マクロ経済学については、いま学部で使われている日本語の教科書は全部だめ。John Taylorも嘆くように、各国の政策担当者が昔ながらのケインズ理論しか知らないために、有害無益な財政出動が行なわれた。スタンフォード大学では、従来のマクロ経済学を教えるのをやめ、ミクロとマクロを統一したフレームワークで教えるそうだ。ただ残念ながら、学部の教科書には、そういう新しい理論を書いたものが少ない。私の読んだかぎりでは、今のところ中級ではJones、上級ではMankiwぐらいだろう。
その点、ミクロは「枯れている」ので、学部レベルの教科書で十分だ。本書は、教科書としては珍しく、日経新聞や週刊ダイヤモンドで昨年のベスト10に選ばれるなど話題になった。特にⅡは、規制改革のあり方をミクロ経済学を応用して論じている。次のような結論は初等的な練習問題として導けるが、それが理解できない人は本書を読んだほうがいいだろう:
- 最低賃金を引き上げると失業が増える
- 雇用規制を強めると非正規労働者が困る
- 家賃規制や「借り手保護」を強めると借り手が困る
- 高速道路を無料化すると、混雑がひどくなって社会的にはマイナス
- 子ども手当や農業所得補償のような「集団再分配」より負の所得税のような「個人再分配」のほうが公平で効率的
- 高校無償化のような公立学校だけを補助する再分配より教育バウチャーのほうが公平で効率的
- 「都市と地方の格差是正」と称して行なわれる地方交付税や「ユニバーサルサービス」の義務づけは非効率
コメント一覧
池田先生
あけましておめでとうございます。
仰るとおりだと思います。
政権誕生から100日は様子を見ていましたが、出てきた成長戦略にがっかりしました。
しかし自民党はあの為体で話になりません。
また、みんなの党の経済政策の中心を担っているであろう浅尾慶一郎氏のお考えにも経済学的誤りが散見され、全てを任せる気には到底なりません。
つまり現在、真っ当な経済政策を指向している勢力が見あたらないように思います。
更に某女史の世論ミスリードなどもあり、懸念は広がる一方です。
> 本書のようにわかりやすく問題を解説することが経済学者の大事な仕事である。
できるなら、池田先生のようにパーソナルブランドが確立されておられる方、つまり影響力の強い方から、本Blogのような言説を、政権や政治に近い方々に直接伝えていただきたいと思っています。
民主党は「合格」したばかりの大学生かもしれませんが、日本の大学である以上、入った後勉強するとは限りませんよw
早速入学直後からサークル、飲み会、バイトと「学生の本分」以外のことに夢中になって、留年しつづけて最期は就職もできずに非正規になるんじゃないですか?(笑)
> 高速道路を無料化すると、混雑がひどくなって社会的にはマイナス
これは、ほんとうでしょうか?米国では町と町のあいだの移動はほとんど高速道路かそれに準ずる道路をつかいます。
これには、つぎのような利点があります。
1) 一般道路の混雑が軽減される。
2) ガソリンの消費量が減り、 また排気ガスが町中にまきちらされない。
3) 移動に要する時間が短縮される。
4) 料金徴収所がいらない。
電車やバスの利用がへるといった欠点はあります。
こんにちは。いつも面白く拝見させていただいています。
何点か疑問に感じるところがありましたので、質問させてください。
> 高速道路を無料化すると、混雑がひどくなって社会的にはマイナス
高速道路のみが有料であると、普通道路の混雑がひどくなって社会的にマイナスということにはならないでしょうか?
また、道路の使用は、通行料だけでなく、車両の保有コストや燃料費、運転手の人件費がかかるので、通行料だけが無料でも、道路使用の費用が無料になることはないのではないでしょうか?
> 子ども手当や農業所得補償のような「集団再分配」より負の所得税のような「個人再分配」のほうが公平で効率的
子ども手当は、所得のない子どもに対する補助金と見ることもできるので、負の所得税が公平で効率的なら、子ども手当もそれほど悪い政策ではないように思えますが、決定的な違いはどこでしょうか?
> 高校無償化のような公立学校だけを補助する再分配より教育バウチャーのほうが公平で効率的
報道では、私立学校に対しても同額の補助金を出すということになっていると聞きますが、教育バウチャーとの本質的な違いは何でしょうか?
最近、経済学をしっかり勉強したいと感じている者です。
マクロの教科書は決定版のようなものがなく、いまだ流動的で精緻化されていないのかもしれませんが、漠然とした印象しかもてませんでした。
マンキューの教科書も5年前に翻訳されてそれ以降は出版社からの啓示待ちですね。(英語を勉強しろ!ということはさておいて)母国語が日本語ということで情報(理論構築?)が遅れてしまうことは解消しにくい障壁です。。
池田先生のような方が声を掛けていただき、ウィキペディアのようなフォーラム型で原書を翻訳していくという取り組みをは実現できないものでしょうか?やはり、権利関係がネックになってできないのでしょうか?
さすがにボランティアだと成り立たないかもしれませんが、官僚の方々などが読むとなれば有料化しても成り立つ可能性もありうるのかもしれません。
いきなり、勝手な提案をする図々しさをお許しください。
「> 高速道路を無料化すると、混雑がひどくなって社会的にはマイナス
これは、ほんとうでしょうか?米国では町と町のあいだの移動はほとんど高速道路かそれに準ずる道路をつかいます。」
元記事のほうが見つからなかったのですが、渋滞を引き起こす主要な因子は「道路における車の密度」だそうです。
http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~kikuchi/weblog/index.php?UID=1204861899
アメリカのフリーウェイで渋滞が起きないのは日本と比べて圧倒的に車の密度が低いからだと思います。
>以上は当ブログでも書いた常識だが、
それは認めますが、それでも自分は最低賃金上げや労働規制をある程度は主張します。
自由主義経済だからといって規制は要らないというのは、道路交通法も速度制限
も撤廃しろと言うに等しく、そういう態度では社会が荒れる一方だと思います。
幾らゴミ掃除しても、また新たなゴミが出てくるだけなのでもうやめますが、
ナンセンスコメントを垂れ流す前に、
http://agora-web.jp/archives/823680.html
とまあ、別の人から轟々たる反論が来たのですが、労働法制や社会保障の薄い
アジアの発展途上国が日本より貧しく医療も治安も悪いことは否定できないはず。
規制緩和ばかり怒号してセーフティネットを疎かにするような言説を聞いていると、
日本も中国やインドやフィリピンのような国になれと言ってるふうに聞こえます。
フィリピン知事選めぐる大量殺人、死者57人に 「両目を突き刺された」遺体も
http://anakpinoy.blog.so-net.ne.jp/2009-11-26
【インド】新型インフル死者約1千人に
http://indonews.jp/2010/01/1-83.html
>minourat さん
> 高速道路を無料化すると、混雑がひどくなって社会的にはマイナス
>これは本当でしょうか?
高速道路=共有資源(非排除性、競合性)
ということでしょう。なんらおかしいことは無い。
> 8.umeharasatoruさん
「共有地の悲劇」(コモンズの悲劇)というやつでしょうか?
NHKの某庶民向け経済学番組で、1時間かけて覚えた単語なのですが、間違えてたらショックです。
>mshino3523さん
>労働法制や社会保障の薄い
>アジアの発展途上国が日本より貧しく医療も治安も悪い
おっしゃる事とは反対に、歴史を鑑みれば規制と再分配を重視した社会主義国がその他の国に比べて圧倒的に進歩が遅れたのは周知の事実です。
例えばインド人は教育も健康保険も私企業に頼っている状態ですが、弊害を身にしみて分かっているから政府に何とかしろとは言わない。殊にmshino3523さんのような言説は冷笑されるでしょうね。
>歴史を鑑みれば規制と再分配を重視した社会主義国がその他の国に比べて
>圧倒的に進歩が遅れたのは周知の事実です。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/4666.html
所得再配分の国際比較
なら再分配による格差是正効果を、日本と欧米で比較してみましょうか?
>殊にmshino3523さんのような言説は冷笑されるでしょうね。
インドの平均寿命や識字率を眺めているとそんなふうに感じられますかねぇ・・・・
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1620.html
世界の平均寿命ランキング(149カ国比較)
http://www.indokeizai.com/local/pop/literates.html
(出所:インド政府 2001census)識字率
> 本書のようにわかりやすく問題を解説することが経済学者の大事な仕事である。
そうだと思います。
しかし、政治家は票を取るのが本当の仕事なので、いくら政治家に説教しても、投票する側の民衆が間違った判断をすると政治は変わりません。
ですから、池田先生の仕事として期待するのは、このブログよりもさらに難易度の低い、誰にでも分かる「バラマキの危険性」「既得権を守ることの間違い」というようなメッセージの発信です。
国の借金を積み上げていくのは若者や子供のリスクを増やしているので、彼らや子供の親に対して身の危険を教えるのが良いのではないでしょうか。
>なら再分配による格差是正効果を、日本と欧米で比較
再分配を盛んにすれば、格差は「是正」しますよね。それが何?なにか反論になってますか?問題は分配ではなく成長への影響でしょ?
労働・資本規制を強めれば案に反して経済的成長を妨げるのがアジアを含めこれまでの歴史で起こってきた事ですし、経済学の理論でも説明されているのはこのブログでも再三出てきているはず。
唯一「あり」なのは、財閥解体や独占禁止のような「競争を促す規制」でしょうね。
繰り返しになりますが、過去に社会主義的制度でやっていこうとしたインド人達はその弊害を身にしみて感じていますから、政府の経済への干渉を最小にしようとしていますね。
殊にmshino3523さんのような言説は冷笑されると思います。
年収800万ぐらいの私の知り合いのインド人も「あの変な日本の健康保険は払わないわけにいかないのか?詐欺じゃないのか?」と怒ってました(笑)
感覚的にはこんなところが国際標準なんじゃないですか(笑)