18日の通常国会の開会まであと1週間となりました。メインテーマである予算は当然として、今国会ではいよいよ永住外国人への地方参政権付与問題が焦点として浮上しそうですね。産経新聞としても、非力ながら論陣を張っていかなければならないと考えています。また、民主党の枝野幸男衆院議員が10日の民放番組で、小沢一郎幹事長の政治資金疑惑報道にからんで「政治家にも人権はある。刑事事件の推定無罪もある」とわざわざ言及したのも気になります。
枝野氏はもともと「反小沢」の議員でしたが、この人はなまじ頭の回転はいいので、状況に応じて右にも左にも向いてもっともらしいことを言ってその場をいいつくろう能力があり、小沢氏をかばったこと自体は別に不思議ではありません。自分にとって何が有利かを考えてしゃべっているだけでしょうから。
ただ、ここで「人権」という言葉が出てきたことに一抹の不安を覚えたのでした。民主党はマニフェストに入っていない参政権法案や夫婦別姓法案を推進する構えですが、自民党案よりさらに強権的で危険とされる民主党版の人権擁護法案の推進への人との弾みとなるのではないかと危惧したからです。
民主党版の人権擁護法案はきちんとマニフェストに明記されており、①救済機関は法務省ではなく各省庁ににらみが効き、官邸に直結した内閣府の外局とする②救済機関は中央だけでなく各都道府県にも設置|など、支持団体である部落解放同盟の主張をストレートに取り入れたものなのです。まあ、枝野氏が「人権」に触れたからただちに物事が動くというわけではありませんが、小沢氏に対する報道への反動という形で、この問題が前面に出てきたらこれまた大変だなあと。
私は正直なところ、民主党政権発足時には、継続性が重要な外交・安保問題や、党内外で異論の多い参政権・夫婦別姓・人権擁護法案の3点セットで民主党がその左派色と危険性を強く表明してくるのは、今年の参院選以降だろうと見ていました。とりあえずは国民ウケのいい公務員制度改革や行政改革に中心的に取り組み、いくら何でも全方面作戦をとるような愚は犯さないだろうと。しかし、結果的には、そんな常識的な見方が通用するような相手ではありませんでした。独裁者はいても、戦略的・政策的な司令塔は完全に不在のようですし。
そういう中で「政治とカネ」の問題で尻に火がついてしまったので、もうとにかく持っている弾は撃てるだけ撃ちまくろうという心理に陥りつつあるのではないかと、そういう印象も受けるのです。どうなんでしょうね。
前振りが長くなってしまいましたが、本日はやはり小沢氏をめぐる「政治とカネ」報道が集中した昨年3月の西松建設による違法献金事件の際、鳩山由紀夫首相(当時、幹事長)がどのような言動をとっていたかを振り返りたいと思います。そのことによって、今後、鳩山氏や民主党がどんなことを言おうと、「そう言えば、あのときもこうだったね」と冷静に見ることができるのではないかと、ふと思い立ったからでした。以下、鳩山氏の言葉を追います。
・ 「何かいろいろと陰謀があるなという感じはするんです。しかしそこをあんまりね、今こういう時点で申しあげるのも失礼な話だとは思っていますから、政権与党側とすれば今必死なんでしょうね。で、この、何もないところからおかしなことをつかみとろうみたいなね、そういう話がでてきているんじゃないかと、相当いやらしいね、そこはだからわれわれとすれば断固こういうものには戦なわなきゃいかんと思っています」(3日3日午後、記者団に)
…これが事件発覚後の鳩山氏の最初の公の発言です。ろくに事態を把握しないうちに、「陰謀」と簡単に決めつける言葉が飛び出すところに、この人の軽さの本質が表れているように思います。
・ 「やっぱり、国策捜査のような雰囲気がしますよね、みなさんもそう感じておられると思いますけど。(中略)選挙の影響を考えてこのようなことを行ったわけでしょうから、当然、選挙への影響というものは出る話ですよね。しかし、ここで民主党が国民の皆さんから麻生政権を倒せと、しっかりした政治を行えと、国民のために頑張れという信頼もいただいてきたわけですから、そこを失ってはいけないわけでね、われわれとしてはさらに一層頑張らにゃいかんなと、そう思います。当然ある意味では選挙が近いのかなという思いも感じましたね」(同日夕、記者団に)
…有名な「国策捜査」発言です。これについては首相就任時に取り消したわけですが、政治歴の長い野党第1党幹事長が率先してこんなことを述べるのだから、国民の一部や外国メディアが「そういうものか」と誤解してもやむを得ないのでしょうね。無責任だなあとつくづく呆れます。
・ 「小沢代表は、これはご案内かと思いますが、すべての政治資金の収支、入りと出を1円単位まで、非常に細かく緻密にオープンにされているところでございまして、ある意味ではまさに政治家の鑑のような存在で、オープン性、ディスクロージャーという言葉を記者会見でも何回も使われましたが、ディスクロージャーを旨として行動されている政治家代表でございます。その代表が政治資金にのっとってすべて適法に処理してきたことは言うまでもありません。(中略)検察側に何らかの政治的な意図があったと疑われて当然だと思っておりまして、むしろ、検察側にその根拠を国民の皆様方にしっかりと示す、むしろ彼らの方に説明責任があると、そのように感じているところでもございます」(4日午後、民主党代議士会でのあいさつ)
…小沢氏は「政治家の鑑」なのだそうです。政治資金収支報告書がいかに分厚いものになろうとも、そこに不記載や虚偽記載がたくさんあるのであれば、何のディスクロージャーになろうものか。しかも鳩山氏は後に、小沢氏の収支報告書を見てはいないと述べています。何を根拠にしゃべっているのやら。
・ 「検察当局がね、本来ならこのようなことで、家宅捜索を行って逮捕をするということはあり得ない話で、しかし、選挙が近いという状況の中で、敢えて党の代表の秘書に対して容疑というものを作り上げて、そしてこのようなことを行うということに対しては、やはり政治的な意図があったとしか思えないわけでありましてね、私ども、当然ながら、その確証を今得ているというわけではありませんが、この状況証拠の中でなぜこんなことを行うのかと、大変強い憤慨を感じています。」(同、記者団に)
…実はこの事件の前に、やはり政治資金疑惑を捜査されていた某地方首長の側近が自殺したという事件がありました。小沢氏の公設秘書の即逮捕には、自殺予防という側面があったとも聞きますが、まあ、それはともかく、確証もなしに「容疑をつくりあげる」とまで発言する公党の幹事長もなんだかなあ。
・ 「どう考えても、内閣と検察の間で何らかの会話が行われていたな。そんな気もする訳でございますし、検察のほうから内閣に対して何らかのメッセージが送られていたのではないかと。そう疑わざるを得ない訳でございます。(中略)昨日、自民党の派閥の会長であります町村先生が、民主党が、検察捜査に対して疑念を感じていることに対して『民主党はけしからん』と。抗議をするようにと自民党執行部にそう申されたということだが、どちらが正しいのでしょうかということでございます。むしろ、このような抗議は、内閣に対して行ったらいかがでしょうかと申し上げたい」(6日午後、記者会見で)
…実はこの事件が首相官邸の意向に沿った国策捜査だと言われ始めたとき、安倍晋三元首相は冗談で「検察がそんなに官邸の言うことを聞くような組織だったら、自分だってそうしたいぐらいだったよ」と苦笑していました。検察は官邸の意向ではなく、検察独自の論理で動くからこそ、小沢氏の二人の師匠、田中角栄氏も金丸信氏も政権党の黒幕だったのに逮捕されたのでしょうからね。
・ 「こういう話は修正申告で済んでいた話が、なぜ、小沢代表の秘書の場合にこうなってきたかということも考えていかなきゃいけないと思ってまして、そういう意味でも不当性があると思っています。起訴というものは、起きないだろうというのが小沢代表の今の確信めいた言葉であります」(8日午前、テレビ番組で)
…さすが、後には10数億円の「子ども手当」や保有株売却の申告漏れを、ただ修正申告で済ませて「あれは決着した」と明言できる鳩山氏のお言葉です。まあ、鳩山氏が託宣を受けた「小沢代表の確信めいた言葉」は外れましたが。
・ 「事実として申し上げたいと思いますが、検事総長が、やはり、「行政の一貫として行った行為だ」という発言をされていたようでありまして、やはり、行政の一貫、麻生内閣を支える行政の一貫として行った行為だということを、話されたとうかがいました。その真実、まだ、私自身はそのペーパーを読んでおりませんが、そのような発言があったということでございまして、それはやはり、聞き捨てのならない話だなと思っておりまして、やっぱりそうなのかということであれば、やはり検事総長を何らかの形で説明責任を果たしてもらいたいとわれわれとしては強く申し入れるべきではないかと、そのように思っております」(18日午後、「次の内閣」でのあいさつ)
…これ、意識的にか無意識にか、「行政の一貫として行った行為」の意味を取り違えたとしか思えないのですが。検事総長がもともと何と言ったか正確な原文は知りませんが、ふつうは「粛々と使命に従って捜査した」という意味ではないかと思うのですが、鳩山氏は内閣に従って逮捕したという意味に受け取っていますね。脳内変換が過ぎるのではないかと。
・ 「(19日夜の小沢氏との飲み会での)話の大半は、民主党としてこの事件を契機に、政治とカネの問題をどう扱うべきかという内容に費やされました。小沢代表は、「やるならば、企業団体献金の全廃しかない」と何度も述べました。この発言に対して、既に自民党サイドからは、「小沢代表にだけは言われたくない」といった趣旨の批判が届いています。私は敢えて申します、「小沢代表だから言えるのだ」と。小沢代表としては、西松建設がらみの献金に関しても、全てオモテで政治資金規正法に則って処理をしていたにもかかわらず、秘書が逮捕されるという事態が生じたことに強い疑念を禁じえないのです。しかも、ウラで即ち政治資金規正法に違反して献金を受けていた自民党の議員には及んでいません。(中略)「企業団体献金の全廃」には、既に民主党の中からも、「とても無理ではないか」といった声が聞こえてきます。確かに、日本では個人献金が定着していませんので、個人献金も増えず、国からの助成も増えない状態で企業団体献金を全廃してしまうと、ある程度のお金持ちしか政治家になれないことにもなりかねません。(中略)かつて、私が自民党時代にユートピア政治研究会を作り、政治家の活動には如何にお金がかかるかを公表したことがありました。それが契機になって、政治改革に火が点いたのですが、その時の議論では、企業献金、個人献金、政党助成金の割合が1/3ずつ位になるのが理想ではないかとの結論でした。無駄遣いは戒めなければなりませんが、政治活動にお金がかかることは民主主義国家ですからやむを得ません。したがって、企業献金を全廃するとなれば、個人献金か政党助成金を増やさなければなりません。個人献金を推進する最も有力な手段は、個人献金して下さる方の献金額を税額控除することです」(20日付の自身のメールマガジンで)
…鳩山氏の発言は論理が飛躍し、根拠がよく分からないことが多いのですが、この中でいう「ウラで献金を受けていた自民党議員」とは誰のどんな事例を指しているのでしょうね。そこを示唆する何ものもないので、単なる印象操作のような感を受けます。また、企業献金をなくして個人献金と政党助成金を増やすことを求めていますが、その後の展開は実に皮肉なものでした。鳩山氏自身には故人献金問題が浮上し、小沢氏は政党助成金の流用問題が再び取り上げられ…
・ 「やはり、この問題、何らかの政治的な意図が働いていることは間違いありません。だからこそ、私たちは、なぜこのような選挙の前、直前に、次の総理になろうとしている方に対して、その秘書をあのような形で、形式犯で本来ならば修正申告すべきである、それで済むようなことを、逮捕まで行ったのか。検察庁に対して、説明をしてもらいたい、そのような気持ちを禁じ得ないのでございます。もっと裏で、見えないところでおかしなことをやっている事例がたくさんあるのに、あるにもかかわらず、そこにはおとがめなしで、何で、小沢代表の周辺なのかというところを、私たちもしっかりと追及をしていきたいと思っております。」(22日午前、講演で)
…政治的意図をこれだけ強調していたのだから、政権をとった今、改めてそれは何だったのか、現在は鳩山氏自身の政治的意図に従って検察が動いているのかどうか説明してほしいものです。ここでも「おかしなことをやっている事例がたくさんあるのに」と例によって何も具体的なことを示さずに言い切っていますが。
・ 「(公設第1秘書の起訴を受けて)やっぱり官僚主導、検察も行政官僚ですから、国策捜査だという声があります。必ずしもきょうは、そう言わないようにしておきますが、大変、検察も政治的な意図で、行政の一環として仕事をしている、そのように思えてならないところがございまして、今私たちは官僚任せの政治から、皆様方が主役になる政治、切り替えてまいりたいと思っています」(25日夕、選挙応援演説で)
…最初に指摘したように、鳩山氏は後に国策捜査論は取り消したわけですが、これだけたくさんの国民(と外国)に誤解を与えるような発言をしてきたことについて、もっと深刻に反省してほしいものです。まあ、自分が何を言っているのかもよく分かっていなさそうな人にそれを求めるのは酷かもしれませんが。
・ 「検察官僚、検察は裁判所じゃないですからね、検察は官僚、お役人さん、お役人さんということは、今、まさに行政を司っている方々ですから、麻生内閣の行政の一環として仕事をされている、その仕事の一環として、彼らは彼らで頑張った、でも、私たちはその官僚と戦わなければいけないとそう思ってやってきた民主党なんです。検察官僚にとってみれば、容疑のある人を逮捕すると、取り調べというのをやりますよね。取り調べをやって、がんがん責め立てると、いつのまにかやっていないことでも、もう、これ以上は勘弁だなと、もう外に出たいという思いで、実際にはやっていない事まで言わされてしまうようなことが起きてしまう。そういうことはやっちゃだめだよ、すべて取り調べをみんなこのカメラのようにビデオで写しておこうよという法律を私たちは出しているんです。こういうものが検察官僚にはとても悩みの種で民主党政権ができることは何としても妨げなければならないとそういう思いをされたか、持ったのかなとそんな推察をしているところでございます」(28日午前、選挙応援演説で)
…ここまでくると、一種の「陰謀論」ですね。検事だっていろいろな人がいるだろうに、そこまで恣意的でテキトーな理由で団結して動くとでも本気で思っているのか。まあ確かに、民主党には米中枢同時テロをブッシュ前大統領の陰謀とする議連があるなど、もともとそういう風土があるのかもしれませんが。
・ 「それは(小沢氏に)殉ずるときは、殉じますよ。私は小沢代表の下での幹事長でありますから。だから私は小沢代表にもはっきり申し上げましたよ。これは政権交代というものが、一番われわれがなさなければならない使命であると。その使命をなんとしても果たそうではないか。小沢代表が、ご自身が続けられたいと、その気持ちを強くもっておられれば、私はとことんそれを支えてまいりますと。そして、党を絶対まとめきって、そしてその党の勢いで政権交代を何としても実現させていきますい、と。ただそこで、ただ、選挙が直前になっても、やっぱりこれは難しいねと。われわれの天から与えられた、やらなきゃならない政権交代というもものに対して、国民の目は厳しいねという判断が下されたときには二人ともそのときは責任とろうじゃないかと。分かったと。そこまで、二人の間で約束をしてまずはとにかく、この正しいと思っていることを貫いていこうではないか、と」(29日朝、テレビ番組で)。
…というわけで、小沢氏に殉じて幹事長を辞め、代表になって首相になったわけですね。分かります。ホント、国民は寛容だなあ。
・ 「(細野豪志衆院議員が「これだけのお金を集めて何に使ったのかもう少し踏み込んで説明すべきだ」と述べたことについて)おっしゃるとおり。だから、私が言っている小沢代表の説明責任というのはむしろこういう部分であってね、私から見てもやっぱり、すごいお金を集めてるなと思いますよね。それを一体どのように使っているかということは実は総務省の収支報告書をみれば分かるんです。小沢代表はだから、収支報告書というものを閲覧できるんで、国民の皆さん、もしそうであれば、閲覧してくださいといっているわけですけれども、まずはそんな閲覧するわけないですから、国民の皆さんにそこのところはもっと懇切、丁寧に説明する必要がある。例えばジョン万次郎の草の根交流とかですね、日米交流とか。あるいは長城計画とか。これ何百人規模ね、毎年中国に派遣しているわけですから相当な金かかってますよね。そういうのをどのぐらい、そういう草の根の交流に日中、日米、かかっているかと。(Q:これたくさんのお金を出しているんですか?)出していると思います。それをしっかりと国民の皆さんに説明をする必要があると思いますね」(同上)
…私も小沢氏関連の政治資金収支報告書は一通り、目を通しましたが、鳩山氏が指摘している長城計画で大金を出したあとには気がつきませんでした。というか、長城計画は決して安くない会費制ですしね。まあ、鳩山氏自身、年1億8000万円の「子ども手当」の使途は一切、国民に説明していませんが。
・ 「国民の皆さんから見れば、大きな額だねと、いうことに対する不信感があると思いますから、「こういうことに使ってるんですよ」、「ああ、分かりました」と国民のみなさんがそれなりに納得していただけるような形で収支報告をね、もう、これは見れば分かるよという話かもしれませんが、ほとんどの方は見ませんから、国民のみなさんにわかりやすく説明することが必要だと思います」(29日午前、記者団に)
…私は記者ですから、政治家たちが語った言葉はそのときどき、限られた紙面スペースの中ではあるものの、大事だと思う点、ポイントだとみられる点はできるだけ正確に、あるいは意図が伝わるように報じたいと考えています。かといって、それはその政治家の言葉が正しいとか、本当のことを語っているとか思っているわけではありません。政治家も官僚もときに平気で嘘をつき、いいかげんなことを言いますが、しかし、嘘やデタラメであっても、そのときそう語ったということ自体は事実であり、記録しておきたいと考えています。また、そうすることで政治家たちの実態、実像が浮き彫りになっていくものだとも思っています。
ただ、こういうことを書くと誤解を招くかもしれませんが、政治家の一言一言をあまり真に受けない方がいいとも思うのです。政治家と国民は言葉でつながっているものですから、それを否定してしまっては仕方がないのは当然ですが、「一言」をきちんと理解するには、日頃からその政治家の言動を追っている必要があると感じるのです。忙しい方々にそんなことを要求しても無理なのは承知していますが、でないと、だまされたり、勘違いしたりしかねないと。では、何を信じたらいいのかと言われると、マスコミがこれだけ不信感を持たれ、ほとんど蔑視されている状況では「メディアリテラシーを高めてください」とお願いするしかないのですが。一対一だろうと、「マス」が対象であろうと、コミュニケーションというのは本来、とても難しいものだという気がしています。
by ohyashima
韓国民団の新年会で民主議員が…