中国の振り込め詐欺組織に使われていた日本人の男。「こうして毎日、中国から日本に電話をしていた。二度と中国に行きたくない」と話す=2009年11月、緒方写す
中国から昨年10月に帰国した日本人の男は、東日本の自宅にいても気が休まらない。「組織」の追跡と報復におびえている。
男は9月に渡った中国のある町で、振り込め詐欺に加担した。民家の一室にこもり、朝から夕方まで携帯電話で日本と通話を続けた。初日に70歳代の日本人女性から200万円をだまし取った。
2004年には約284億円がだまし取られ、社会問題になった振り込め詐欺はいまも被害がやまない。09年は11月までに88億円が詐取された。だます側は手口を変えて金をむさぼる。中国に構えた本拠に日本人を集め、さらに在日華人を操る組織が現れた。男はそんな組織のひとつに雇われた。
■月20万円条件
「簡単なアルバイトがある。中国での振り込め詐欺だ」。誘ったのは土木作業の仕事仲間だ。犯罪へのためらいはあったが、「だませなくても月20万円支給」の条件にひかれ、知人4人と乗った。初老に差し掛かった身には楽な仕事に思えた。
日本の空港で別の日本人グループ5人と出会った。行き先と目的は同じだ。10人は、中国の空港に迎えに来ていた車に乗せられ、約2時間で変哲のない民家に着いた。
「ボス」と呼ばれる中国人が男たちに告げた。「おれたちは台湾と韓国で振り込め詐欺をやってもうけた。これからは金持ちの日本人を狙う」。中国人の日本語では相手に怪しまれる、とも言った。「世話役」の中国人が仕事内容を説明した。
「機械班」がパソコンを操作して日本に電話をし、日本語の録音メッセージを流す。日本の電話会社を名乗るそのメッセージは「電話料金の滞納がある」とし、問い合わせ先として携帯電話の番号を伝える。折り返しかかってきた電話に応対せよ。やり取りはマニュアルに従え。そう命じられた。日本人には電話会社の社員や警察官などの役が割り振られ、男は警察官役を務めた。