社説
自動車産業始動/進出企業とも手を携えて
米国が中国に世界首位の座を明け渡し、国内では31年ぶりに500万台を割り込む事態。2009年の新車販売台数は、自動車産業が世界で歴史的な転換期を迎え、国内では強い逆風にあえぐ現状を映し出す。
その激流に飛び込むように、宮城県内を中心に集積が進む東北の自動車産業が始動した。
トヨタ自動車とパナソニックが共同出資するパナソニックEVエナジーの宮城工場(大和町)が稼働し、ハイブリッド車(HV)用電池の量産に入った。この一歩を東北経済にとって新たな幕開けにしたい。
トヨタは、東北を国内第3の生産拠点と位置付けている。 けん引役である完成車製造のセントラル自動車が来年1月に大衡村で稼働する。それを頂点に、今年から来年にかけ、主要な部品メーカーが相次いで新工場を建設、稼働させ、産業ピラミッドを形づくっていく。
東北にとって産業構造を厚くし、足腰の強い地域経済を目指す、またとない好機である。
だが、難問もある。地元企業がいかにピラミッドのすそ野に食い込むか。自動車は先端技術の集合体であり、品質やコスト面で、求められる技術水準をクリアするのは至難とされる。
人材の育成と技術力の向上に向け、東北の産学官が連携を深め合うと同時に、それぞれが競い合う。そうした戦略も必要だ。好機を生かす、やる気と知恵が問われているといえよう。
世界が相手のこれからの車づくりのキーワードには「環境」を最重要に「安価」も加わる。今や世界の主力市場である中国・インドで需要があるのは低価格車であり、国内でも不況下でHVが好調なのは減税・補助金による割安感があるからだ。
トヨタが系列部品メーカーに対し13年までに部品調達価格を3割引き下げるよう通知したのも、そのためだ。自動車産業参入を目指す地元企業にとってハードルの高さはさらに増した。
この障壁を乗り越えようとする上で、踏まえておきたいのは進出企業の立場である。
特に本社ごと移転してくるセントラル自動車は東北という地域に根差し生きていく道を選んだ。社の命運を東北に託したといえる。主要部品メーカーの新工場も似たような立場にある。
物流コストを下げ品質管理を徹底する上で、部品の現地調達率を高めたい。世界企業トヨタグループの拠点の中で優位を保つため、地域と連携し競争力ある車をつくりたい。進出企業が、そう願っているであろうことは想像に難くない。
技術水準の格差を埋めるには「産」の自助努力が不可欠だ。「学」の知も「官」の支援も要る。進出企業ともしっかり手を携えたい。現場から助言を得て、技を吸収する。同じ地域に生きる企業同士の「二人三脚」によっても道を切り開きたい。
進出企業は、現在の技術を手にするまで幾度となく試行錯誤を繰り返してきたに違いない。困難だからこそ挑みがいがある。東北経済を進化させる改革者として、参入を図る企業経営者たちの気概に期待したい。
2010年01月10日日曜日
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