきた。中国国内からは動画投稿サイト「ユーチューブ」や短文の交流サイト「ツイッター」にアクセスできず、規制強化は強まる一方だ。利用者らの反発で撤回はしたが、昨夏には国内で発売されるパソコンにネット接続制限ソフト搭載を義務付けようとした。

 今年5月からは、中国政府が調達するIT製品の中核となるソフトウエアの設計図「ソースコード」などをメーカー側に強制的に開示させる制度を開始する予定だ。IT企業や外国政府からは強い反発が続いているが、中国政府は「国家の安全のため、必要な措置」(商務省高官)と理解を求めている。

 一方、グーグルが中国から撤退すれば、百度の独占による利便性の低下や統制の強化が懸念される。中国のネット上には「撤退しないで」というユーザーの声があふれている。【北京・浦松丈二】

毎日新聞 2010年1月14日 東京朝刊

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