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【社会】

絶滅危惧魚を不正取引 3容疑者きょうにも逮捕

2010年1月10日 朝刊

(上)紫色の婚姻色を帯びたイタセンパラの雄=碧南海浜水族館提供(下)アユモドキ=岐阜県世界淡水魚園水族館アクア・トトぎふ提供

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 国の天然記念物で絶滅危惧(きぐ)種に指定されている淡水魚イタセンパラとアユモドキを無許可で不正に取引したとして、愛知県警生活経済課と一宮署は、種の保存法と文化財保護法違反の疑いで、同県一宮市の50代の男、岡山市の60代の男ら3人の逮捕状を取った。10日にも逮捕する。

 うちイタセンパラはタナゴ類では最大級で濃尾平野など国内の限られた地域しか生息しないとされ、東海地方を代表する希少種。10月に名古屋市で開かれる生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)を控えて希少生物への関心が高まる中、県警は流通ルートなど全容解明を目指す。

 捜査関係者によると、3人は昨年、愛知県の木曽川水系の河川で捕獲したイタセンパラと、西日本に生息するアユモドキを、互いに有償で譲り合った疑いが持たれている。

 3人は淡水魚の愛好家や販売業者。一宮市の男は「採り子」と呼ばれる密漁者で、木曽川水系の河川でイタセンパラの卵が産み付けられた貝を採取し、水槽でふ化させて成魚になるまで飼育していたとみられている。取引先へは宅配便で送るなどしていたらしい。

 両魚種はともに、種の保存法で国内希少野生動植物種に指定され、無許可の捕獲や譲り渡しに加え、譲り受けも禁止されている。文化財保護法も、天然記念物の現状を変更する行為を禁じている。

 県警は、関係先からイタセンパラ数十匹や資料を押収するなどし、分析を進めていた。

 希少種の淡水魚をめぐっては、滋賀県警が昨年10月、絶滅危惧種のイチモンジタナゴを人気の琵琶湖産と偽ってネットオークションで販売した埼玉県の会社員の男を逮捕。この男に国指定天然記念物のアユモドキを譲渡した別の男も、同11月に逮捕している。

 【イタセンパラ】 コイ科で全長約10センチ。タナゴ類では最も体が平たく、体高が高い。9〜11月に2枚貝のイシガイなどに産卵し、翌年5〜6月に稚魚が泳ぎ出る。木曽川水系では、国土交通省が2008年度に行った調査で生息が確認されている。

 【アユモドキ】 ドジョウ科で全長約15センチ。体がアユに似ていることが名称の由来とされる。淀川水系と岡山県内の河川にのみ生息する。岩場に隠れ、朝晩にえさの水生昆虫などを求めて活動する。産卵期は6〜8月。

◆密漁横行、保護が急務

 イタセンパラなど希少性の高い魚をめぐっては、密漁やインターネットなどを介した不正取引が横行しているとされる。捕獲や譲渡の禁止がかえって人気に拍車を掛け、マニアの間では垂ぜんの的になっている。

 専門家によると、日本固有種のイタセンパラの生息が確認されているのは濃尾平野と淀川水系、富山県氷見市の3地域だけ。希少価値が高い上、産卵期の雄は美しい紫色の光沢を帯び人気が高い。

 このため、ネットや口コミなどでのヤミ取引の価格は、1匹数1000〜3万円に上るとみられる。個体が大きいほど高い値が付き、濃尾平野産は絶滅に近い状態にある分、他の地域に比べ、高額の取引になる傾向がある。

 個体数が激減したのは、護岸工事などで環境が悪化したこと、ブラックバスなど外来魚が繁殖したことに加え、密漁が横行したことが原因。国は木曽川水系の一部で外来魚の駆除やヘドロの除去に取り組んでいるが、密漁対策は手付かずだ。

 10月に開かれるCOP10では、絶滅の危機にある生物の保護や、多様性の保全が重要なテーマとなる。

 イタセンパラの保護に取り組む岐阜経済大の森誠一教授(動物生態学)は、「今回の事件は密漁者に対する大きな警告となるだろう。地元でも、濃尾平野の環境に合わせ太古から生き延びてきたイタセンパラを『郷土の財産』と認識し、保護する機運が高まってほしい」と訴えている。

 

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