ニュース&イベント

ニュース&イベントを購読

前のページへ戻る

近畿大学水産研究所 トラフグで安全に性を統御する実用技術を初めて実現 稚魚の80%以上をオス化する養殖技術を確立、学会発表へ

近畿大学水産研究所
トラフグで安全に性を統御する実用技術を初めて実現
稚魚の80%以上をオス化する養殖技術を確立、学会発表へ
―― 高級珍味「白子」を増産、市場価値向上に寄与 ――

 近畿大学水産研究所(本部:和歌山県白浜町、所長:村田修)では、富山実験場(富山県射水市)の澤田好史教授らの研究チームが、人工ふ化したトラフグの稚魚を、ホルモン投与や多培体※1の使用などを行わず、主に水温調整によって、安定して80%以上を雄性化(オス化)させる安全な養殖技術を開発しました。

 高級食材として珍重される精巣(白子)が採れるオスの割合を高くすることで、より市場価値の高いトラフグ養殖が可能になります。この研究成果(特許出願中)は2010年3月26日~30日、神奈川県藤沢市で開かれる日本水産学会で発表されます。

 これまでにトラフグではオスの割合を高める試みがなされてきましたが、ホルモン投与や多倍体の使用なしに実験的にも成功した例はありません。また、その技術を確実なものとして産業に応用した例もありません。

 近畿大学(本部:大阪府東大阪市、学長:畑博行)では、この研究成果を生かすため、射水市の堀岡養殖漁業協同組合(代表理事:水門満義)と共同で、同実験場で人工ふ化・雄性化させたトラフグから採れた白子を盛り込んだトラフグ鍋・刺身セットを開発し、2010年11月を目途に発売する予定です。

 【※1】 多倍体: 染色体の操作などにより、人為的に2組以上のゲノムを持つようにした個体

トラフグ雄性化技術について

<研究の経緯>

100113torafugu_1.jpg

 トラフグはふ化後2~6カ月の間に性別が確定し、通常、雌雄の割合はほぼ1対1です。

 澤田教授らのチームは、水温調節によって白子が採れるオスを増やし、トラフグ養殖の付加価値を向上させることを目的に、1998年から研究に取り組んできました。研究開始当初の白浜実験場(和歌山県白浜町)から富山実験場へと拠点を移し、富山湾の水深100メートルから汲み上げる清浄で冷たい海水を、人工ふ化させたトラフグの仔稚魚期の飼育に使用しました。

 最適な海水温度、飼育に使用する期間の長短、稚魚の成育のどの段階で使用するか、などで試行錯誤を繰り返し、2006年産稚魚で約8割を雄性化させることに初めて成功。2007年4月、その成果を発表しました。

安定した雄性化の飼育条件

100113torafugu_2.jpg

 その後、安定して高い確率で雄性化させる技術の開発と、雄性化をもたらす飼育条件の解明に取り組んだ結果、2007年産と2008年産で連続して80%以上の雄性化を実現し、そのための飼育条件も解明できたため、国内特許出願(特願2008-319013)を行うとともに、研究成果を公表することになりました。

 これまでの研究で判明した、80%以上の確率で雄性化を実現するための主な条件は、(1)水温12℃~17℃の海水を、(2)稚魚のふ化後15日から79日を含む期間で、(3)65日から105日間にわたり、飼育に使用するというものです。

 富山実験場では、この低い水温の海水に水深100メートルから汲み上げた海水を使用することで、海水を冷却するなどのコストを抑えることに成功しています。

今後の課題

100113torafugu_3_1.jpg

 ただし、水温の低い海水を使用することで稚魚の成育速度が遅くなる課題があり、エサの与え方や飼育方法に工夫を加えたものの、結果として、低水温飼育期間中は通常の10%程度の生育速度にとどまっています。

 今後、水温の低い海水を使用するとなぜ雄性化が促進されるのかの生理学的な解明を目指し、遺伝子研究を含めて研究を進め、オスの割合をさらに100%に高める方法を開発する予定です。また、低水温飼育下での飼育期間の短縮と、形態異常(奇形)発症の軽減も図っていく予定です。

安心・安全と高付加価値

100113torafugu_3_2.jpg

 この技術の特徴のひとつは、ホルモン剤など、魚体への残留が懸念される薬剤を使用しないこと、自然界への逃亡を厳密に防ぐことが必要な多倍体などを用いないことなど、安心・安全な方法であることです。

 さらに、産業的応用の面では、この技術で雄性化させたトラフグの生産・加工・販売のモデル構築を行います。雄性化割合を飛躍的に高めることで生産コスト減となる白子を活用した付加価値の高いトラフグ関連商品を、富山県の地域ブランドとして育てていく方針です。

白子を用いたトラフグ新製品の開発について

100113torafugu_4.jpg

 近畿大学では、今回の研究成果を生かすため、水産研究所富山実験場で人工ふ化し、雄性化させたトラフグから採れる白子を盛り込んだトラフグセット商品を、堀岡養殖漁業協同組合と共同で開発し、フグ鍋のシーズンが始まる2010年11月を目途に全国向けに発売する予定です。

 近畿大学と同漁協は、これまでにも同実験場で人工ふ化したトラフグを用いた関連商品の共同開発を行っており、現在、「てっちり」(鍋)と「てっさ」(刺身)の両方が楽しめる「近大堀岡とらふぐ 薄造り&鍋セット」が、同漁協から発売されています。

 新商品は、これをベースに白子を加えた内容となる予定で、稚魚の80%以上をオス化させる技術による白子生産のコストダウン効果を生かし、低価格かつ安心・安全な特性をアピールしていきます。


1月13日の記者会見の様子

2010.1.13-3.jpg 2010.1.13-2.jpg


実用技術について説明する澤田教授


近大堀岡とらふぐ 薄造り&鍋セット商品詳細

  価格
(送料・税込み)
薄造り 皮湯引き 身・あら(鍋用) ヒレ
(ヒレ酒用)
その他
2人前 ¥12,800 80g 60g 200g 5枚 特製ポン酢、刻みあさつき、もみじおろし、だし昆布、塩
3~4人前 ¥14,800 150g 80g 400g 5枚 特製ポン酢、刻みあさつき、もみじおろし、だし昆布、塩
5~6人前 ¥19,800 180g 100g 650g 10枚 特製ポン酢、刻みあさつき、もみじおろし、だし昆布、塩

<参考資料>

近畿大学水産研究所

堀岡養殖漁業協同組合

■現在発売中の「近大堀岡とらふぐ 薄造り&鍋セット」に関する問い合わせ先:
堀岡養殖漁業協同組合
〒933-0222 富山県射水市海竜町5-5 Tel:(0766)86-4240

ページトップへ戻る