池田信夫 blog

Part 2

2010年01月10日 10:12
経済

新興国バブル

このごろ証券会社の営業がすすめる投信に、日本株がまったくなくなった。民主党は日本が「株主至上主義」だと思っているのかもしれないが、先進国で最低のパフォーマンスしか出せない日本株には、証券会社も愛想をつかしたようだ。その代わり、彼らがすすめるのは中国、ブラジル、インドなどの新興国株である。

この背景には、金融危機で各国政府や中央銀行が金融機関に巨額の資本増強や資産の買い取りを行なった結果、世界的な資金過剰が生じている状況がある。先進国の金利は1%を下回り、ドルにペッグしている新興国も金余りに巻き込まれている。キャリー取引がまた始まり、オーストラリア・ドルへの投資が人気だ、とEconomistは報じている。

株価は昨年3月の最低水準から70%も上がり、特にブラジル・中国・インドの株価は2倍以上になった。こういう国々が長期的に成長することは事実だが、それがこのような短期的な値上がりを正当化するとは限らない。かつてのITバブルのように、投資家は将来の成長を過剰に先取りする傾向が強い。「今回の経済危機を契機に、世界経済の中心は新興国に移った」という物語が正しいほど価格は上がり、それが物語の信憑性を補強するループが生じるのだ。

他方で長短金利差は拡大し、米国債では4%に達している。これは財政赤字の拡大によるリスクプレミアムと考えられるが、各国政府は「二番底」を恐れて財政支出を削減できない(日本の1997年の誤った教訓が「学習」されている)。しかしギリシャなどから破綻の兆候が見えている。資金過剰を支えている政府の景気刺激策が維持できるのは、国債を市場が低利でファイナンスしてくれるかぎりにおいてだが、それは限界にきている。

バブルは、それが崩壊したあとで同定するのは簡単だが、進行中に「これはバブルだ」と判断することはむずかしい。今がまさにそういう状況だ。新興国でも政府債務でもバブルが増殖している疑いが強いが、それがバブルだとは断言できない。新興国は何事もなく成長を続けるかもしれないし、各国政府は財政赤字をコントロールできるかもしれない。しかしマーケットが「これはバブルだ」と思った瞬間に、それはバブルになるのである。

このような危険な状況になっっても、「日銀はもっとめちゃくちゃに金融を緩和しろ」と騒ぐ人がいるが、白川総裁も危惧するように、これ以上の金融緩和は新興国のバブルを拡大して破滅的な結果をもたらすリスクが大きい。新興国バブルが崩壊すると、現在の回復を支えている新興国の資金が止まり、全世界が巨大な「二番底」に陥るだろう。グローバル経済の中では、金融政策もフリーランチではないのである。

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トラックバック一覧

  1. 1.

    200年に一度の

    世界中の国が金融緩和をしているおかげで、世界は金余り状態になっているらしい。 池田信夫blogによると、 株価は昨年3月の最低水準から70%も上がり、特にブラジル・中国・インドの株価は2倍以上になった。こういう国々が長期的に成長することは事実だが、それがこのような...

コメント一覧

  1. 1.
    • eriko011
    • 2010年01月10日 10:40

    最近拝見していなかったのですが、池田先生のブログを拝読して、高橋洋一氏が、いまだに昔と同じ主張をされているのを確認してびっくりしてしまいました。高橋氏の意見は、知的で建設的なものが多いと思うのですが、金融政策についてだけ、何故このような既に過去のものとなったナンセンスな議論をいつまでも続けられるのでしょうか・・・。すごく不思議です。池田先生は、高橋氏と親交が深いと拝察しましたので、是非、意見をただしてあげてください。このままだと、高橋氏は、金融政策について意見をしているのではなく、単に日銀に個人的な恨みをもって騒いでいるようにしか見えませんから・・・。

  2. 2.
    • 池田信夫
    • 2010年01月10日 12:26

    私もこれは謎ですね。彼の本を読んでも、マネタリーベースとマネーストックを区別しないで「マネーサプライ」と呼んでいるなど、初歩的な金融理論を理解してないのかもしれない。これは独学の限界ですね。彼がデータとして出してくるのもマネタリーベースだけだけど、アメリカのマネーストックはほとんど増えていない。

    ただ「お札を印刷すればインフレになる!」という話は素人にもわかりやすいので、中川秀直氏や渡辺喜美氏などに強い影響を与えています。先日も、みんなの党の勉強会で、この点を渡辺氏に説明したのですが、彼は理解していなかった。さいわい日銀はリフレ派を相手にしていないので、そういう金融政策がとられる懸念はありませんが、政府がバカだと「デフレ宣言」などの圧力をかけてくる。困ったものです。

  3. 3.
    • jestemneko
    • 2010年01月10日 16:50

    日銀だけが抑制しても、他の先進諸国中央銀行が抑制しない限り、新興国バブルが膨らんで破裂するのは不可避でしょう。とくにアメリカの低金利政策が問題で、長期金利の上昇は不可避であると考えます。
    それで高橋さんが、「日本だけが辛抱してもしょうがないのだから、日銀はもっと金をバラマケ」と言うのであれば、はじめに日本国債の仕組みがガラパゴス化している点を問題にしないといけない。外債が少ない理由はそこにあるわけで、政府が意図的に内債の割合を95%前後にしていたわけではない。私は経済素人ですが、高橋さんは日本国債の構造的欠陥を認識していないように思います。
    私は、ガラパゴス的国債システムが原因で日銀の裁量が他の先進諸国中央銀行よりかなり狭くなってしまっていると考えます。政策的には、国債の発行額を抑制し、同時にガラパゴスシステムを改めながら日銀の裁量を拡大するしかないでしょう。それを言わないで、日銀バッシングをしてもどうにもならない。高橋さんも含めて、日本の経済学者は勉強不足で怠慢な人が多いと、あえて言わさせていただく。

  4. 4.
    • 池田信夫
    • 2010年01月10日 17:10

    日本国債が海外の投資家に買われない理由は明らかで、そのリスクに金利が見合わないからです。デフォルトやインフレのリスクの高い国債を1%程度の金利で買う投資家は、他に融資先のない邦銀だけです。つまり現状でも、日本国債の価格はバブル的なものだと国際的にはみられているわけです。

    ただ、このバブルは邦銀と郵貯を中心とする「金融村」がカルテルを組んで買うかぎり維持できます。ヘッジファンドが空売りをかけても、規模ではとてもかなわない。邦銀には市場原理が働かないので、財務省や日銀が「指導」すれば、含み損覚悟で買い支えるでしょう。90年代に「破綻懸念先」に追い貸しを続けたのと同じです。

    問題は、いつまで彼らに買う余力があるかということです。90年代の場合には、97年末の拓銀・山一で不良債権バブルが崩壊しました。やはり決め手は、操作可能なsolvencyではなく絶対的なliquidityなんですね。国債の場合は、まだそこまで問題は切迫してないけれど、論理的に起こりうることは(いつかはわからないが)必ず起こる、というのが90年代の教訓です。

  5. 5.
    • jestemneko
    • 2010年01月10日 17:39

    >邦銀と郵貯を中心とする「金融村」がカルテルを組んで

    国債の仕組みだけでなく、日本の金融全体の仕組みがガラパゴス化しているという指摘は正しいと思いますが、私の手に余ると言うか、私の能力を超えています。しかし、まさにそれを言わないで、やたら日銀バッシングをする経済屋さんが多いのにあきれてしまいます。
    高橋さんは、FRBやECBのバランスシートと日銀のバランスシートを出してあれこれ言ってますが、FRBやECBの資産が大きいのは、多額の不良資産を買い取ったからでしょう。高橋さんの考えにしたがえば、「日銀は不良資産を買い取れ」ということになる。たとえば、赤字のJALが社債を大量発行し、それを日銀が買い取るのはよいことだ、となります。あるいは、民間銀行のJAL融資を、日銀に付け替えるのはよいことだ、となるでしょう。
    そのようなことは、絶対に、やってはいけない。いったい、何を考えているのでしょうか、経済学者のみなさんは。

  6. 6.
    • jij999
    • 2010年01月11日 05:10

    >邦銀と郵貯を中心とする「金融村」がカルテルを組んで買うかぎり維持できます


    小泉政権では、市場観の(わりと)ある西川さんをヘッドにすげ替えてそれなりの「牽制」もできたし、外国人投資家にはかなり好印象だった。私もこのときは仕事で外国人投資家にいろいろ説いてまわった。でも斉藤次郎さんになったら元に戻った。
    民主党の若手だってこんなバカな国営ねずみ講に参加したくないはず。麻生と鳩山はまちがいなく将来の教科書にのるだろう 笑

  7. 7.
    • jestemneko
    • 2010年01月11日 14:41

    私は経済素人ですが、日銀だって市場だけを見ながら通貨発行量をコントロールしたいでしょう。しかし、日本の財政はボロボロで、日銀は財政事情も見ながら通貨発行量をコントロールするしかない状況に追い込まれている。池田さんやeriko011さん、jij999さんがそれを理解しておられるのは分かるのですが、どうして高橋さんのような分からず屋の経済屋さんが多いのだ、というのが私の素直な感想です。
    日本郵政のほうは、亀井さんが担当大臣になった以上、ああなるのはしょうがない。むしろより優先度の高い改革をしなかった点に小泉ー竹中改革の問題がある。石油公団を廃止するとき、経産省の官僚から「新幹線の駅の数より飛行場の数のほうが多いのですけど、、、」と聞かされてハッとしました。あのときは、郵政民営化を後回しにして国交省にメスを入れるべきだったのです。

  8. 8.
    • lvdrbird
    • 2010年01月11日 15:35

    チョコの原料となる砂糖とカカオの価格が高騰しているとの記事が新聞に載ってました。不作や新興国の需要増の要因の他に投機資金の流入も原因となっているようです。原油先物もピークの145ドルには程遠いものの直近では80ドル台で安い水準とは言えません。日本はデフレで大騒ぎとなっていますが世界に目をやるとインフレの芽がチラホラ見え始めてきています。

    バブルになれば一時的に消費も増えるでしょうが後始末が大変です。バブルもバラマキ財政政策も似たようなところがあると思います。安易な道を選ばず厳しい状況下でも成長が可能となるようにやっていったほうがいいと思います。

  9. 9.
    • jestemneko
    • 2010年01月11日 17:51

    lvdrbirdさん、缶コーヒーで使うコーヒー豆のほとんどがベトナム産だと聞かされたことがあります。今年になって、量は少ないようですが、アメリカ産より安くて安全なロシア産小麦の輸入がはじまるようです。現実の市場は、モザイク的に複雑化していて、新しい芽も生まれている。新しい芽が、国民生活を世界インフレやハイパーインフレから守ってくれるかもしれない。ここでおかしなことをやると、そういった新しい芽を潰してしまう。
    無駄をなくすために、政府がドラスチックな行政改革を行うのはいいですよ。税制改革や金融改革もしなければならない。しかし、政府がドラスチックな市場介入を行うことには反対です。需給ギャップをダシにして日銀に円のバラマキをやらせるなんてことは、してはいけないですよ。円のバラマキが為替を大きく変動させ、ようやくはじまったベトナムやロシアのような国々との貿易関係を台無しにしてしまうかもしれない。長期的な食料や資源エネルギーの確保を憂慮する者のひとりとして、私は高橋さんのような人の考えには反対です。

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