社説

地域農業再生/平成の農地改革どう生かす

 改正農地法と関連法が先月施行され「平成の農地改革」が動きだした。鳩山政権による農政転換の象徴として耳目を集める戸別所得補償制度の陰に隠れた形で、静かな船出となった。ただ、共に農業再生の鍵を握っているのは間違いない。

 所得補償が農業者個々の経営安定を目指しているのに対し、改革は、担い手を含む農業再編を地域に促している。そう受け止める必要がある。身近な農業の再生と経済の活性化に農地をどう生かしていくか。地域の力が試されている。

 改正法は農地の貸し借りをめぐる規制を大幅に緩和して、制度の軸足を「所有」から「利用」に大きく移したのが特徴だ。

 施行によって就農希望の個人、企業に加え農協やNPOといった多様な主体に参入の門戸が開かれた。さらに、担い手のため、貸し出された農地を面的なまとまりに集積する組織が6月までに全市町村につくられる。

 この2点が改革の大きな柱だ。新規参入の可否を決め、農地の集積を主導し調整するのは、市町村農業委員会であり、市町村や農協などでつくる新しい組織である。そもそも地域が主体的にかかわることが求められているといっていい。

 門戸開放で、最も懸念されるのは企業の動向だろう。目先の利益目的で参入し農業経営に早々と見切りをつけて撤退となれば、農地の荒廃がさらに進む。

 改正法の運用指針で、そうした事態を招かないよう一定の歯止めはかけられた。原状回復がなされないときの損害賠償を賃貸借契約に盛り込むよう求める一方、「地域農業との調和を乱す」などと農業委が判断すれば参入不許可もあり得るとした。

 不許可要件の表現があいまいなのは、裏を返せば地域に裁量権が与えられたともいえる。

 担い手がいない集落では企業の参入がやむを得ない場合も想定される。地域は参入主体の意欲と営農計画を見極める力を養う必要がある。

 同時に、どう農地を利活用するのか、どんな担い手に託すのかを含め、地域農業の再編計画を描かなければなるまい。

 計画がなければ、市町村の新組織が農地所有者から貸し付け委任を受け面的に集積し担い手にあっせんする事業も、場当たり的対応で終わる恐れがある。

 少なくとも引き受けた農地を区分けして、規模拡大を志向する地域の担い手や新規参入主体を誘導するゾーンとともに、小規模でも意欲的な農家や飯米農家のためのゾーンも確保しておく必要がある。新組織にはその調整に汗を流してもらいたい。

 改革は生産基盤である農地の減少を食い止め、耕作放棄をなくして食料自給率を高めるのが最大の眼目だ。その成否は各地域の取り組みにかかっている。

2010年01月11日月曜日

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