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社説

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関西3空港―伊丹廃港も視野に入れて

 半径20キロ圏内に、関西、大阪(伊丹)、神戸の3空港がひしめきあう状況をどう整理するのか。行政刷新会議が事業仕分けで提起した問題は、まだ解決の道筋が見えない。

 抜本策が示されるまで関西空港への補給金を「凍結」する――。仕分け人の判定に共感した納税者は多いだろう。3空港が足を引っ張り合う現状への疑問は当然のことだ。

 関空は2本の滑走路を24時間使えるのに能力の半分しか生かしていない。空港を管理する関西国際空港会社は1兆1千億円の有利子負債を抱えている。負担軽減のため、2003年度から政府が補給金の形で支援してきた。

 曲折を経て新年度の補給金は要求の半分以下の75億円となった。だが、供給過剰を放置したまま対症療法を続けても、解決策にはならない。

 地元財界や首長らでつくる懇談会は関空会社が3空港を一元管理する方針を出した。しかし、一元管理で大きな需要を生み出せるとは考えにくい。

 実際には地元の意見は割れている。

 大阪府の橋下徹知事の構想は、伊丹を廃港し、関空を西日本の国際ハブ(拠点)空港にすることだ。

 ただ、関空はとかく「遠い」と敬遠されがちだ。アクセス向上という課題を解決する道は探らねばならない。その見通しを立てたうえで、10〜15年後の伊丹廃港をめざすとしている。

 一方、兵庫県の井戸敏三知事や空港周辺の市長たちは「利便性が高い」として伊丹存続を譲らない。利用者や航空会社にも同じ思いは強いだろう。

 3空港の将来を考えるときに必要なのは大きな戦略である。

 政府の「観光立国」策はその手がかりになりそうだ。歴史遺産が多い関西で、関空を国際的なアクセスの拠点に位置づければ大きな需要増が視野に入る。政府は羽田のハブ化を構想しているが、観光を柱とすることは、西にもう一つのハブを持つ論拠になろう。

 電池産業などを牽引(けんいん)車として関西経済の浮揚を考えるなら、24時間使えて需要増にも対応できる関空を、国際航空貨物の拠点とすることも重要だ。

 限りのある資源や資金は関空に集中させ、伊丹を廃港する方が理にかなっているのではないか。

 もともと伊丹空港周辺の騒音問題から関空が誕生した経緯もある。航空機の性能向上で騒音は減ったとはいえ、いまも環境対策に毎年50億円を費やしている。住宅密集地という安全上の不安もある。言い換えれば、跡地に魅力があるということでもある。

 前原誠司国土交通相は「(伊丹に乗り入れる航空機を)小型化しながら存続させたい」と語っている。機能縮小案といえるが、その先に廃港も見据えてはどうか。確かな需要予測を踏まえつつ、政府が将来像を示すべきだ。

死因究明制度―生者のために死者は語る

 日本では年間十数万人が、病院以外の場所で「変死」する。自死する人や高齢者の孤独死も増えている。

 こうした死の真相は、状況をよく調べ、遺体にメスを入れて検査を尽くさないと正確に突き止められない。なのに変死体のうち解剖されるのは1割ほどで、先進国の中ではかなり少ない。

 相撲部屋のリンチ、子どもの虐待、ガス器具の不具合による中毒……。あいまいな死因で片づけられたために、重大な犯罪や事故が見落とされた例は数多い。

 そんな死因究明のあり方を見直そうと、警察庁が中心となり、近く研究会をスタートさせることになった。

 日本での変死体の扱いは、刑事司法と公衆衛生行政という、目的の異なる二つの枠組みで進められてきた。

 警察から駆けつけた検視官や署員が遺体を外から調べ、犯罪の疑いがあると判断すれば大学の法医学教室へ司法解剖に回す。だが、警官の「五官」に頼った振り分けには限界がある。

 事件性がなさそうな場合は、伝染病対策などを目的とした行政解剖に委ねることができる。ただし対応できる監察医制度があるのは、東京など5都市だけ。態勢は極めて不十分だ。

 犯罪捜査が優先されて、それ以外の死因究明はおろそかになりがち。そのくせ犯罪の見落としも多発する。このようないびつな制度は、この際、根本から見直すべきだろう。

 検討のたたき台になりそうなのが、野党時代の民主党が3年前、国会に一度提出した法案だ。

 死因を調べる責任を警察に一元化し、警察庁に「死因究明局」を設ける。法医解剖の態勢整備のため内閣府に「法医科学研究所」を置き、監察医務院や法医学教室と連携し、各地で執刀医も増やす。そんな構想だ。

 責任を明確にし、犯罪の発見だけにとらわれずに、死因を究明する態勢をつくることは必須だ。それを警察に担わせるか、独立機関の方がよいのか。病院で死んだ場合の解剖をどう扱うのか。幅広い議論を始めたい。

 大事なのは、死者が残してくれた情報を、生きている者の安全や安心のために生かす発想だ。様々な死の分析を通して、社会に潜む新たな危険を見つけ、中毒・感染症対策、虐待や自殺の予防につなげたい。事故対策では消費者庁との連携プレーも必要だ。

 そのためには捜査やプライバシーにかかわらない死因情報は、できるだけ開示すべきだ。現在は、今後の教訓になるような事例が司法解剖で明らかになっても、「捜査上の秘密」を理由に伏せられることが多い。

 人の死がぞんざいに扱われることで最も苦しむのは、残された肉親だ。遺族への説明とケアが行き届くような工夫も、忘れないでほしい。

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