「婚活」ブームの裏側で、30~40代の離婚が増えてきた。近ごろは、離活(離婚活動の略)という言葉まで登場し、離婚へのマイナスイメージは薄れつつある。一方で、子どもがいれば、両親の離婚に翻弄されてしまう。最近の離婚事情を追った。【山寺香】
離婚カウンセラーの渋川良幸さんが運営する離婚相談所「離婚110番」を訪ねてみた。東京・渋谷駅から歩いて5分ほどのマンションの一室。相談スペースは、玄関先からは見えないようについ立てで仕切られ、机とパイプ椅子が四つ並ぶ。一つは渋川さんの席、もう一つは電話で予約した相談者。残りの二つは、一緒に訪れる親や兄弟姉妹のために用意している。
ここを訪れていた公務員の男性(35)は、一昨年春に知人の紹介で同年代の女性と知り合い、3カ月後に婚姻届を出して同居。さらに3カ月後、結婚式を挙げた。「交際期間が短すぎないか」と不安はあった。しかし、仕事の後、一人で食事を作ることにさみしさを感じており、結婚願望が強かったという。女性側からの積極的なアプローチもあり、デートを重ねるうちに女性の力になりたいという気持ちも芽生え、結婚を決意した。
幸福な時は続かなかった。結婚式の衣装をめぐり、男性の母親と妻がもめた。それをきっかけに、妻は湯飲みを投げつけるなど激高するようになった。披露宴から間もなく、妊娠をきっかけに実家に戻ってしまった。その後連絡もないまま、出産予定日が来たため男性が連絡をすると、数日前に子どもが生まれていたことを知らされた。
妻は離婚を望み、現在調停中。男性は「育休を取ろうと考えていたほど子どもの誕生を楽しみにしていたのに、どうしてこんなことになってしまったのか。もう少し交際期間を長くして相手の性格を理解してから結婚すべきだったのだろうか」とつぶやく。
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厚生労働省の人口動態統計によると、08年の離婚件数は25万1136組、2分6秒に1組が別れている計算だ。ピークだった02年の28万9836件以降6年連続で減少傾向にある。ところが、09年は08年を約2000件上回り、7年ぶりに増加に転じると推計されている。
特徴的なのは35~44歳のいわゆるアラフォー世代が多いことだ。同居をやめたときの年齢別離婚件数の統計で、離婚件数がほぼ同じだった99年と08年を比較すると、男性は4万7141件から5万9124件で約1万2000件増加、女性も4万2251件から5万8608件で約1万6000件増えている。
一体なぜこのようなことが起こるのだろうか。渋川さんは「芸能人の離婚報道などで、自分自身がステップアップするための離婚といったイメージが浸透している。婚活ブームで焦って結婚することも一因では」と話す。
月に150~200件の離婚相談の最近の傾向をこう解説する。「交際期間が1カ月~半年で結婚し、結婚後1カ月~半年で離婚準備を始める超スピード結婚・離婚の夫婦が増えているという実感があります。子連れの再婚同士の超スピード結婚・離婚も多い」。こうした相談は、3年ほど前には月1、2件だったが、この1年ほどは月10~30件に上っているという。婚活ブームとも重なる。
相談者の特徴としては、男性の場合は、安定した収入の公務員や自由になるお金が多い自営業者が多い。「結婚したら妻がかいがいしく世話をしてくれると思っていた。でも、実際には妻は家事も仕事もせず夫婦関係もほとんどない。妻はなぜ自分と結婚したのか分からない」といった相談がよくあるという。
女性は、「思ったよりも条件が良くなかった」、「結婚したとたん暴力や言葉によるDV(家庭内暴力)が始まった」、「結婚前には『家のことはしなくていい』と言われたのに実際は家政婦のように扱われた」といった相談が多い。夫が高収入にもかかわらずレシートがないと生活費も出してくれない「経済的DV」も少なくないという。
女性は以前から、年齢を問わず、離婚準備をしていたが、離活という言葉ができた最近では、法的手続きや財産確保について事前に勉強する男性が増えているという。
離婚カウンセラーの岡野あつこさんは離婚への抵抗感が薄まる理由について「少子化に加え、晩婚化で共働きが増えたこともあるのでは。特に団塊ジュニアの世代は、親が豊か。子連れで離婚しても親が面倒を見てくれる上に、老夫婦だけで暮らすさみしさや孫かわいさで『嫌になったら帰ってこい』というケースも多いんですよ」という。
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年々下がる離婚へのハードル。軽く語られる「離活」の言葉……。
「しかし」と疑問を投げかけるのは「離婚と子ども」の著書のある神戸親和女子大の棚瀬一代教授(臨床心理学専攻)だ。「最近のスピード離婚では、子どもが胎児や乳児の場合も少なくない。離婚が子どもの心に与える影響は想像以上に大きく、対応の仕方が悪ければ長期的な影響が出かねない」と懸念する。棚瀬教授は離婚自体を否定しているわけではない。「離婚しても子どもが元気に成長できるよう、父母双方が子どもにどう責任を持つかを離婚前にきちんと話し合う必要がある」
今月23日公開の映画「ユキとニナ」は両親の離婚で揺れる少女の心を描き、切ない。
また、親が離婚した母子家庭の子ども13人にインタビューして証言を集めた本「お父さんなんかいなくても、全然大丈夫。--離婚の真実」(泰文堂)も9日、出版された。この本に登場する高校1年の少年(16)は「小学5年の時に両親が離婚。以来、お父さんとは会ってない。親の離婚で引っ越すことになり、転校先の学校でいじめられ、つらかった」と話した。「でも、高校では友だちもできた。今思えば、親は親、自分は自分。お父さんがいないからといって僕の人生に何の影響もない。親が離婚したときから負けてたまるか、と思って生きてきた」とちょっぴり強がった。
一方、男子大学生(21)は父の不倫で昨夏、両親が離婚したという。「家族が大好きで、ずっと自分の家のような家庭を築きたいと思ってきた。なのに家族がこんなに簡単に崩れると知って驚いた」。大学に入り1人暮らしを始めたが、「自分には心のよりどころになる帰るべき家がないと痛感する。『離活』などと離婚をあおるようなことはやめてほしい」と子どもの立場から訴えた。
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毎日新聞 2010年1月13日 東京夕刊