社説

派遣法改正/安定雇用の一歩としたい 

 働く意欲を持っている人が働けない状況は、社会の損失をいたずらに膨らませるだけだ。一刻も早く、打開の道を見いださねばならない。

 仕事の当てもなく年を越した失業者は、全国で約300万人いる。年末年始、東京都が渋谷に開設した「公設派遣村」に集まった数百人のうち多くは、受け入れ期間が過ぎても別の施設をあてがわれ、今も職探しを続けている。

 派遣切りに遭い、一度に住まいも失った非正規労働者だろう。厚生労働省の集計では、2008年10月以降に失職した非正規労働者は約25万人(10年3月までの見込み含む)。うち6割が派遣だ。

 労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)が先月、労働者派遣法改正の報告書をまとめた。仕事がある時だけ、雇用契約を結ぶ登録派遣型や製造業への派遣を原則禁止する。政府はこれを受け、18日召集の通常国会に改正法案を提出する。

 ようやくと言うべきだろう。昨夏の衆院選前、与野党双方が提出していた改正法案が、廃案になって半年たつ。今回の法案には、禁止業務に派遣するなどの違法行為があった場合、派遣先企業は労働者に直接雇用契約を申し込んだとみなす規定も盛り込まれる。

 際限のない派遣の規制緩和から直接雇用の促進へと、政治が大きくかじを切る転換点だ。

 派遣法はこの20年余り、多様で自由な働き方を社会に問い掛けてきた。個人レベルでは派遣先を変えながらキャリアアップを果たした人も多い。

 しかし、1990年代以降の不況で、多くの企業が進めた派遣への切り替えは、安価な労働力への依存度を高めたにすぎなかった。労働者は「調整弁」として都合よく使われ、結果として低所得のワーキングプアや若年の失職者を増大させてしまった。規制強化は当然だ。

 労政審報告について、労働側は「まだ不十分だ」と指摘している。派遣先の責任強化が見送られたことや、製造業派遣に一部例外が認められた点など「抜け穴」を懸念する。

 一方の経営側も「派遣禁止で働き口が狭まれば、失業者がかえって増える。製造拠点の海外移転も進む」と反発している。特に中小製造業は、派遣労働者なしには短期的な受注増に対応することが難しいとされる。

 労働者保護と経営論理がぶつかる局面だが、公布から実施までには3〜5年の猶予期間が設けられている。この期間に準備を整えてもらいたい。

 もとより、企業経営を脅かしてまで正社員化への転換を強いることはできない。十分審議を尽くし、労働、経営側双方が協調して安定雇用に踏み出せるような道筋を探ってほしい。

 規制強化は、派遣労働改善の一歩目だ。安全網整備はどんな働き方でも欠かせないし、同一労働同一賃金の達成に向け、正社員との格差是正が次の課題としてある。ただ、人の働く意欲に応えるには、何であれ直接雇用が基本であるべきだ。その原則にまずは立ち返りたい。

2010年01月12日火曜日

Ads by Google

△先頭に戻る

新着情報
»一覧
特集
»一覧
  • 47NEWS
  • 47CULB