池田信夫 blog

Part 2

2009年12月31日 10:11
経済

「失われた20年」が終わる

1990年のバブル崩壊から始まった「失われた20年」が今日で終わるが、日本の衰退はまだ終わりそうにない。Economist誌が、その教訓を論じている。

今回の金融危機に際して、欧米諸国が日本の失敗からまず学んだのは、バブルが崩壊したら即座に思い切って流動性を供給するということだった。90年代の初め、資産価格が急落し始めてからも、バブル再発を懸念して日銀は思い切った金融緩和に踏み切らなかった。これに対して今回、欧米が一致して大幅な金融緩和や資本注入に踏み切った背景には、日本という偉大な教師の存在があった。この意味では、われわれのつらい経験も、世界経済に一定の貢献はしたようだ。

しかし金融危機の次には、財政危機がやってくる。早くもギリシャでは、国債の格付けが引き下げられ、債務不履行の危機が取り沙汰されている。もしもギリシャの財政が破綻すると、他の巨大な政府債務を抱える国の国債が売られ、ギリシャが「財政危機のリーマンブラザーズ」になる懸念もある。巨額の金融資産をもつ日本には対外債務の心配はないが、政府債務がGDP比110%しかないギリシャで起こったことが、200%に迫る日本で起こらない保証はない。

他方、教師より生徒のほうがすぐれている点もある。日本の危機の本質は不良債権ではなく、労働市場や資本市場が硬直的で、グローバル化やデジタル化などの新しい潮流に対応する産業構造の転換ができないことにある。この点で、政治と利益団体が一体化して規制改革に対する政治的抵抗がきわめて強い日本よりも、欧米諸国のほうが構造改革に取り組みやすい。

これが世界の常識的な考え方である(経済学者の大部分も同意するだろう)。日本の直面する最大の問題は所得格差でもデフレでもなく、生産要素を再配分する市場メカニズムが機能しないために生じた効率(生産性)の低下なのだ。潜在成長率は、最近の推計では0.5%に低下している。こんな状況で「名目3%成長」という非現実的な数値目標を掲げ、この20年の教訓に学ばないで「市場原理主義」を否定し、「人間のための経済」とかいう無内容な政策を掲げる鳩山首相が退場しないかぎり、日本の失われた歳月は終わらないだろう。

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トラックバック一覧

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コメント一覧

  1. 1.
    • hiratayukai
    • 2009年12月31日 10:50

    滅び行く「大日本帝国」最期の象徴であった戦艦「大和」が沈んでいく様を粛々と眺めるしかないのです。
    これが変われない民族の「限界」なのですよ。

  2. 2.
    • zushitaka
    • 2009年12月31日 12:34

    日本の労働・資本市場を、香港やシンガポール程度に自由化するだけで日本経済は劇的に変わると思うのですが、それに反対する抵抗勢力軍団(組合とマスコミ)は以下の理屈で反対するわけです。
    ①急速に治安が悪化し日本の共同体が壊れてしまう
    ②ハゲタカ資本に乗っ取られる
    ③失業が増え格差が拡大し中間層がいなくなる
    しかし、よく考えてみるとこれって逆なのではないでしょうか?労働市場の流動化によって経済は活性化し新たな雇用もうまれるし、グローバルな労働市場の自由化の加速により、今の幼稚な日本人よりも日本文化を大事にする大人の外国人もどんどん出てくる気がします。
    むしろ組合とかマスコミなどの一部の中高年の既得権層の身分保障のために①②③が進行してきた気がします。日本の課題は黒船のような外圧ではなく、組合やマスコミといった内圧をいかに退治するかという問題につきる気がします。今のまま放って置いたらかなり高い確率で日本の財政は破綻しその後は保護主義と国家社会主義と言論統制社会へ移行するでしょう。

  3. 3.
    • sshitaro
    • 2009年12月31日 13:58

    団塊の世代が政治と実業の中心から去らねばダメでしょうね。
    現行の日本の雇用制度にせよ政治の在り方にせよ、団塊の世代までで終了したのだと思います。
    大多数で「右肩が上がり」を支えていた文化が終焉したということです。
    これを叩き壊すところから2010年は始めねばならないでしょう。

  4. 4.
    • firefry_8255
    • 2009年12月31日 20:25

    ■欧州委:16カ国中半数が債務持続不能となる恐れも
    ttp://jp.wsj.com/Finance-Markets/Finance/node_17595

    ギリシャとスペインの格付けが引き下げられ、アイルランドと
    ポルトガル、英国(ユーロ圏外とフランスも格下げの可能性。
    スウェーデンはバルト三国関連の爆弾を抱えてサーブは消滅し
    ボルボも中国資本に買収されてしまいました。
    ドイツはマシだけど、加盟国間の不平等な負担やピンポイントの
    経済対策を取りにくいEUの構造的な問題も表面化しつつある。

    アジアを見ると、韓国が第8位の財閥錦湖アシアナグループの
    破綻を皮切りに今後厳しい状況になりそう。
    日中印については、書くまでもなく問題は色々あります。

    どこも景気の悪い話が多かった2009年でしたが、ラングブリッジの
    詩のように、同じ境遇にあっても、泥の地面しか見ない人になるか、
    星空も見る人になるか…という違いはあるのでしょう。
    安易な精神論に逃げたり、現実の問題に目を閉じるのもダメだけど
    日本のメディアが大好きな破滅悲観論に陥っちゃうのも滑稽な気はします。

    良い悪いは別として「日本はもうダメ。○○国を見習え!」は古来から
    の日本の伝統思想のような感じもしますが、最近の風潮を見ると英国や
    ドバイの次は、シンガポールがブームなんしょうか。

  5. 5.

    >1990年のバブル崩壊から始まった「失われた
    >20年」が今日で終わるが、日本の衰退はまだ
    >終わりそうにない。

    私が生まれ育った北九州市および筑豊はもっとも栄えた時期が戦中と戦後直後で高度経済成長時には廃れ、「失われた20年」どころか「失われた50年」くらいをやってます。ま、この状況をみるにリフレ論によるハイパーインフレなんてのはまだかわいい方で、「この重苦しい雰囲気が生まれて死ぬまで続く」というシナリオがもっとも恐ろしくもっともありえそうな筋書きかと思います。(北海道の産炭地もそうですかね)
    でも、インフラだけは過去の遺産と無駄な公共事業があるので"円"なんていうバカ高い通貨でなければ、立地的に見ても対中輸出に使えて便利なのにと感じるところです。

  6. 6.
    • saitamaken_soukashi
    • 2010年01月01日 11:39

    労働市場の自由化(雇用の流動化)という概念が、人によって異なる捉え方をされているように思います。それによって有能な人材がオールド・エコノミーに張り付けられて死蔵されるのを防いで産業構造を転換して生産性を高めようという人、それによって中高年ノンワーキング・リッチの既得権を壊して配分の見直しをしようという(自分もおこぼれにあずかれると思っている)人。池田さんは前者かと思います。

    10年前のいわゆるITバブルの頃、ITが生産性を高めるのだとすると何故(IT機器をぶっ壊そうという)ラッダイト運動が起こらないんだ?という議論がありました。あれから10年経って周回遅れの2週目に入っている日本は、実は見えない形でソフトにラッダイト運動が行われていたのかもと思いました。

    後者の行動のメンタリティは、文化大革命でインテリ層を打倒したり大学生を下放したりしていた人たちに近いと思います。

    それにしても日本では利害対立の構造が政治的に表面化しませんね。なぜ日本では政党が特定の層の利益を代表しようとしないのかつくづく不思議なんですが。ムラ社会に生きる人間の集団特性なんでしょうか?

  7. 7.
    • activeinvestors
    • 2010年01月02日 04:17

    細かい話で恐縮ですが、ギリシャのGDP比12%というのは、フローの赤字であり、日本のGDP比200%というのはストックの債務残高の話なので、この2つの数字を比較するのは適当ではないと思うのですが。

  8. 8.
    • ikedanobuo
    • 2010年01月02日 14:49

    ありがとう。ギリシャの政府債務はGDP比113%ですね。本文を訂正しました。

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